ムカつくバカ兄王子が聖女様に婚約破棄して政治的自殺をしてくれたので、全てを美味しくいただきます♪
「ルシア! もう許さん! お前との婚約は破棄させてもらう!」
「なっ、なぜですか、アベル王子!」
今頃はそんな茶番が繰り広げられていることだろう。
王都にある由緒正しき学院の大広間。
まもなく卒業する最終学年の生徒達を労い、祝うための学院の正式な催しだ。
大勢の人が集まる中で、兄であり第一王子であるアベルは、自らの婚約者であり歴代最高の聖女と呼ばれているルシアというそれはもう美しい娘に婚約破棄を言い渡す。
ルシアは既に聖女として神殿内外で公式に活動していることもあり、学院に来る日は少ない。
にもかかわらず、婚約者のアベル王子が派手で人によっては美しいと称するエリゼ・ルペント男爵令嬢に嫉妬して嫌がらせをした。
そんなあり得ない話を強引に証言者を作って主張し、公式の催しの中で断罪する。
待っているのは、アベル王子とエリゼ・ルペント男爵令嬢の甘く美しい恋の物語、そして幸せな結婚生活……なんてことは、まぁあり得ない。
なにせ主張が穴だらけ……いや、そもそもでっち上げ……いや、正直言ってただの作り話だ。
公式の催しと言っても、国王陛下をはじめ大臣や将軍などの重鎮は誰もいない中でのこと。
それで乗り切れると踏んだのかな?
はっきり言ってバカだ。
きっと自殺願望でもあるんだろう。
実際、聖女ルシアとの婚約を破棄した時点で政治的には死ぬ。つまり政治的自殺を華々しくやったということだ。
バカすぎてウケる。
そして話を聞きつけた国王陛下は即座に王太子の撤回、アベル王子の廃嫡とエリゼ男爵令嬢との結婚と王家からの追放、結婚したての2人に多大なる損害賠償請求という流れになる。
幸せの絶頂で前日夜から燃え上がりまくってへとへとで迎えた朝の2人は国王陛下から大広間に呼び出され、決定事項を告げられて気絶。失禁していたので誰も触れたがらなかったが、可哀そうな役回りの騎士たちが連れ去っていく。
ん?
なんでお前がそんな話を知ってるんだって?
そもそもお前は誰だって?
俺は王国の第二王子であるロベルト。そう第二王子だ。
つまり通常なら第一王子のサブ、スペア、保険。なんでもいい。要するにそういう扱いを受ける悲しい立場の人間だ。 結婚した第一王子に男の子が無事誕生すればお役御免になることを理解しつつ、多少の金を貰いながら生き続ける人形だ。
通常ならな。
でも俺は知っている。
今しがた話した通り、バカ兄王子がこのあと自らのバカ丸出しな言動全てを補ってあまりある聖女様との結婚……それのおかげでバカなのに王太子でいられるという最強のカードを自ら手放してくれることを。
なにせここは"気分爽快・ざまぁの虜"というシミュレーションゲームの世界だ。
このゲームを妹にせっつかれてなぜかプレイした俺は、あまりにも酷いストーリーだったので記憶していた。ちなみに、前世は日本という国で育った俺には一人の妹がいて、ちょっとやってみてよと言われてやったのだ。流行ってるわけでも、めちゃくちゃ面白いわけでもないけど、友達から貰ったんだと。
怪しい響きのタイトルだったから俺にプレイさせたとか、『俺はお前の小間使いじゃねーんだよ!?』って怒ったものの、可愛い顔で『ありがとうお兄ちゃん♡』とか言われて撃沈したのは内緒だ。俺はシスコンじゃない。そもそもこんなゲーム誰に貰ったんだよ?
まぁいい。
今大事なのは俺が未来を知っているということだ。
そして、酷いかもしれないが、あえてそのストーリーを邪魔しなかったということだ。
むしろ、この流れを利用している。
もちろん、バカ兄王子にサヨナラして俺が王位を貰うためだ。
そして、最も大事なのはあの美しくお優しい聖女様を手に入れるためだ。
そのための準備はしてきた。
バカ兄王子や聖女様より1歳年下の俺は、その差を挽回するためにあえて学院には籍を置きつつも聖騎士を目指した。
なにせゲームはプレイしているからスキルや称号は取り放題だ。
王城や王都で起こる事件や事故も可能な限り対処した。
それによって国王陛下からも、大臣や将軍たちからも、王都のギルドからも、王都民からも、そして聖女様からの信頼を得た。
それが今日と明日で結実する。
愛しの聖女様に、茶番とはいえ婚約破棄などという恥ずかしいイベントを経験させるのは申し訳ないが、既に説明し謝罪済みだ。
そして今後俺が全力で挽回する。そう伝えたら赤い顔をしつつも、手を合わせてくれて、『嬉しいです♡』って言ってくれたんだ。
「その手を離せ、兄上……いや、元王子アベル!」
「ぐあぁ!」
俺は大広間に走り込み、聖女ルシア様の腕を不敬にも掴んだバカ兄のみぞおちを打つ。
「遅れてすみません、ルシア様。ヒール!」
そしてルシア様を抱きかかえ、距離を取り、即座に魔法で回復させる。
「ロベルト様。ありがとうございます」
ルシア様は俺に身を寄せ、怖かったのか頭を俺の胸に預けてくれる。
可愛すぎて死にそうです!
「ロベルト、きさま!?」
「騎士団よ! 聖女様に暴行を加えた不敬なるアベルを捕らえろ!」
「なっ、何をするお前たち!?」
「いや、なんで私まで!?」
なんとかルシア様の耳元に愛の言葉を囁くのを鉄の心で耐えた俺は、騎士団にアベルとエリゼを捕らえさせた。
既に王家から追放されて平民に落ちたアベルが聖女であり貴族の娘でもあるルシア様に狼藉を働けば、それは即刻罪になる。
本来ゲームでは追放され、開拓地に送られて死ぬまで働かされることになるわけだが、それすら生ぬるい。
バカ共は処刑でもされてろ。
ルシア様を学院に滞在している3年間にも渡って悲しませた罪を味わうといい。
「ロベルト、よくやった。それで聖女ルシア殿。婚約破棄からすぐに話すことではないのだが、政治的に国王として言わねばならん」
「はい……」
父上は覚悟を決めた表情でルシア様に告げる。
ルシア様は神妙な顔で答える。
あぁ、心臓が飛び出そうだ。
「あなたはその若さで国に、そして多くの民にとって多大なる貢献をした。多くのものを癒し、助けた。その功績は大きく、その名声は素晴らしい」
「はい……」
ドキドキする。
「そんなあなたに対して悪辣な行動を余の息子が取ったことを謝罪する」
「お受けします」
うんうん。
国王を見つめながら頷くルシア様の髪がさらさらと流れるのがとっても綺麗だ。
「その上であなたに願う。既に廃嫡したアベルの件は謝罪を受けて頂いたということで、どうだろうか。我が王太子であるロベルトと婚約……いや、結婚してもらえないだろうか? そうすれば……」
「私からもお願いします。ルシア様。私は今後、誠実に、そして力の限りあなたを守ります。どうか私に力を貸してください。私はいずれ王となり、この国を照らす太陽として誠心誠意努めますが、その中でもあなたを愛し、大切にすることを誓います。どうか私と結婚してください」
いてもたってもいられなくなって父である国王陛下の言葉を切ってしまった不敬については容赦してほしい。
だけど、これは言いたかったんだ。
この国では王族の婚約や結婚は国王の専権事項ではあるが、一人の人間として聖女ルシア様を大事に思っていることをちゃんと伝えたかった。
そしてそれを父を始め、大臣や将軍たちにも聞かせたかった。
そうすることがルシア様に対する自分の覚悟だから。
「はい、ロベルト様。不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。あなたを一生愛します♡」
いえぇぇぇええぇぇぇぇえええええええええええい!!!!!!!!