霧に閉ざされた村
もしよかったらゆっくり読んでください
夜風村の神社の前で、不気味な声を聞いた春香とタカシ。
しかし、恐怖に包まれながらも、春香はなぜか神社の奥へと引き寄せられるように一歩を踏み出した。
タカシが腕を掴もうとした瞬間、彼の身体が霧に飲まれるように薄れ、ふっと消えてしまった。
「タカシ?」春香が叫んだが、そこにはもはや彼の姿はなかった。
ただ、神社の奥から誰かの囁き声が春香を誘っているように響いてくる。
やむを得ず、春香は神社の中へ足を踏み入れた。
そこには朽ち果てた祭壇があり、古びたお札が所狭しと張り巡らされていた。
その瞬間、背後で扉が勢いよく閉まり、村全体が深い沈黙に包まれた。
気がつけば、春香の周りには村の住人らしき人影が立ち並んでいた。
しかし、彼らの顔はどれもぼんやりと霧の中に溶け込み、まるで人間ではない何かに見えた。
「ここで…みんな、死んだのよ…」
静かな声が春香の耳元でささやく。
その声はすでに死者となった村人の一人、タカシのものだった。
目の前に姿を現した彼の顔は青白く、目には光がない。
「逃げることなんて、できない。ここで死ぬんだ。僕と一緒に…」
春香は逃げ出そうとしたが、神社の扉は固く閉ざされていた。
さらに周りに立つ人影が次第に霧の中から現れ、彼女を取り囲んでいく。
無数の青白い顔がこちらをじっと見つめている。
すでにこの村に取り込まれた彼らが、次々と春香に手を伸ばしていた。
次の瞬間、春香の目に映るのは、彼らと同じく青白い自分の手だった。
そして、彼女の意識が薄れていく中、静かに笑う村人たちが最後の光景として目に映った。
春香は永遠に夜風村の一員となり、訪れた者を闇へ引き込む者として新たな村人たちと共に立っていた。
そして、その村には今も霧が立ちこめ、次の“客”を待ち続けている。
読んで頂きありがとうございました
もしよかったら別の作品も読んでみてください