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ラウスという名の秘密


私は本の余韻に浸っていた。だけど確認する事はまだある。


そう、ハーフエルフの寿命についてだ。

歴史だけじゃない。


私は深く深呼吸をして、続きを読み始めた。


エルフの女王と勇者の恋仲を噂に聞いていたのだろうか?


それとも…人間とエルフの関係性を崩壊させる為か?


人間とエルフの間の子供が死ぬよう、魔王が呪いを掛けたのだ。


それとも両方だろうか? 魔王の抱いた憎しみの力が、後世まで人間とエルフの仲にわだかまりを残した。


当然だろう…子孫が残せない。これは相当根深いものがある。


私はこの呪いを解く術をエルフの女王から頼まれ、仲間と共に研究を始めた。


だが、何の成果も得られなかった。あまりにも魔王の呪いは強力だった。


恐らく本人……つまり魔王にしか解除出来ないのだろう。


暗礁に乗り上げたが、私は1つの方法を編み出した。


それはハーフエルフに封印魔法を施すことだった。


もちろん時間稼ぎにしかならない。だが、未来に期待するしかないのであれば、それが最良の方法。


いや、最良の方法は魔王に封印を解除してもらうことだと、誰も口に出さなかったが理解していた。


そうなんだ…私は本を読むのを一旦止め、深く目をつぶった。


何故魔王は封印をかけたのかな? その理由が分かれば良いんだけど…復讐心かな、やっぱり。


でもそんなこと出来るのが、怖いなと私は幽霊に肌を触れた気分になった。それは魔王の気配かもしれないのだ。


私は自分の手を鼓舞するように撫でて、視線を本に移した。


封印魔法は300年は保つ。だが、それ以上はその体が呪いに馴染み、封印に抗体を持つようになってしまう。再び封じることなど、もはや叶わない。私は絶望を感じたが……しかし、同時に未来への希望も抱いた。

 

それはいつの日か……誰かがこの呪いに終止符を打つと、それが来る日が必ず来ると私は考えたからだ。


だが、読者はこう思うかもしれない。

なぜ、ハーフエルフの寿命に熱心に取り組むか、疑問に思っているだろう。


それはやはり彼女への愛……それが全てだ。だからこそ分かるのだ。愛の力で魔王の呪いを打ち破る日が来ると。


私はそっと本を閉じた。


静まり返る図書館が、知的な空間を作っていて、考えろと促してるように思えた。

 

そっか…このラウスって人そんなに彼女に恋しちゃったんだ。


私もそんな熱い恋がしたいな…って感情移入し過ぎだよね私。


この人に会って話を聞いてみたい。けどもう亡くなってるよね。


でも、もしこの人も封印魔法自分に使ってたら? その可能性はあるよね? だって未来に人に頼るだけの人じゃないもの。しっかり自分で行動してる。


私は席を立ち、読後の余韻に浸りながら、胸の高鳴りを抑えるよう、そっと胸に本を抱に抱えた。


ラウスという人物が、まだ生きてるかもしれない…。


その希望が背中を押し、まるで魔法の靴を履いたかのように、軽やかに歩み出した。

 

「返却、お願いします」


カウンター越しに微笑むメイリン。

彼女のお陰でこの本に逢えたことを…心から感謝して本を差し出す。

 

本当の目的は、返却じゃない。


「変なこと聞きますけど、この本を書いたラウスって人、今も……どこかに生きてる可能性って、ありますか? 直接お会いして、訪ねたいことがあります。」


メイリンが少し目を見開き、本の背表紙にそっと手を置いた。


「…この著書ね…勇者パーティの1人。生きてるけど、会いたくなりました?」


「はい。エルフの女王に恋した彼に興味が出ました。やっぱり生きてるのですね? でも、何処に居るのかは、さすがに教えてはくれませんよね?」


私は両手を合わせ、彼女の優しさに少し甘えるように頼んだ。

 

断られても納得できる。けれど、メイリンの瞳に……どこか特別な信頼を感じた。

 

「そうね、プライバシーの問題あるから……でも、私は知り合いなの。今度彼女に相談して会ってもいいか聞いてみるわね。」


……私は、違和感を覚えた。


言い間違い? 今彼女って言わなかったろうか?


本の中でラウスは、エルフの女王に恋してたって書いてたはず。それなのに…でもそれは思い込み?


よく考えたら、エルフの女王に恋してますなんて、検閲で通るはずないものね。でも同性だったら? 可愛いな…ぐらいで許されるわよね。


 

私はメイリンに尋ねた。「さっき言ってた“彼女”って……この本の作者のことですか?』


指先でそっと本を示しながら言う。驚きで、唇がわずかに乾いていた。


「ふふ、口が滑っちゃった。そう、彼女よ。ドワーフで天才なの…変わり者ですけどね。」


その言葉に、私は思わず身を乗り出した。会えたなら、呪いを解く方法を一緒に編み出せるかもしれない――そんな希望が頭によぎった。


「会ってみたいです。その人に……ラウス嬢に。」


メイリンはにっこりと微笑むと、任せてとトンと胸を叩いて見せた。


「……でも、アリシア不思議ね。若そうに見えるのに…大人の女性って感じがするほどよ?」


14歳では…ないものね。

なんて誤魔化そう? 転生して体を乗っとたなんて、正直者でもそう簡単に言える話じゃない。


頭のおかしい人だと思われる――だって私と彼女とは、今日会ったばかりだもの。


「それは私にも分かりません。でも、読書のお陰かもしれませんね。」


メイリンが穏やかに頷いた。


「分かったわ。ラウスに連絡は取ってみる。でも期待し過ぎないでね。」


「ありがとうございます。それでも充分です。」


私は軽く頭を下げた。


会えた時のことを考えないと。何を聞くかをしっかり予習しよう。


呪いのこと、それに…その前に、今日アリシアの母に確かめたいことがある。

 

私はメイリンに手を振って、図書館を後にした。

 


 

 

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