レイヴン
優真視点です。
「お~ドンパチやってんな」
異空間倉庫でしばらく休憩した後、俺は昨日襲撃した黒曜団に来ていた。
今は上空からワープゲートで下の様子を見ている。
既に魔法少女達は襲撃しているのか、あちこちから騒音が聞こえる。
「さてと、俺も行きますか」
◇◇◇
そもそも俺が魔法少女と交渉したのは資金確保のためのカモフラージュだ。
昨日の襲撃で警備システムを壊したとは言え、2日連続で忍び込むにしては黒曜団は大きすぎる。
ならいっそのこと、魔法少女に適当な理由付けて襲撃させてその間に資金を確保する作戦だ。
「よし、資金確保完了。あとは…」
キャットガールをクローンの素体にしたり研究者さんを拷問したとは言え、死なれては目覚めが悪い。
魔法少女をここに呼び込んだのは俺だとしても、せめてこの建物から出してやることにした。
「うわぁ、こりゃ酷いな」
建物一階のロビー的な所には、すでに下っ端戦闘員があちこちで気絶していた。
中には腕などが絶対に曲がったらダメな方向に向いている人もいる。
取り敢えず異空間倉庫に入れていく。後で環に回復してもらってからその辺の路地裏に出せばいいだろう。
「それにしても人数多すぎるだろ」
この建物は二十階建てのビルだ。いちいち確認している暇はない。
「仕方ない、ぶっつけ本番だがやってみるか」
この能力を確認している時は上手く出来なかったが、能力的には出切るはず。
「空間認識」
この技は、頭の中に立体地図を作り探したい物を写し出す技だ。
「…っ」
発動した瞬間にとてつもない頭痛が起こる。
普段処理しない量の情報が頭に流れてくるので当然といえば当然か。
前任者の練度もコピーしたとは言え、前任者が使っていなかったらもちろん練度はコピーされない。
恐らく前任者は【テレポート】【ワープゲート】【異空間倉庫】しか使ってなかったのだろう。
「…っ!多すぎだろ!何人ぶっ倒してんだあいつら!」
空間認識で確認したところ、100人近くが建物内で気絶していた。
明らかにボスへ行く通路ではない所にも気絶した人がいるため、わざわざ全員倒して行ったのだろう。
「あ~もう!急ぐぞ!」
◇◇◇
「これでラスト!」
現在地は19階。さっきラスト一人を異空間倉庫にしまい終わったところだ。
最上階の20階は空間認識で確認したら他より大きな反応が4つあったので、恐らくボス部屋でボスと魔法少女達が戦っているのだろう。
「さて、そろそろ撤収し『ドゴン』な、何だ!?」
そろそろ撤収しようとした時、上の階からすごい衝撃が響く。
急いで空間認識を確認すると、上の階に凄まじく大きな反応があった。
恐らく魔法少女が必殺技的な何かを発動したのだろう。
というか、何で空間認識に反応したんだ?今は生体反応を探知するように設定しているはず。
「て、それどころじゃねえ!あいつらこのビルごと破壊する気か!」
中にまだ人がいたらどうする気だ。
取り敢えず異空間倉庫に逃げ込んだ。
◇◇◇
「おいおいマジかよ…」
少しして異空間倉庫から出るとビルがものの見事に崩壊していた。
周りを確認した感じ巻き込まれた人は居らず、空にはどこから嗅ぎ付けて来たのかテレビ局のヘリコプターが飛んでいる。
ボスの生体反応が消えていたので恐らく死亡したのだろう。
顔も名前も知らぬボスだが、心の中で黙祷を捧げる。
「そこのあなた…レイヴン!」
「ん?」
どうやら黙祷を捧げてる間に魔法少女に見つかってしまったようだ。
ぶっちゃけ勝てる気しないが、魔法少女達は先ほどの戦闘で疲れているはずだし逃げ切ることは出切るだろう。
それに自分の戦闘力を把握しておきたい。
怪我をしても環が直せるし最悪テレポートで逃げれし、上手く自分が強者だと誤認させれば向こうは迂闊に手が出せなくなるはずだ。
「おやおや誰かと思えば魔法少女だったか。この度は黒曜団のボスをぶっ倒してくれてありがとな」
「レイヴン…何であなたがここに!」
「美空知ってるの?」
赤みがかったピンク髪の魔法少女…桃山桜が青柳に問いかける。
というか、敵の前で本名呼んで良いのかよ。わざわざ指摘する理由もないのでスルーするが。
それに間違えて名前を呼んでしまった時の言い訳にもなる。
「おっと、そういえば二人は初対面だね。俺は聖魔連合連合長のレイヴンだ。先ほどは邪魔な黒曜団を倒してくれてありがとな」
聖魔連合のトップは学校でもう決めてある。
俺が連合長で環が副連合長だ。
「美空先輩どういうことですか?」
「…実はレイヴンにこの組織を潰すように脅迫されたのよ。あなた達二人をスナイパーですぐに殺せるようにして」
「おいおい交渉と言ってくれよ」
どうやら青柳は二人にここを攻める理由を伝えていなかったらしい。
「美空になんて事を…」
「許せません!」
桃山と黄色髪の魔法少女…恐らく藤花奈々が怒っているが完全に向こうの不手際なので起こられる筋合いはない。
だってこちらは喋ったらダメとは一言も言っていない。
そんなことはお構い無しに藤花が電気の塊を飛ばし、桃山が炎を纏って突っ込んでくる。
「ワープゲート」
そして飛んで来た電気の塊をワープゲートに入れ桃山に当てる。
初めてにしてはコントロールが良かった。
「桜/桃山先輩!」
青柳と藤花が、攻撃が返されて驚いている。
そして次こそはと青柳が水を纏った刀を持って近づいてくる。
というか、魔法少女なんだから魔法使えよ!
まあ、物理攻撃してくる魔法少女がいるとわかっただけ収穫はあったか。
俺は近づいてくる青柳に向かって異空間倉庫から取り出したリボルバーを使って弾丸を放つ。
「なんの!」
まあ、普通に躱されたが。
しかし本命ではない。
躱された弾丸の進行方向にワープゲートを出現させ青柳の刀の持っている手の甲に向かってワープさせる。
「う!」
青柳が悲鳴をあげる。
初めて銃で人を撃ったがあまり何も感じないな。…それほど魔法少女に怨みがあっただろうか?
…いや違うな。こちらは命がかかってるからか。命が関わると人は本性を見せるらしいがこれが俺の本性か。自分の命が関わると周りを攻撃することも辞さない。今後はこの感覚にも慣れないとな。
しかしこの感覚で一般人を撃ったらダメだな。そうなったらそこらの悪の組織と変わらなくなる。
「…そろそろ帰るか。じゃあな魔法少女!またどこかで!」
「っ!待て!レイヴン!」
青柳が叫んでいるが、俺は無視してワープゲートをくぐる。
今後、この世界の社会システムに反逆する組織。聖魔連合の名が初めて世に出た瞬間だった。