研究試験場
三人称視点です。
ライズと召の聴聞会から一週間後…。
「終わった~!」
「お疲れ。ほい、スポドリだ」
「ありがと兄さん。いや~想定してたよりかなり時間かかったよ」
レイヴンから渡されたスポドリをオウルは勢いよく飲み干す。
オウルによって、魔法未発現者に対する疑似魔力開放の儀式がほぼすべて終了した。
「確かに俺ももっと早く終わるもんだと思ってたんだがな。そうえば、『堕天大聖堂の魔法未発現者にも魔法を発現させてもらいありがとうございます』って民守さんが言ったぞ。本人は新たに魔法を発現した者の集計が忙しくて来れないから代わりに伝えとく。早々に関わることになっちまって悪かったな」
「いいって、関わりたくないのはあくまでも地上出身の魔法少女だからね。それに親が地上出身の魔法少女だとしても本人は何の関係もないし、完全私情で戦力強化を断るわけにもいかないでしょ今後のことも考えると。けどまさか、祭壇があった空間のさらに下に市街地があったなんて驚いたよ」
オウルは怪人たちに魔法を発現させた後、堕天大聖堂のさらに下へ赴き魔法が発現していない大人の男女や子供たちに疑似魔力開放の儀式を行っていた。
そのおかげで現在、魔法発現者を記録するために民守たちが奔走する羽目になっている。
無論それはこちらも同じであり、ウルフを筆頭に書類作成に優れているメンバーが奔走している。
「にしてもお前、他者の魂に干渉できたんだな」
「それは自分でも思った。けど前から見ること自体はできてたし触れる鱗片事態はあったよ」
以前元花の魔法を判別したとき、無意識とはいえ元花の魂に触れることで魔法を判別していた。
今回の擬似魔力解放の儀式は回復などの他者に干渉する魔法と魂に触れる技術を組み合わせることで意識して魂に触れることで魔力を解放した。
「そっちは何かあった?」
「新たな施設の建築と自分の武器について調べたりしたな。環のブレスレットみたいなやつだ」
「兄さんのは何だったの?」
「環と同じブレスレットだったよ。ま、俺は技の関係で素手で戦うことが多いから下手な武器よりはよかったかな。それと変身も試したけど効果は身体能力増強、魔法精度アップとかだったな、見た目は今度見せる」
レイヴンの代名詞技である時空切削は鴉の手の弾丸ごしでも発動できるがやはり素手の方が精度がいい。
「それと休んでるとこ悪いがあと一人魔法の開放を頼む」
「あと一人?誰かいたっけ」
「灰崎さんだよ、忘れたのか?俺たち直属配下の中で唯一魔法使えなかったろ」
「あ~いや、灰崎さん開発力が高すぎて忘れてた。灰崎さんの技術って魔法じゃなくて自前だったね」
現在黒榊兄妹直属の配下は苗又元花、灰崎京也、アル、セレネ、酒井菫、赤川操の六名であり、その中で灰崎だけが魔法を使えない。
しかし、灰崎は魔法に匹敵するレベルの技術を保有している。そのためオウルは灰崎が魔法を使えないことをすっかり忘れていた。
「さっそく灰崎さんのとこ行くぞ。ここ数日は新設した試験場にいるはずだ」
◇◇◇
聖魔連合海上研究試験場、灰崎が制作した機械を試運転したり研究室に収まらない物を作成するために作られた人工島に建てられた施設だ。ここには灰崎の他にも開発が得意な白夜配下の怪人たちも働いている。
ちなみに築三日だ。
「兄さんこんな施設作ってたんだ」
「魔法に関する研究が始まったら今までの研究室じゃ恐らくスペースが足りないって灰崎さんから要望があってな。俺がワープゲートで島を作っていったん戻ってきてもらったセレネと建築が得意なメンバーに建ててもらった」
「魔法を開放した人たちがここで何かしてると思ってたけどこれの手伝いだったんだね」
「そうだぞ、この他にも堕天大聖堂の大使館的な建物も造った。っと、ここだな」
そうこうしているうちに灰崎が使用している研究室の前にたどり着いた。
「灰崎さん遅くなったがオウル連れてきた…ぞ…」
「兄さんどうし…わーお」
「…お、優真と環か。悪いな気付かなかった」
灰崎は作業を一時中断し黒榊兄妹の方を向く。何日も風呂に入ってないのか体の汚れが目立ち作業着もよれよれになっている。
しかし、それ以上に目を引く物が部屋の中央に鎮座していた。
「灰崎さん、見れば分かるが一応聞くぞ。これは何だ?」
「何だって言われても、スペースシャトルだが?」
「『スペースシャトルだが?』、じゃねぇよ!なんつう物作ってんだ!」
部屋の中に鎮座していたのはスペースシャトル、その実物だ。魔法少女出現以前に廃止されたそれを灰崎は再現していた。しかし細部は一部ことなり、銃口があったり羽の下にエンジンが取り付けられている。
「けどこれが完成すればかなり戦力が増えるだろ」
「それはそうだが…安全面は大丈夫なのか?今使われてないってことは何かしらの欠陥があったってことだろ」
「あぁ、過去に事故があってそれ以来使われなくなった。けどその事故原因は大まかに言えば燃料漏れだ、このスペースシャトルには液体燃料は積んでない」
「は?それってどういう…」
『うるさいぞ灰崎、何があった?』
灰崎とレイヴンが会話しているとこの場にいないはずの声が聞こえた。
「あぁ、優真がこれにおどろいて大声だしただけだ。気にするな」
「ちょ、ちょっと、何でライズさんの声が?兄さん聴聞会の後ちゃんと牢に入れたよね?」
「ちゃんと入れたぞ、それに牢の監視員からもライズが出たって報告もない」
「ライズの声がした理由ならこれだぞ」
そうして灰崎が指差した方向にあったのはタブレットにプロペラとロボットアームを付けたような形をしたドローンだ。
「これの製作のために幹部権限でライズに手伝ってもらってる。さすがに牢から出すのは無理だったからこうして遠隔でだがな」
「…ひょっとして燃料積んでない理由って魔法関連か?」
「そうだ、聴聞会で聞いた古代文字についてあの後ライズに詳しく聞いてみたら今は古代文字から発展した魔法陣ってものが使われているらしい。魔法陣ってのはまあ一般的に魔法陣って言われて想像するような物だ、それに魔力を流すことで魔法陣が意味する魔法を発動できる。今回はエンジン部分に液体燃料と酸化剤を作り出す為に菫の毒魔法の一部、それらを着火させるために火魔法、細かな調整用に風魔法を発動させる魔法陣がそれぞれ描かれている」
『酒井菫という少女の魔法を解析するといきなり言ってきたのは驚いたがなかなかたのしかったぞ。それにスペースシャトルという面白い物の制作にも関われたことだしな。しかし毒魔法はまだ完全には解析しきっていないしな』
「はぁ…まあいい。それより灰崎さん、魔法発現させなくていいのか?」
「あ、すっかり忘れてた。環よろしく頼む」
「やっとだね。それじゃあ灰崎さん少し頭下げて」
「こうか?」
「そうそう、それじゃあ始めるよ」
そうして環は灰崎の頭に触れる。そして数秒後…。
「はい、終わったよ」
「もうか、確かに何かエネルギー的な物を感じるな。で、俺の魔法は何だ?」
「あ~うん。最初に言っとく、あんまり強くないよ」
「なに?」
「灰崎さんの魔法は焼失魔法。手で触れたものを任意で物質関係なく灰になるまで燃やすことができるって魔法、一応任意で火は消せるみたい。固有魔法だけど普通の火魔法と大差ないよ、何なら遠距離攻撃できないから弱いまである。あ、それと武器は指貫グローブだって」
「なるほどなっ…と、これか、確かに何もないところから中貫グローブが出てきたな。それと環、その焼失魔法って他人が消火できるのか?」
「え、まあ一応できるっぽいけど普通の火より消えにくいっぽいよ。それと意図的に消火しない限り燃えているものが焼失するまで半永続的に燃えるって」
「そうか…、ふっふっふっ」
「おいどうした?」
自分の魔法の詳細を聞いた灰崎がいきなり笑い出す。
「環、お前この魔法があんまり強くないって言ったな。確かに戦闘面ではそうかもな。だが、この魔法は化けるぞ!三日後にまたこい、凄いもの見せてやる、ライズ行くぞ!」
『わかった!』
そうして灰崎とライズのドローンは研究室の奥へと消えていった。
「環、あの二人なかがいいな…」
「そうだね…」
◇◇◇
三日後…。
「で、改めて来たはいいが…ま~た何か造ったな、それも部屋一つ改造して」
現在、黒榊兄妹は研究試験場の一室の前にいた。その部屋には入り口がなく代わりにガラス張りになっており中の様子が見える。
そして部屋の中では何かが勢いよく燃焼していた。
「二人来たのか」
「あ、灰崎さん。これは?」
「これは火力発電機だ。燃料はアルの植物魔法と俺の焼失魔法だ」
この火力発電の原理は植物魔法で一定のペースで植物を成長させ、成長ペースにあわせて燃焼させるというものだ。
「アルの植物魔法は放置していても植物を成長させることができる。そしてライズと一緒に訓練した結果、俺は燃焼速度と炎の温度をコントロールできるようになった。そしてこの二つの魔法はがいきの魔力を吸収することで発動し続ける」
「灰崎さんそれって…」
「あぁ、発電機の耐久性と植物の寿命を無視すれば実質的な永久機関が完成した!その上ここから生み出されたエネルギーでさらに研究できるぞ!」
「まじかよおい…」
ちなみに、ここで生み出された電気を市街地へ送るために新たに電気工事の仕事が増えたのはまた別の話。




