アビス・プレイタイム ─ 支配者の女
民守祈視点です。
「あちらが…バルバラ・B・イノセンティですか」
「あの、何か民守さんから聞いてた姿とはずいぶん異なるのですが?」
「理由はわかりませんが、何かしたのでしょう」
私たちが今いるのはニューヨークの東側にあるジャマイカという都市のビルの屋上です。
何か同名の国があるらしいですがそちらとは関係ありません。
この場で私たちが相手にするのはアレイオス孤児院の軍。
そして軍の中央で暴れているのがバルバラ・B・イノセンティのはず…なのですが…、何か姿がとてつもなく変わっているんですよね。
上半身は以前パーティーで見た時のままですが、下半身が六本の機械の足に置き換わっています。
「やはり、アレイオス孤児院の相手を幹部のみにして正解でしたね。ライズさん、鑑定お願いします」
「わかった。ちょっと待っておれ」
この戦場には一般戦闘員の方々は来ていません。
バルバラ・B・イノセンティの魔法が分からない以上、下手に大勢で攻めるより少数精鋭の方がいいですよね。
前線は私、召さん、アルさん。後衛兼雑魚一掃要員がライズさん、ブラッドさん、ロックさん。空中には茜さん。そして最終兵器として菫さんが来ています。
それと、サポートとしてオウルさんがこの近辺にいるらしいですね。
隠れているのでどこにいるかは存じませんが。
「…鑑定結果が出たぞ」
「どうでしたライズさん?」
「報告書にあった通り町を埋め尽くしているアニマトロニクスや人形の材料は子供だ。知的生命体を材料にすることで高度な自立思考を実現しておる。それに怪人生成機を使用した形跡が無い、手術による改造だ」
「え、怪人生成機を使用した方が性能的に良いのでは?」
「召よ、流石の我の鑑定魔法でも相手の思考までは読めぬ。よほど己の技術に自信があるのか、はたまた怪人生成機の存在すら知らぬ大馬鹿者か」
「…何と酷いことを」
人の意識を保ったまま別の器に入れるという自己同一性すら危ぶまれる行為。
そんな恐ろしことをされた何千もの子供たちが目の前を埋め尽くす。
身体から血肉が殆ど取り除かれているためオウルさんやセイさんでも治せません。
「改造された子供たちは、殺してあげた方が幸せなのでしょうか?」
「それは私たちが決めることではありませんよ」
死生観は人によって異なります。
死は救済という人もいますし、生きることに意味があるという人もいます。
結局は本人次第なのです。
救済の価値観を押し付けるのは傲慢でしかありません。
「…そうですね。民守さんの言うとおりです」
「ですが、助けたいという気持ちは忘れないでください。戦場である以上死人は出るでしょうし私も容赦しませんが、助けたいのは私も同じですから。ライズさん、バルバラ・B・イノセンティの魔法はわかりましたか?」
「分かりはしたが、こりゃ相当厄介だぞ」
「厄介…ですか」
様々な魔法を見てきたライズさんが厄介と言うとなると、相当なのでしょう。
「どのような魔法ですか?」
「バルバラ・B・イノセンティの魔法は搾取魔法。物理でも契約でも、自身の支配下に置いた対象の魔法を使用すると言うとものだ。支配下が魔法を発現させてるかどうか関係無くな」
「なるほど、確かに厄介ですね」
複数の魔法を扱う者の厄介さはレイヴンさんで嫌と言うほど理解しています。
数種の魔法ですら厄介なのに、バルバラの出撃している配下は約四万人。
出撃していない配下や、契約などで支配下に置いている者もいるでしょう。
つまり、バルバラ・B・イノセンティが使用できる魔法は最低四万種。
固有魔法の割合は少ないらしいので四属性魔法の被りが多そうですが、それでも数百種はあるとみていいはずです。
一応固有魔法は当たりはずれが激しいですが、それでも厄介なことには変わりありません。
「皆さん。ライズさんの話は聞きましたね?」
『わかった~』
『おうよ』
『わかったぞ』
『わかりました民守様』
『気を付けます』
皆さんちゃんと聞いていたようですね。
それでは、バルバラ・B・イノセンティがこれ以上被害を出す前に─
「では、始めましょう」
戦闘開始です!
「ブラッドさん、ロックさん、ライズさん! 一番槍お願いします!」
「承知した! ギガントボーンバンカー!」
ライズさんが放った骨の杭とともに、血のレーザーと宝石の龍がバルバラを襲う。
ダメージは…通った感じがありませんね。
シンプルに硬いか、魔法によって防いだか。
どちらにせよ、今の攻撃で私たちの存在はバレました。
「召さん、行きますよ!」
「わかっています!」
ならば、私たち前衛が直接相手取ります。
「堅牢なる不沈艦! 乗って下さい!」
「新技ですか。では、お願いします」
堅牢なる不沈艦、召さんの言う通りこの日の為に開発した新技です。
今回私たちが相手取るのは少数の強者ではなく無数の敵。
ならば、私の魔法で生成した船で轢き潰した方が圧倒的に早い。
一般兵に掛ける時間も体力も魔力もありませんから。
『ギギギャァ!』
「どきなさい!」
アニマトロ二クスと呼ばれるロボットが数体気付いて向かってきますが、関係ありません。
堅牢なる不沈艦で轢き潰します。
「っ、やはり血が出ますか」
堅牢なる不沈艦で轢き潰したアニマトロ二クスや人形から内臓や血が噴き出す。
報告やライズさんの鑑定を信用していなかったわけではないですが、本当に人が材料にされているのですね。
…材料にされた人達の為にも、なるべく早い決着を目指しましょう。
「っ、あのバリアは!」
「バルバラがこちらを捕捉しました。召さんは攻撃準備! アルさんは捕獲を!」
『了解!』
「民守いの─!? な、何ですかこの根は!」
まずはアルさんの根でバルバラの動きを止める。
これで、確実に攻撃を命中させられます。
「召さん構えてください!」
「了解!」
「くっ」
召さんが駄骨を構える。
バルバラが防御態勢を取りますが、関係ありません。
このまま突っ込みます!
「バリアシップラミング!」
「霊歩居合・餓鬼海道!」
「がっ!」
私たちの攻撃が命中し、バルバラが後退る。
「障壁の聖騎士、一気に押し切ります!」
先制攻撃が成功したとはいえ、油断できません。
さっきバルバラが攻撃を食らった際に声を上げましたが、アレはどちらかと言えば攻撃の際の衝撃に反応して出た声。
ダメージ自体はさほど通っていません。
「くっ、何故、聖魔連合がこの場に居るのです?」
「それはこの作戦が成功されると色々面倒だからですよ!」
「!、お前はアレイオス孤児院に侵入した!」
「今頃気付いたんですか?! 百銀!」
「アースウォール!」
召さんの突きをバルバラが土壁で防ぐ。
ですが、これでいい。
「…この程度でアレイオス孤児院に侵入したのですか?」
「いえ、召さんは囮です」
「?!」
召さんがバルバラの気を惹いてくれたおかげで真後ろまで近づけました。
この距離なら土壁を出す暇はありません。
確実に命中します。
「聖なる剣!」
「アンブレイカブル!」
「なっ?!」
なんですかこの皮膚の硬度。
さっきの攻撃を防いだのもこの魔法ですか。
「捕まえましたよ」
「っ、近づきすぎましたか」
腕を掴まれましたが、まだ何とかなります。
「聖なる光!」
「リフレクト」
「!、防御系二つ持ち?!」
障壁の聖騎士のおかげで防げませたが、聖なる光を反射してくとは。
落ち着いた様子で即座に放ったところを見るに普段使いしてますね。
アンブレイカブルは岩石などの物理系、リフレクトはレーザーなどのエネルギー系の対処用でしょう。
考えられる弱点は同時使用の不可などでしょう。
「召さんは一定距離を保って警戒、遠距離組は兵士の相手を、ライズさん直ぐに鑑定をお願いします」
「ほぉ、そちらに鑑定系能力者がいるのですか?」
「知ったところでどうするのです?」
「無論、私が有効活用して差し上げましょう」
でしょうね。
他者の魔法を使う系列の魔法を使う者にとって、使用前に魔法内容を知れる鑑定魔法は値千金でしょう。
「ですが、ライズさんは強いですよ。何せ、召さんと共に聖魔連合トップのお二方をあと一歩のところまで追いつめたらしいので」
「レイヴン…空間系能力者でしたね。あなた方が来たということはレイヴンも来ているのでしょう? なら、あなたとライズの能力を奪ってからレイヴンの能力もいただくとしましょう」
「あなたの能力は既に割れています。私には効きませんよ」
障壁の聖騎士を纏っている限り、暴力による支配は私に効きません。
視線や声がトリガーで支配される可能性もありますが、この至近距離でしてこないのを見るにそのような魔法は所持していないのでしょう。
ですが、自身のある様子ですし何かありそうですね。
「そんなに私を支配する自身があるのならとっととやったらどうです?」
「…舐めた真似を。ならば見せてあげましょう、ボックスプリズン」
「─ふむ」
目の前に広がるのは闇。
魔法名とさっきまで野外に居たことを考えると、ここは密閉された箱の中ですか。
「これがバルバラの奥の手ですか」
確かに閉じ込めてしてしまえば支配したと言えなくは無いですしね。
「破壊は…無理そうですね。通信は…あ、出来るのですね。遮断機能つけ忘れたのでしょうか。まあ今はありがたいのですが。召さん、聞こえますか?」
『民守さん!? 今どこですか?! 民守さんがどこかへ消えてからいきなりバルバラがバリア魔法を使用しだした! 今は私とアルさんで何とか捌けていますが早く戻ってきてください!』
「バルバラが所有している魔法の一つ、ボックス魔法です。効果は恐らくレイヴンさんの異空間倉庫に似た感じでしょう。そのためこちらからは脱出できません。しかし、こちらには召さんがいます。行けますか?」
『…今民守さんがいる場所は推定異空間ですよね? 以前の私なら一発で魔力切れを起こしそうでしたが、今ならいけます』
「では、お願いします」
直後、私の足元に魔法陣が展開される。
そして、次に目にしたのはバルバラの金属の足でした。
「!、憎悪ノ肖像!」
この距離だとバリアの展開が間に合わないので咄嗟に盾で防ぐ。
「な!? 出てきたのですか、あの箱の中から」
「召さんのおかげですけどね。私一人ならあのまま閉じ込められていました」
召さんに頼んだのは私自身の召喚です。
召喚魔法を使用すれば、理論上どんな拘束からでも脱出できますので。
「まぁ、私もサポートアイテムがあったからですけどね」
召さんが身に付けている腕輪型サポートアイテム、エナジータンク。
これは予め自身の魔力を込めることで貯蔵しておけるという代物です。
エナジータンク自体は試作品らしいので一つしかなく、魔法の関係上魔力消費量が安定しない召さんが今現在使用しています。
貯められている魔力はおよそ一ヶ月分。
別空間からの召喚を十回ほど行える量です。
「っ、脱出手段を持ち合わせているのは面倒ですね」
「こちらとしても、そちらが拘束手段を持っていることは面倒です。お互い様ですね」
「民守さんあまり相手を煽るのは。それとライズさんからの伝言です、やはりバルバラは能力の同時使用はできないとのこと」
「やはりそうですか」
出来てたらアンブレイカブルとリフレクトの同時使用とかしてきてそうですし、予想通りですね。
「どちらにせよ、私たちのやる事は変わりません。急ぎ、バルバラを討伐しましょう」
「…小娘が、舐めた口を」
バルバラが何か言っていますが、聞き流します。
聞いても意味ありませんし。
私のバリアを見て有効打を出し惜しむ意味がないので恐らくバルバラは私と突破できない。
それならば、余程の予想外が起きない限り私たちが勝てます。
「召さんとアルさんも気を抜かないように。このまま勝ちに行きますよ」
「了解です」
『わかった!』
魔法を能力と言い換えている理由は、相手に能力=魔法と悟らせないためです




