詰み
初めての投稿です。文章がおかしかったらごめんなさい?
「…やったのか?」
「はい。恐らく召喚成功でございます。陛下。」
「やりましたね!お父様!これで世界は救われます!」
変な夢を見た。王冠を被った髭面の派手な格好をした男と黒い甲冑を着た男、華奢な身体をした可愛らしい女の子に囲まれている夢だ。
しかも、妙にリアルである。
「おい!貴様起きぬか!」
「ダメよ!お父様、勇者様にむかって貴様などとは言ってわ!」
「なっ……分かった気をつけよう。」
騒がしい夢だなぁ…まぁすぐに目が覚めるはず。
「勇者様起きて下さい!力をお貸しください!」
「マジでリアルな夢だなぁ。肩を揺さぶられる感覚もあるし、匂いもする…それにしても、この女の子めちゃくちゃいい匂いするなぁ。」
「なっ…!?へっ…へっっ…変態!!!!」
左頬に激痛が走る。
「いっ…だぁあぁぁぁぁぁあぁ!!!」
「夢じゃない!?」
女の子は顔を少し赤くして答えた。
「ふぅ…勇者様叩いた事はお詫びします。しかし、これは夢ではありません。私達が『極大転移召喚魔法 アストラ』を使って勇者である貴方を召喚したのです」
魔法?召喚?勇者?この子は何を言っているんだ?
「申し遅れました。私はグレンハルト王国第一王女、アリス・グレンハルトです。アリスとお呼びください」
彼女はスカートの裾を摘んでお辞儀した。
「こちらは我が父、グレンハルト王国の現国王 ボレラス・グレンハルト王」
「そして隣におりますのは、グレンハルト王国 騎士団団長 ミゲル・アスタロト」
「勇者様のお名前を聞いてもよろしいですか?」
混乱していた。僕は引きこもりのニートで、さっきまでクーラーの効いた部屋でアニメをみていた。ウトウトと寝落ちした瞬間ここに来たのだ。
最初は夢かと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。
にわかには信じがたいが、僕はどういうわけか、勇者としてこの世界に召喚されてしまったようだ。
とりあえず名前を名乗った。
「僕は奏多といいます。」
「それでは勇者カナタ。単刀直入に、あなたのお力で我々の国、否、世界を救っていただきたいのです。」
「今から5年前に魔王『アグフィス』が復活し、我々の世界のほぼ全てが魔王の軍勢により壊滅しました。周辺諸国で残る国も我々のみとなっています。わが国は、この大陸で一番の強さを誇っていますが、全兵力をだしても負けが濃厚な厳しい状況です。」
「ですから、カナタ様のお力で我々をお救い下さい。」
・・
・・・
・・・・
「いや無理、無理、無理、無理!!」
「その状況、僕1人じゃあ、どうにもなんないですって!!」
「一刻を争う状況ってのはわかりました。そのために呼ばれた事も理解しました」
「でもね!だとしてもね!」
「呼ぶんならもっと早く呼んでくださいよ・・・」
「なんでめちゃくちゃギリギリで呼ぶんですか・・・」
「召喚とかって普通は魔王復活前とかに呼ぶもんじゃないんですか・・・」
「あと勇者、勇者って呼ぶけど僕にそんな力ないですよ…」
・・・
「無理って!!じゃあ、あなた何の為に来たんですか!!」
「知らないですよぉ!!だって呼ばれたんですもん!!召喚されちゃったんですもん!!しかも寝てるときに!!状況を把握するのでも精一杯ですよ!!」
「じゃあもうお終いじゃないの…」
彼女は俯き座り込んだ。
嘘はついていない、明らかに自分1人で状況をひっくり返すのは不可能だ。
自分は18年間、特に取り柄もなく、ただ毎日をダラダラと過ごしていただけの男だ。そんな奴に世界なんて救える訳がない…
僕は唯一の希望を持って王様に尋ねた。
「あ…あのぉ…王様。一つお伺いしたいのですが、勇者の剣とかってあったりします?」
勇者の剣 それはよくアニメやゲームにでてくる伝説のアイテム。持てば、たちまち強くなり。魔王を一撃で倒す必殺アイテムだ。
「なんだそれは。そんな物お主がもっておるのではないのか。」
知らないのかよ…
てゆうか僕が持ってる訳ないだろ…完全に詰んだ
「オワタ」
「まぁ待て。古来から勇者召喚で召喚された者には特別な力が宿るという。我が城の謁見の間に行くぞ。そこでお主の力を見てやろう。」
特殊な力か、まぁ異世界に召喚されたんだしそのくらいの恩恵があっても不思議じゃないな。特殊な力があると聞いて少し安心した。
謁見の間に移動する間、誰も一言も喋らなかった。
空気重、、、
「ついたぞ」
謁見の間 部屋の奥に玉座があり、部屋は煌びやかな装飾で飾られている。部屋の中央に大きな水晶が置いてある。
「これは『神具バンベルグ』触れた者のありとあらゆる情報が映し出されるものだ」
ありとあらゆるだって!?
もしかして、僕の知られたくないような思い出も映し出されてしまうのか!?
「恐るべし。神具ハンバーグ…」
「バンベルグだ。そんな事より。お主早く触れてみよ」
変な勇気を振り絞り水晶に触れた。
すると、部屋が一瞬白い閃光に包まれ水晶に俺の全てが映し出された。
と思ったが、映し出されたのは俺のステータスのみで、身体能力や身長体重などが映し出された。
『「勇者 カナタ」
「身長170cm 体重60kg 」
「攻撃力20 防御力20 俊敏性20 魔力20 」
「特殊能力 勇者力 」』
「えっと…これは…」
言いながら後ろを向いた。
王様は頭を抱え、アリスは青い顔をして震えていた。
「お主、本当に勇者なのか?」
「ありえないわこんなの…」
「この数値はダメなんですか?」
「当たり前じゃない!平凡以下よ!私ですら、ステータスは全て100を超えているのよ!」
「ええぇ!?」
僕は絶望した。全てのステータスが女の子よりも低いなんて…
しかし、幸いにも特殊能力はあるらしい。
「この特殊能力『勇者力』とはなんですか?」
「ふむ。詳しくは知らんが、それが恐らく特別な力というやつだろう」
勇者力…一体どういう力なんだ?
「ものは試しだ。その勇者力とやら少し使ってみせよ」
「古の勇者は1万の軍勢を意図も容易く殲滅したときく、もしかしたらお主にも同じような力があるのやもしれん」
使ってみせよって言われたって使い方とか分からないしなぁ。
そういえば、アニメや漫画では力を込めるたりすると能力が使えたりするんだっけ…
やってみるか…
僕は全身に力を込めて叫んだ。
「うおぉぉおおおおおお!!」
すると、髪の毛は逆立ち、体が熱くなった気がした。
何か出そうだ!
さらに力を込める。
「はあぁぁああああああ!!」
謁見の間が、静まり返る。
…
………
…………
---結果、気がしただけで何も出なかった
アリスが僕を見て言った。
「変化がないわね。何か変わった事はある?」
「…いえ、特には…」
ステータスが上がったわけでも、何か特別な力が発動したわけでもかった。
「あなたには古の勇者のような力はないようね…残念だわ。」
状況最悪、ステータスも低い、おまけに特殊能力もつかえない。
僕は恐る恐る王様の方を見て言った。
「王様。まさかとは思いますが、こんなにステータスが低いのに戦いなんかに送り込んだりしないですよね…?」
「いや。勇者として召喚された以上お主には戦いに参戦してもらう。拒否すれば、反逆罪としてその首をはねる」
マジかよ…
どっちに転がっても死ぬ、詰んでる。
「返事を聞こう」
僕は少し考えてから言った。
「・・・戦いに参加します。参加させて下さい」
「よかろう…」
「ミゲル!!」
「はっ!」
「この者に武器と装備をくれてやれ。それから詳しい状況を説明してやるのだ。」
「かしこまりました」
それから僕は、騎士団長ミゲルさんに装備と武器をもらった。
が、甲冑とロングソードは重すぎて、まともに動くことすらできなかったので、代わりに冒険者用の軽装備とダガーをもらった。
その後ミゲルさんから詳しい戦況について聞いた。
「今は、城と周辺の街全体に魔法で防御結界を張って、なんとか持ち堪えています」
「敵の数は未知数で奴らは夜になると強さを増します。今夜にでも攻めてくるでしょう。」
「街に防衛網をはり、貴方には私と共に前線に立って戦ってもらいますので、心づもりを」
―――日が落ちる
辺りが薄らと暗くなってきている。
すると、遠くから黒い塊の様なものが、こちらへと接近してくるのがわかった。
魔族だ。
見た瞬間に足がガクガクと震え、身が竦んだ。
---こんなの勝てっこない…死ぬ。そう思った。
オークやスケルトン、ゴブリンなど、見た事の無いような敵が数えきれないくらいの軍勢で向かってきている。
その先頭に立つ禍々しい黒馬に乗った黒い騎士。
魔王『アグフィス』
魔王の所持する武器 『魔剣 グラニール』一振りで100万の敵を屠り、屠った相手の魂を吸い進化する魔剣である。
アグフィスの剣から放たれた赤黒い閃光により結界は呆気なく破壊された。
そして戦いの火蓋がきられた。
敵が一気に流れ込み、一瞬にして街は戦火の炎に包まれた。
こちらも魔法を使った攻撃や剣や槍で対抗するが押されている。
僕も何かしないと…!
そう思った刹那、一匹のゴブリンが僕を目掛けて襲ってきた!
「うわぁ!!」
手で振り払うようにすると、持っていたダガーがたまたまゴブリンの横腹に突き刺さった。
僕は怖くなりゴブリンに刺さったダガーを置き去りに走って逃げた。戦禍で荒れる街を横目に時々躓きそうになりながら全力で走った。
そんな時、近くで少女が、何かにぶつかって尻餅をつき転倒した。
「ごめんなさ……!?」
少女がぶつかったのは結界を破壊した、黒馬に乗った魔王アグフィスだった。
「あっ…あぁ…」
少女は恐怖で体は硬直し、声も出ないようだった。
アグフィスは持っていた剣を少女目掛けて振り下ろした。
「きゃあああ!!」
刹那、考えるより先に体が勝手に少女の方へ駆けていた。
少女の前に立つと守るように両手を広げた。
怖い!!殺される!!そう思った瞬間、黒騎士の剣は袈裟斬りに僕の右肩から腰のあたりまで斜めに振り下ろされた。
「ぐはっ!」
吐血し自身の血飛沫が舞い、そのまま仰向けに倒れた。
あぁ僕は死ぬんだ。せっかくの異世界召喚なのに、何も出来なかったなぁ…少女は無事だろうか…
……意識が遠くなる。
…………視界が暗く……
その時だ。
倒れた体が白銀色に煌めき眩い光に包まれた。そして遠のく意識の中で頭の中に声が聞こえた。
--勇者力が解放されました--
発動条件『自己犠牲』
勇者力が解放された事により、肉体が再構築され、新たなスキルが3つ解放されました。
『攻撃力1万』『防御力1万』『俊敏性1万』『魔力1万』
『勇者の心』 正義感が強くなり、どんな敵にも怯まなくなる
『勇者の剣』 伝説の武器を召喚できるようになる
『神眼』 千里を見通し少し先の未来を見ることが出来る
以上のスキルを獲得し『勇者力』が消失しました。
僕はゆっくりと立ち上がった。
自己犠牲か…
発動条件とか一回詰まないといけないなんて、とんでもないスキルだな。
でも不思議だ…さっきまでは、あんなに怖かったのに、勇者の心のスキルのおかげか、今は一切怖くない。
それどころか目の前の敵を何としても倒さないと、と言う気持ちが強く駆け巡っていた。
「覚悟しろ。今度はこっちの番だ!」