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本の囁き、歪む記憶


図書館に到着した。

屋根は薄緑色に染まり、柔らかな空の青と混ざり合うように重なって見えた。

それはまるで、私の魂とアリシアの肉体が一つになっている今の姿と、どこか重なって見えた。


屋根の頂には、黄金色のフィニアルが空を突き抜けるように佇んでいた。

まるで【知識で困難を突き破れ】と語りかけてくるかのように。



図書館の重厚な飛びを前に、私は緊張を振り払うように、軽く小さく息を吐いた。  


指先をドアノブにかけると、冷えた感触が伝わり、転生後のお出かけで昂った感情を冷やした。


ゆっくりと扉を押し開け、中へと足を踏み入れた。


視界に広がるのは、整然と並ぶ書棚の美しさ。

まるで華麗に形作られた工芸品のよう。思わず目を惹かれる。差し込む陽光が別世界の神殿のように神々しく、その光景に思わず静かに息を呑んだ。


本の香りと、木のぬくもりに包まれた閑静の中、歩みを進めるたび…床板がほんの少し軋む。


…その音に反応するように、奥の方から微かに気配が近づいてくる。


足音に耳を澄ます。コツコツとゆっくりと、こちらに向かっている。


書棚の隙間から1人の女性が現れた。


私に気がつくと、その人は頭を下げて柔らかな微笑みを浮かべた。まるで聖母のように濁りがない。子供もでさえ、その笑みを向けられたら心を許すだろう。


「ごゆっくりどうぞ。お探しの本が見つからなければ、なんでも聞いてくださいね。」


深みのある親身な声が、私の耳を優しく包むようだった。

図書館の温度や空気が不思議と心地良く感じられた。


私は早速彼女に、ハーフエルフの寿命に対する研究と、この世界の歴史について書かれている本を尋ねた。


「…それでしたら、少しお待ちください。」


丁寧で、落ち着きを感じさせる司書の方に、私は信頼を寄せて頼んだのだ。


彼女は密かに目を細めて、思い出すように小さく頷いた。


私はソワソワしながら待った。活字中毒だろうか? 待っている間、棚の本を軽く指でなぞった。


読みたいという渇望に襲われる。あれだけ人を好きだった私が、人より本を愛するようになったのは、いつぐらいからだろう?


ふと、視線を止めた。ある本のタイトルが気になったのだ。


異世界は存在する。


一瞬、胸の奥がざわつく。

誰かが私に語りかけている…それは錯覚だと分かっても、心臓の高鳴りは抑えられない。


この本は…オカルト物かもしれない…でも私にとって重要な一冊…かも。


必ず借りる……そう心に誓った。


「その本…気になりますか? でもその本はごめんなさい。エルフの女王様の許可が無いと、貸し出しも開けもしないんです。」


彼女が残念そうに声をかけた。



それなら、どうしてここにあるのだろう? 禁書だとしたら、この本は間違いなく本物。


…もしかしたら、元の世界に戻れたり…アリシアが蘇ってくれたりしないだろうか?


疑問が次々に滝のように流れ込んでくる。


でも…アリシアが仮に生き返ったら、私はどうなる? 死ぬのだろうかと…手が小刻みに振るえてきた。


必死にその考えを振り払って視線を上げると、彼女が戸惑ったように眉をひそめていた。



本を持っている彼女にお礼を言って、受け取る。


「あれ? 一冊?」


「ええ、この本には歴史とエルフのハーフの寿命の謎2つが揃ってる神の一冊です。」


なるほど、さすが司書。私は、彼女の能力に敬意を表した。


なら、質問させてもらわないといけない。


「この本…どうして禁書なのに置いてあるんですか?」


「その本は、禁書というわけでは…この前も借りた人がいますよ…許可さえもらえれば…女王様の顔見知りじゃないと無理ですが。」


「その借りた人にお願いして許可貰えれば、借りれますよね?

教えていただけないでしょうか?」


彼女は顔を振り私の申し出を断った。


「申し訳ありませんが、守秘義務なので名前は教えることは出来ません…ただ…借りた人は、あなたと似た雰囲気を持っていたように感じました。もしかしたら…いえ…これ以上は、ごめんなさい。」



似た雰囲気…? そもそも…女王に借りれる人なんて、余程の人だよね。すると、エルフ…だよね…まさかアリシアの母? 


あり得る…そんな…だとしたら、私を召喚したのはアリシアの母? 


確認しなければ…もしそうなら、何故私を呼んだか、問いたださなければ。


もっとも何も証拠はない。私の推測に過ぎない。


「そうだ、名前を確認しないと!」


私は声を荒げて言った。

その異世界は存在するの、作者の名前を確認しよう。


「名前ですか? 私はメイリンです。」

司書の彼女が礼儀正しく言った。


私は一瞬きょとんとして、彼女に視線を合わせた。違うんだけど、私も挨拶を返さなければ。


「私はアリシアです、本ありがとうございます。」


本を持ち上げて言った。


メイリンがどういたしましてと言って、誰かに呼ばれてその人の方へ歩き出した。


その背中を見送って、私は再び視線を本の表紙に戻した。


著者名レオンハルト・セラフィム…随分高貴な名前だな…ちょっと…待って。


勇者様の名前じゃない…そっか…だとしたら、本当に呼べる方法が書いてあるのでは?


私が呼ばれたのは、偶然じゃないかも…この本を読んだ人が私を召喚したのかもしれない。



私はその本を名残惜しく感じつつ、メイリンから受け取った本を読む事にして、図書館の席に座った。



私はエルフの歴史の本を読み始めた。

著者ラウス・セリオン

タイトル…エルフと人間その真実の愛とは?


魔王を討伐した人間の勇者と女王エルフは恋仲だった…なるほど。


私は頷きながら、本に見入った。



その後、勇者は人間の王にエルフ討伐を命じられて、女王エルフと対立することになった。


これは……つらい…なんてことなの。私は口元を手で塞いで言葉を失った。


だが女王エルフは、人間の勇者を説得。


人間の勇者は王を説得すべく馬を走らせた。


しかし勇者は王に首を刎ねられ…それが女王エルフの逆鱗に触れた。


だがそれは全て王が仕組んだ事だった。


王が勇者を亡き者にする為の打算的行動だった。しかし…王の誤算はエルフの女王の実力を見誤った事。


当然だ…魔王は王の軍団より強い。その魔王を倒した勇者パーティはそれ以上。


勇者が何故抵抗しなかったのか? 恐らく、エルフの女王との対立にこれ以上心が保たなかったのだろう。


人間を裏切ってエルフにつけば親が代わりに死罪にされると判断したのだろう。



エルフの女王への推測だが…人間を全滅させようと思えば出来たはず…しなかったのは、二つの理由が考えられる。一つは、勇者が人間だった事だ。


やはり人間の可能性に芽を積むことはしたくなかったと、想像出来る。人間である勇者を、愛していた事への情かもしれない。


本を巡る手に力が籠る。内容の一文を大切に拾いながら、私は作者の想いを受け止める。


時折りインクの匂いが鼻を突く。それすら邪魔なのではなく、記憶が残っていることの…本の存在証明だと私は深く感じ取る。


もう一つの理由は、エルフの女王には、妹がいた。その妹に人間全滅を反対されたのだ。


その妹は、エルフとの関係悪化により出奔。現在もって行方が分からない。


我が友勇者と、私の密かな恋心をエルフの女王である貴女に送る。


私は勇者パーティの1人だった。そして

…人間でも、エルフでもない私は中立を保てる。


一瞬だが…勇者が亡くなって、私は喜んだ…その罪悪感から、私はこの本を書き始めた。


2人への謝罪…懺悔しても…し尽くせない。


この本が最悪な結末にならないよう、読者諸君に頼みたい。女王を救ってくれと。



ちょっと待って…私のアリシアの記憶と違う。

エルフが先に人間を裏切って攻撃したはず。


人間が先に攻撃仕掛けた事になってる…どういうこと? 


アリシアの母親に…帰って確認しなければ。

…彼女から伝えられた記憶なのだから。




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