兄/姉という生き物は
三人称視点です。
「これより、八世通波救出作戦会議を始める」
晴明神社前から本部へ帰還したレイヴンたちは、その約五分後に救出のための作戦会議を開始した。
会議参加者はレイヴン、オウルのトップ二名、元花、セレネ、赤川の事前調査メンバー、そしてライズと召の参加が確定している二名の計七名だ。
なお、ライズと召は牢から出すわけには行かないためリモートで参加している。
「それと、八世通波との通信中に何者かに遮られたため相手にこちらの存在がバレたという前提で動く。そのため相手に対策されないよう作戦が決まり次第速攻で救出に向かうぞ」
『ちょっと、通波は無事なんでしょうね?!』
「通信が切れる瞬間にうめき声が聞こえたから少なからず命は無事だろう。ただ、こちらからの通信手段が無い上通波も通信がバレてできないだろうから無事を確認する手段が無いがな。それでは元花、鳥居の先の空間…面倒だから今後異界っていうぞ、その説明を頼む」
「は、はい!」
いきなり指名された元花は驚いたが、なんとか持ち直して説明を始める。
「鳥居から出て目の前にあったのは清明神社でした、周りには何もなく空に神社しかない島が浮いているという感じです。しかし内装は外見とは異なりとても広かったです。そして仕組みは不明ですが中を通じて他の神社への移動が可能でした、実際私は諏訪大社や八坂神社へ出てしまいましたし」
「じゃあ理論上は他の神社からもあの空間へは行けるのか?」
「どうでしょう、私はセレネさんほど火力のある攻撃は出来ないので試してないですね」
「とはいえ試して失敗でもしたら神社破壊とかいう究極の罰当たりになっちまうし…」
『別に破壊しても問題ないのではないか?神社というものがどのような物かわからんが』
「バカ言えライズ!神社破壊は異世界でいう教会破壊と等しい行為だぞ!」
『!、そうか、失礼なことを言った』
「別にいいって、神社がどういう施設か知らなければ当然考えつくことだ。…仕方ない、やりたくないけど今回は正面突破で行くぞ。破壊して祟られても面倒だしな」
魔法という魔法少女出現前のオカルトが実在する以上、神が実在しないとは言い切れない。その上、異世界を創造したというこちらの世界のギリシャ神話では登場しない三柱の神話が神の存在を肯定する一押しになっている。
そして仮に神が存在し神社を破壊してしまった場合、末路は想像に難くない。
「元花、他に異界について言うことあるか?」
「じつは…異界よりヤバそうな報告が一つだけあります、神社の中に沢山の部屋があったのですがそこに武器が保管されていました」
「武器?神具とかじゃなくて?」
「あれは絶対神具なんかじゃありませんオウルさん!ライズの書いた魔力操作につての報告書を読んで少しは魔力を感じられるようになったのですが、そんな私でも一目見ただけでアレはヤバいと感じられる物でした。しかもそのような物が一つ二つでなく大量に!あんな物まともに食らったら私でも死にかねません!」
元花の報告に会議室が静まり返る。元花の再生力は聖魔連合でオウルの再生やセイの回復魔法と並んでトップクラスだ。そんな元花でも死にかねない武器、それは救出作戦にとってとてつもない脅威になるであろうことは予想に難くない。
そして、それは救出作戦の実行をためらうには十分すぎる理由だ。
『レイヴン、あなたたちが行かないなら私とライズだけ転送して』
しかし、召の一言が会議を動かす。
「理由を聞いても?」
『今度こそは通波を守り助ける。あなたも妹がいるならわかるでしょ?』
「…当てつけのつもりか?」
以前召に対してレイヴンが似たようなことを言ったが、今回は立場が逆になっていた。
「はぁ…、どのみち行くことは確定事項だ。元花、他に報告することはあるか?」
「あ、いえ。これで報告は以上です」
「そうか。…ここにいる全員腹くくれ、危険だが通波の救出作戦を実行するぞ。オウル。なんか意見あるか?」
「ないよ、それに兄さんが実行指示を出す判断ができないようだったら私が実行指示を出すつもりだったし」
『通波を救出してくれるの?』
「もともとそういう取り引きだろ。それに通波を魔法少女連盟から引き離さないとこっちに情報が筒抜けになる可能性がゼロじゃないからな」
「私は同情心から協力したいと思ったからだよ、魔法少女に被害を受けた者同士だからかな」
そして、口には出していないが召の一言が最後の一押しだった。レイブンにも妹がいるため召の気持ちが理解できた。下の子のために動く兄や姉は強い、そしてどんな無茶なことであっても実行してしまう。
『何だってやってやる』、そんな気迫を今の召から画面越しにでも感じられた。
「さて、今回の目的だが天の声こと八世通波の救出だ。通波は鳥居の先の異界にいる。キャットガールが先んじて調査したが八世通波は発見できず、そしてキャットガールでもまともに食らえば死亡する恐れのある武器が多数見つかった。この情報を基に作戦を立てる」
今回の作戦参加者は七名。場所が異界でありヤバい武器が多数存在する以上、全員で突入するわけにはいかない。
「とりあえず異界に突入するメンバーは私、兄さん、召さん、ライズさん、キャットガールの分身かな」
「まあそうなるだろうな、幹部以外のメンバーを今回は参加させるわけにはいかないし」
召とライズは最前線へ行くことは事前に確定している上にアンデッド特有の不死性、レイヴンはテレポートでの緊急離脱が可能、オウルは武器の直撃さえ気を付ければ異次元の生命力で生き残れる、キャットガールは本体さえ無事ならどうとでもなる。
以上の理由により突入メンバーは半ば消去法で決定した。
「セレネは異界の入口をこじ開けるのとその場所の守護を頼みたい。キャットガールの話では他の神社への移動も可能らしいがもし他神社への脱出が封じられた場合は清明神社へ戻るか俺のワープゲートで脱出しなくちゃいけなくなる。けど異界ゆえワープゲートが正常に起動するかわからないからもしもの時の保険だ」
「承知いたしました」
「赤川とキャットガールの本体はセレネの護衛だ。かなり魔法少女が減ったとはいえいなくなったわけじゃない、気を付けるように」
「たしかに戦闘はしなかったが魔法少女は見かけたな」
「戦闘にならなかったのは幸運でした」
なお、戦闘に発展しなかった要因は事前調査メンバーが一般人に溶け込むことに徹していたためである。普通に見てわかる魔法を使用していた場合は戦闘になったいた。
「あ、そうえば赤川くんって本名で読んでるけど問題ないの、バレたら面倒じゃない?」
「確かに活動名がなかったな。赤川、何か案あるか?」
「そうだな…じゃあ安直だがブラッドで」
『あれ、それなら私も何か考えた方がいい?』
「あ~言ってなかったが八世召って人間のデータがどうやったのか知らんが消えてたんだ。まあ単純にガチガチに秘匿されてるだけかもしれないが、どちらにせよバレる心配はない。それとも顔を見られただけでバレるような人でもいるのか?」
『…いないわね』
「…なら問題ないだろ」
「あ、八世家の闇は無視するのね」
一瞬垣間見えた八世家の闇をレイヴンは完全無視することにした。
「それとキャットガール、もし通波対策で電波をシャットアウトできた場合、ついでに通信機が使えなくなる可能性がある。そうなったらお前の魔法であるデータバンクによる通信が頼りだ、もしもの時は頑張ってくれ」
「は、はい!頑張ります!」
原理としては、データバンク魔法の効果によりキャットガールの本体は分身体が感じた音や光といったあらゆるデータを共有することができ、その逆で本体のデータも分身体と共有することができる。
この特性を利用して、異界にいる分身体に外部に伝えたいことを伝言する、するとその伝言はデータバンク魔法の効果により外部にいる本体に共有される、この共有された伝言を外部の人物に伝えるというものだ。
この方法は魂を介して行われるため妨害される心配はない。
「突入するメンバーは八世通波を確保し次第情報を共有しろ、そうしたらすぐさま脱出する。作戦と言うにはガバガバすぎるが正直相手の情報が無いため対策のしようがない。強いて言うならキャットガールは相手を錯乱させるように動いてほしい、救出は他メンバーで行う。外部待機組は突入メンバーに対する外部からの妨害を阻止してほし。以上が作戦概要だ、かなりガバガバだが他に案はあるか?」
『もし八世通波の通信を切ったと思われる魔法少女と接敵した場合はどうすればよい?』
「もし接敵した場合は八世通波救出の障害になる場合以外は逃げ一択だな、相手する理由がない。ライズ以外に質問はあるか?…ないみたいだな。それじゃあ少し準備させてくれ」
そうしてレイヴンは持っていた鴉の羽があしらわれたブレスレットを身に着ける。
「レイブンそれは?」
「これか、これは魔法少女の変身アイテムみたいなもんだ。菫の大鎌や民守さんの盾と同じ役割の物だな、俺のはオウルと同じブレスレットだったが」
「確かに聴聞会のレポートに書いてあったな。まだ俺と苗…キャットガールは試してないけど」
「じゃあ今試すぞ。変身するといろいろメリットあるからな」
具体的には身体能力向上、魔力効率アップ、装備としての機能などだ。
「二人はアイテム何だったの?」
「私とブラッドは両方指輪でしたね。私たちは武器を使用しないので装飾品でよかったです」
ブラッドは蝙蝠の羽があしらわれたデザイン、キャットガールは猫の爪があしらわれたデザインの指輪をそれぞれ取り出し指にはめる。
「それで、この後どうすんだ?」
「変身か変身の類義語、または自分で決めた合言葉をトリガーで変身できる。俺はライズと同じ変身にしたな」
「じゃあそれにするか」
「ですね、他にいい案もないですし」
「決めたな、それじゃあやるぞ」
「「「変身!!!」」」
その言葉を合図に三人が光に包まれた。
そして光は五秒ほどで収まり、中から服装が変化した三人の姿が現れる。
「これが兄さんの新衣装!」
「あぁ、けど本当に何でこんなデザインになったんだ?」
レイヴンは顔の下半分を覆うペストマスクに榊の刺繍が入ったワイシャツと黒いスラックス、その上からマントのようにたなびく金色のラインが通った漆黒のフード付きローブ、腰に鴉の手を携えた衣装に。
「おぉー!かっけー!」
ブラッドは紅色の軍服に裏表が赤と黒でそれぞれ異なる片マント、そして蝙蝠のシンボルが取り付けられた軍帽という衣装に。
「私のはブラッドほど派手ではありませんね、けど私好みの服装でよかったです」
キャットガールは防弾チョッキと迷彩柄のズボン、頭には猫耳型のゴーグル付きヘルメット、そして口元を隠すように首に巻かれた迷彩柄のマフラーという衣装に変化した。
『そちらも変身し終わったか』
「待たせて悪かったな、それとこれを渡しとく」
レイヴンはライズと召へ向けてインカムと帰還装置を転送する。
「それのインカムで通信、帰還装置はボタンを押したらこの基地へ転送される、異空間だから使えなくなる可能性はあるがないよりましだろ。それと二人に渡した帰還装置の転送先は牢だから逃げようとするなよ」
『さすがにしないわよ!』
『取り引きを無下にするほど落ちぶれてないわ!』
「悪い悪い。さて、準備は整った。それじゃあ…」
今回の作戦参加者の足元にワープゲートが展開される。
「八世通波救出作戦、スタートだ!」
◇◇◇
上空に展開されたワープゲートから救出作戦参加メンバーが飛び出してくる。
そして、晴明神社鳥居前からその光景を見ている魔法少女がいた。
「あいつらか、鳥居の先の空間へ侵入したって連中は。さて、頼むぜ魔女の箒」
その魔法少女は魔女の箒と呼ばれた箒に股がり、手にしていた金槌を構える。
「あいつより先に、怪人を退治してやるぜ!」




