アフターストーリー
閲覧ありがとうございます。
糖度高めです。苦手な方はご注意ください。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
セルヴァンと正式に婚約してから、数ヶ月。
……それなのに。
セルヴァンときたら、全然、手を出してこない。
いや、紳士的なのはいいことだと思う。
むしろ、過保護なくらいで、私の体調や気分を第一に考えてくれるのは本当にありがたい。
でも、でもね?
私がセルヴァンの元に行くと決めた、あの日。
あの馬車でした私からの“バードキス”を交わしてから、キスはおろか、ハグもろくにしていない。
手を繋ぐことはあるけれど、ほとんど私から。
そして繋げば最後、彼はそれだけで顔を真っ赤にして、称賛と賛辞のオンパレードで、こちらまで、照れてしまう。
……そんなセルヴァンが可愛い。
でも、違う。もっとこう、進展っていうか……
なんだか、自分が欲求不満みたいで恥ずかしいけれど、セルヴァンは、私と、恋人らしい触れ合い……したくないのかな?
「どうかしましたか?カティア。」
「ん……なんでもないの。」
問いかけには笑顔で、躱わしたけれど、内心では結構、真剣に悩んでいた。
セルヴァンの性格を考えれば、私から甘えるのはなかなかハードルが高い。
手を繋ぐくらいなら、「転びそうだったから」「人が多かったから」で誤魔化せる。
でも、それ以上となると……言い訳がない。
ジュリアンとの婚約は、政略結婚のようなものだったから、あの時は、相手に対して、そういう気持ちになったことがなかった。
でも今は、心も身体も“恋人”でいたいと思ってしまう。
だからーー。
「ねえ……今度、ふたりでお酒飲まない?」
「お酒、ですか?カティアはあまり得意ではないかと……」
「うん。社交界では、いつもノンアルコールで、飲む機会もあまりないし。たまにはいいかなって思って。」
セルヴァンは少し首を傾げたあと、にこりと笑った。
「……分かりました。貴女の望みを叶えるのが僕の使命ですから。貴女が気に入りそうなものを、いくつか用意しましょう。」
「ありがとう!」
ーーこうして、私の脳内では、『お酒に酔ったという大義名分で恋人らしいスキンシップをしよう大作戦』が密かに始動したのだった。
「甘口から辛口まで、いろいろ揃えてみました。少しずつ試してみましょう。炭酸や果実水で割ることもできますよ。」
セルヴァンはいつも通り完璧な準備を整えていた。
まさか私の下心に気づいているとは思えない。
作戦決行。まずは自然体でいこう。
「これ、美味しいかも。」
「それは微発泡のワインです。口当たりが良くて、普段ワインを飲まない方にも飲みやすいとか。」
「ふふ、本当に色々準備して調べてくれたのね。ナッツとか、ドライフルーツも美味しい。」
「カティアは、普段からあまり飲まないでしょう?無理はなさらずに。」
「大丈夫、大丈夫。ちょっとふわっとしてきたけど、いい気分。」
ほんのり火照る頬。
お酒の力で後押しされて、少しだけ勇気が湧いてきた。
「ねえ、セルヴァン。」
「はい?」
「私のこと、好き?」
問いかけると、セルヴァンはまばたきを止めたまま、じっと私を見つめる。
「……もちろん。僕は貴女のことしか考えていませんし、いつだって愛しています……そんなこと、改めて訊かれるなんて珍しいですね。なにか、不安にさせてしまいましたか?」
「じゃあ、ぎゅーってして。」
照れ隠しのような笑顔と一緒に、思い切ってお願いしてみた。
セルヴァンは、目を見開いて、一瞬固まり、頬を赤らめ、手で口元を覆う。
「カティア……酔ってますか?」
「酔ってないもん。ぎゅーして……お願い。」
袖をつかむと、彼の喉がかすかに動いた。
もうここまで来たら押し切るしかない。
思ったより子供っぽいお願いの仕方しかできなかったけど、男の人を誘うなんてことは人生で一度もしたことがないのだ。
素面では、こんなお願いとてもできない。
「……そんな可愛いお願いをされたら、断れるわけがないじゃないですか。」
セルヴァンは、ぎこちない動きで、まるで壊れ物を扱うようにそっと私を抱きしめた。
「えへへ……セルヴァンだ。あったかい……セルヴァンの香り……好き。」
「カティア、耳元でそんなこと……反則です……っ。」
耳まで真っ赤なセルヴァン。
ふわふわとした酔いに任せて、私はその赤くなった耳にそっと唇を寄せ、食んだ。
そして、柔らかく、囁くように。
「セルヴァン、大好き……」
「カティア……!」
聞いたこともない声が漏れる。
心臓の鼓動が互いに重なる。
セルヴァンが少しだけ体を引こうとするのを、私はそっと引き止めた。
「……離れちゃやだ。ねえ、キスして? セルヴァンから、キスしてほしいの。」
上目遣いで見上げながら、人生で初めての“おねだり”。
セルヴァンの瞳が揺れる。
「……今日のカティアは、甘えん坊さんですね。」
そう言いながら、彼の顔がゆっくりと近づいてくる。
唇が触れた瞬間、葡萄酒の甘い香りがふわりと鼻をくすぐった。
「ん……」
そっと肩に腕を回す。
軽く触れるだけのキスに、胸の奥が熱を帯びる。
啄むようなキスが、だんだん深くなるのを感じる。
そのまま、再び唇が重なりーー舌が、入ってきた。
「……っ」
初めての感覚。
知識としては知っていたけれど、こんなにも優しく、でも深く触れ合うものだなんて。
唇を重ねるたびに、音がやけにリアルに室内に響く。
戸惑いながらも、セルヴァンに倣って舌を動かす。セルヴァンの牙に触れる。
「っ……カティア、牙に触れると怪我しますから……」
セルヴァンが咄嗟に顔を離そうとするのを、カティアは再び自ら顔を近づけてキスをする。
壊れかけていた自分を救ってくれた牙だ。
牙すら愛おしい。
血が出ないように、舌で牙に触れる。
「……んぅ……セルヴァン……」
セルヴァンの片手がカティアの頬に、もう一方の手が背に回され、やがて腰に触れたところで、彼ははっとして動きを止めた。
「……これ以上はダメです。」
息を整えながら、セルヴァンが言う。
「お酒の勢いで、カティアとそれ以上のことはしたくありません。僕は……本気で貴女を大切にしたいんです。」
「……わかった。」
「お酒も、今日はお預けです。外で酔うなんて、想像しただけで怖い……カティア、今後お酒を飲むときは、僕と二人きりの時だけにしてください。」
ちょっとだけ眉を下げて見せる。
「セルヴァン……いやだった?」
「いやなわけ、ありません!むしろ破壊力がありすぎて……っ!ですから、酔ったカティアは僕の前でしか見せないでください……!いいですね!?」
私はくすっと笑った。
「うん。じゃあまた今度、二人で飲もうね?お酒は、セルヴァンとだけって決めたから。」
「はい……って、あれ? カティア?」
「なんか、初めてのことだらけで、緊張しちゃって……胸いっぱいで、眠くなってきちゃった……」
「……僕は、理性が崖っぷちで、心拍数がまだ正常値に戻ってきません。クラクラします……」
こうして、私たちの“はじめて”の夜は、優しくて甘くて、ちょっと恥ずかしい余韻を残しながら、静かに幕を閉じた。
でも、おそらく、恋人になるって、こういう出来事も積み重ねのうちの一つなのだと思う。
そして、たぶんまた近いうちに、”次”がある気がしている。
微睡みながら、私はそんなことを思った。
お読みいただきありがとうございます。
アフターストーリーまでお付き合いくださりありがとうございました。
12時にとある人物のサイドストーリーを投稿します。
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