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美少女は邪教の教主様 -勇者が断罪にやってくる!?-  作者: 波留 六
おうち(教会)に帰ろう

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21.痩せていく集落

「ら、ラメール、足がプルプルするときの対処方法は……」


 リーセはわなわなと老婆のように足を震わせながら歩く。

 なんとか丘を越えたところだ。すぐに川に合流するかと思っていたが、道は水の音から遠ざかる方向へと進んでいた。


「そういうときは、荷物を下ろして座って休むしかない。多分、塩分が不足しているんだ。干し肉を食べろ。だが、飲み込むなよ。水と一緒に流し込むなんてもってのほかだ。内臓も弱っているんだ。できるだけかみ砕いて唾液と一緒に喉を通せ」

「この暑さなのよ! 口の中にはもう唾液なんて残っていないっ。それに、ラメールの言葉を聞いていると、なんだか頭もくらくらしてきた」

「それだけ、喋れるなら水分はまだ大丈夫だ。だが、水分はこまめにとっておけ。いいか、一気に飲むな。定期的に少しずつ飲み続けるんだ。口の中の水分を補給するように全体に行き渡らせてから嚥下しろという奴もいるが、それだと残った唾液も洗い流してしまい余計に喉が渇く。水が口内で唾液に変わることはない。内臓で吸収されたものが唾液になるんだ。まあ、この辺りの給水方法は諸説あって俺にもわからん。リーセも自分にあった給水方法を考えろ」

「もう私を干上がらせるための呪文にしか聞こえない。ノノ、助けて……」


 容赦なく降り注ぐ太陽とラメールの解説である。地面は赤茶け、背の低い灌木が点々と生えているだけで、日光を遮るものはない。時折吹きつける熱風もまた根こそぎ水分を奪い去っていく。

 リーセは水分を補給するとノノの方へと歩み寄る。

 フードの下の彼女の顔の汗の垂れたあとには干上がった塩の川ができていた。


「さすがに私も疲れてしまいました。ラメール様、一度休憩をしませんか?」

「そうだな。だが、もう少し下って行ったところに集落はあるはずなんだ」


 リーセは再びノノの顔を覗き込む。ノノは穏やかに微笑んでいるが、彼女が弱音をはいた記憶はない。


「ラメール、私は疲れた。集落なんか見えてこないし。この暑さで、もう滅んでいるかもしれない。そこの石に座って休憩しよう!」

「わかった。人が居なくなったという情報はないが、集落もどういう人が住んでいるか分からないからな。ここで、体力を回復させておこう」



 一行が休憩を終えて歩き始めると、すぐに木の櫓が見えた。先端には人の頭ほどの大きさの鐘が吊るされているのが見える。リーセは喜び勇んで歩き始めたが、そこからが長かった。再び彼女の足が老婆の足に変わる頃にようやく丸太で組まれた集落の入り口にたどり着く。集落は十件ほどの木の家が点在する。どれもくたびれているように見えた。他には鶏や山羊などの家畜を飼っているようだ。

 集落全体は馬柵ませのような柵で囲まれている。

 その木の杭に禿鷲はげわしのような大きな鳥が止まっていた。彼女たちの視線に気づくと、ギャアと一鳴きをして飛び去って行った。


「泊めてもらえるように俺が村の人と話をつけてくる。お前たちはここで待っていろ」

「どうしてよ! みんなでお願いすればいいでしょっ」

「だめだ。お前は自分が一応は女であることを自覚しろ。なにかあったら逃げろ」

「どこに逃げるの? 逃げても追いつかれるに決まっている!」


 ラメールは背嚢を下ろすと、リーセの言葉を無視して柵の内側へと入っていってしまった。

 その背中にため息をついて、リーセとノノも背嚢を下ろした。


「生きている人はいるのでしょうか……」


 死んだように静まり返る集落をみて、ノノは不安を隠さずに声を出した。


「狩りや採集に出かけているだけでしょ?」

「留守番がいないのはおかしいです。そして静かすぎます。なにか事件があったのではないでしょうか……」

「きっと午睡をとっているだけでしょ? 暑いし……」


 パタパタと手であおいでも送られてくるのは熱風だった。バサバサとローブを揺すって中の熱気を逃そうとするも、入れ替わりに入ってくる空気もまた熱気だった。

 せめて木陰のあるところで休憩をしたい。そう思って周囲を眺めていると、ラメールと入れ違いになって村人が現れた。腰の曲がった老婆である。


「こ、こんにちは」


 リーセはできるだけ愛想よくしようとするが、ノノの不安がった様子が頭から離れない。彼女の笑顔は引きつったものになっていた。

 老婆は近づいてくると、見上げるようにしてリーセの顔を覗き込む。

 その目が見開かれ、小刻みに体全体を振わせ始めた。


「あ、あの……、昨日は軽く汗を拭いただけなんです。もしかして、ちょっと匂いますか……」

「ふ、フードを……」


 老婆の手が伸びてきた。助けを求めるようにノノに視線を送ると、彼女は胸に手を当てて祈るようにしてリーセを見つめていた。リーセは恐怖を感じたが、その手に触れられるぐらいならと、自らフードを脱いだ。


「お、おお……、その帽子、その錫杖、何より、そのお顔……」


 老婆は崩れ落ちるように膝を落とした。そして嗚咽を漏らして顔を伏せた。


「リーセ様……」



 そこは、ルセロ教会の信者が教会の巡礼者をもてなすために作られた集落だった。そこで暮らす人は全員がルセロ教の信者でもあった。

 リーセたちは歓迎を受けて集落で一泊をすることになった。

 老婆に教会に案内をされた。それは集落にある一番大きな建物であり、遠くから見えていた櫓のそばに建てられていた。外観は他の家と同様に木組みの建物であり、中も木の梁が剥き出しの質素な造りであった。集会場のような大広間となっており、壁には三人の女性の肖像画が飾られていたが、リーセとは似ても似つかぬもので、大聖堂の絵画のような想像は膨らまなかった。そして、奥にはまた木組みの祭壇が設けられている。

 大きな建物と言っても、大聖堂と比べるまでもなく、20人が詰めかけることもできないような大きさである。

 集落の者たちがそこに集まり、祭壇の前に立つリーセに向かって祈りを捧げていた。

 老婆に「教主自ら集落の者に星礼せいれいを与えて欲しい」と頼まれ、彼女はわけもわからないまま頷いた。星礼とは教主や枢機卿、司教が信者に対して神の加護を与え、そして霊魂の浄化を行う儀式のようだ。もちろん彼女にはどんな加護が神から与えられ、何が霊魂で何が浄化されるのかわからなかった。

 しかし、彼女は時々頬をかくも、すました顔でそれを受けている。


「リーセ様、これを」


 先ほどの老婆が木組みの桶を差し出してきた。その中は水で満たされているようだった。

 受け取っていいものなのかわからずに戸惑っていると、祈りを捧げていた者の一人が立ち上がりリーセの前で跪いた。

 リーセはますます戸惑い、ノノに視線を送る。彼女は人差し指と中指を立てて「桶の水を、前にいる人に」と指を動かす。リーセは頷いて、老婆から水桶を取り上げようとしたが、彼女は目を見張って渡すまいと抵抗をしてきた。少し変な気がしたがそういう儀式なのだと考え、少々乱暴に取り上げる。

 その拍子に水桶の水が波打ちこぼれそうになった。リーセは慌てて、前で祈りをささげる男に桶の水をかけた。その最中、男は頭を上げ大きく口を開きリーセを見つめる。まるで噴水で口から水をはいている石像の男みたいだと思いながら、最後の一滴は男の口の中に入るように桶を揺すった。


 無事に一人目の儀式が終わり、一息をついていると、全員がぽかんと口を開き、リーセを見つめていた。ノノを見ると彼女が一番大きな口をあんぐりと開いていた。

 リーセはすぐに自分が間違えていたことを知ったが、そもそもの正解がわからない。困り果てていると、「はっ」とノノの表情が変わった。


「り、リーセ様っ、本来ならリーセ様の行った本式な星礼せいれいをするべきですが、いつもの聖杯の水に指先をつけて、額にチョンとルセロ神の光を与える略式でよかったのです! ここでは、えっと、そうですね……、あ、そうそう、水は貴重なのです!」


 ノノは手をパタパタと動かしながら、ラメールを彷彿させるような早口で話した。それで、リーセも自分のしたことが誤りであり、正式な振る舞いがノノの言う略式であることを知った。


「ええ、ノノのいう通りでした。皆さんを困惑させてしまったことをお詫びいたします。次の方からは略式でさせていただきます」

「ま、待ってくださいっ。村には井戸があります。水の心配はないのです。ぜひ、全員に本式の星礼せいれいを与えてください」


 リーセは一人一人に水をぶっかけていった。もはや何の儀式なのか誰にも分からなくなっていたが、水をかける作業は思った以上に重労働だった。



 夜は肉料理が振舞われた。

 集落の広場で松明がたかれ、広げられた敷物の上に料理が並べられる。そこに座り、集落の人たちと一緒に食事をとった。

 肉は筋張っており、香辛料で味付けされていたが臭みが残っていた。エルクと呼ばれる大きな鹿の肉らしい。長い距離を歩いてきたにもかかわらず食欲はなかったが、エールを飲みながら、その肉をかみしめていると、どれだけでも食べられるような気がした。


「教会まで戻られるとのこと。本来なら活力を出すためにパンを出すべきなのですが、麦がなくパンが焼けないのです」

「そうなの?」


 リーセは深々と頭を下げる老婆に問いかける。彼女は上座に座らされ、老婆からの接待を受けていた。


「麦は、肉を燃焼させエネルギーに変える力がある」


 そういって、ラメールはエールを飲んだ。


「だけど、枢機卿のベルナール様と僧侶の方がこの集落に来られて、ルセロ教会の修繕の為といって集落のお金をもっていかれてしまいました。銀杯もなくなってしまい、街から麦を仕入れることができなくなってしまったのです」

「ベルナールが……」


 リーセがつぶやくと、老婆は慌てて手を振った。


「い、いえ、ルセロ神に寄進をするのは全くかまわないのです。お金は干し肉や毛皮を売りに行けばまた手に入ります」


 老婆はリーセのつぶやきを、喜捨を拒もうとする集落への非難と受け取ったようだ。


「ただ、私たちはルセロ神のお取り計らいで、魔物に襲われることはありません。ですが、魔物はエルクや野兎を襲います。私たちはリーセ様にお仕えして、この地をできるだけ長くお守りしたいのですが……」


 老婆の言葉を聞いて、ノノが顔を上げた。


「リーセ様、もちろん、すぐに収穫できるわけではありませんが、この集落で小麦を育ててみるのはいかがでしょう?」

「うーん……、無理じゃない?」

「どうしてでしょうか?」

「土がダメなの。小麦が育つためには土に栄養が必要なの。ここの大地は土というよりむしろ……」

「でも、木はたくさん生えています」

「木は根から有機酸というのを出して、土を無理やり溶かして必要な栄養分を吸い取っている。本来なら落ち葉が堆積して腐葉土となって土は養分をためていくのだけど……」

「けど?」

「ここに吹く風が全てを吹き飛ばしてしまっている。むしろ、それらが原因で余計に土地は痩せている」

「そうなのですか……」


 ノノは納得したようなしないような微妙な表情を浮かべ俯く。その隣で、ラメールはエールを飲む手を止めて、じっとリーセを見つめていた。


「なっ、何?」

「いや、お前も俺みたいな説明をするじゃないか?」

「え? ちゃんとわかりやすく説明したつもりだけど? それよりも自覚があるのなら、次からは優しく、わかりやすく説明して! 私はできる子だからっ」


 ラメールは肉を手で掴み上げるとかみついた。

読んでいただきありがとうございます。

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