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かみさまの悩み事  作者: 細川波人
1/1

ケルベロス編


「ええと。お悩み相談しても宜しいでしょうか」


 時刻は昼間。場所は回転寿司店。非常に日常的なシチュエーションにて、私は相談を受けていた。


「はい。仕事ですので。どう言ったお悩みでしょうか……」


 そうして、私は非日常的な毛深い三つの頭の中の、真ん中の頭に対して聞いた。


「ケルベロスさん」


 私は今。某有名回転寿司チェーン店にて、地獄の番犬とも呼ばれるケルベロスさんの悩みを聞こうとしていた。


 そんな現実を前にして、私は非常に冷静。この世の生物ならざるものとのエンカウントは仕事のお陰で慣れている。 


 当たり前のようにテーブルに着いているケルベロスを当たり前のようにスルーする店員。

 ワサビを付けながらサーモンを食べるケルベロス。

 器用に白いフワフワの足でタッチパネルを操作するケルベロス。


 ここまでら何時も通り。普通のケルベロスの在り方として理解できていた。


 そう何時も通りの三つの頭?頭……?


 左から順に……白、黒、白。うーん?

 今度は逆から……丸、細、丸。う?うん?

 

 再度遠目から……ポメラニアン、ドーベルマン、ポメラニアン……。


 ポメラニアン、ドーベルマン、ポメラニアン。


 ……ドーベルマン。


 ……んっんんーー!?


 失礼ながら私は今回の仕事相手でもあるケルベロスの真ん中、ドーベルマンを見た。


「すみません。見てお分かりとは思いますが……」


 いや、わからない!見てわからない!


 確かに体から伸びた腕から肩にかけてはポメラニアンだ。しかし、明らかに真ん中の部分だけ頭から首にかけてドーベルマンなのだ。ゆったりと家庭に馴染んでいそうなポメラニアンに、百戦錬磨の大型犬がサンドされていた。


 私が理解に苦しんでいるのに気付いたのか、ドーベルマンは説明を始めた。


「私だけ他とは違う事はもうお気付きでしょう。その原因について説明する前に、私たちの体の仕組みについてお話ししましょう」


「体の仕組みですか?」


「はい。私たちの首以上はそれぞれの頭が動かしています。しかし、首より下は別で、それぞれ担当している者がいるのです」


 そう言って、ドーベルマンは両サイドを順に見た。


「一つ一つの部位を説明するには、如何せん時間がかかるので大雑把に説明させていただきます。上半身右側を右の頭。上半身左側を左の頭。そして、私は下半身を担当しています」


「成る程。物凄く生活を送りにくい肉体構造をしているのは理解できました」


 頭三つで視界が広いなんてメリットなんかよりも、重大なデメリットが目の前にあった。けれど、それがどうして真ん中ドーベルマンに繋がるのかは未だに謎。


「そこから今回の話になるわけですね。ちなみに両隣の方が耳栓をしているのは?」


「兄弟も関係する話なので……」


 両ポメラニアンが関係している。そして、ひたすら寿司を楽しむポメラニアン。逆にドーベルマンの前に置かれた、皿の山とガリ。つまりは……。


「自分の腕が無いから食事にありつけていないと」


 ドーベルマン突然変異は単純に食事の問題ではないとも思うが、今ある情報からすればそんなところなのだろう。


「はい。ご明察です。食事を出来ないことによるストレスから、今の私はドーベルマンに至っております」


 ストレスだった……。


 そこからドーベルマンの悩みが回転寿司のように次々と回り始めた。


「今日に関してもストレスです。知ってますか?私たちの臓器は基本は人間と同じような個数です。つまりは胃も一つ。ですので、店員に対して一名と告げたのです。しかし、何て答えられたと思いますか?」


「三名」


「そう!三名ですよ!私は引き下がらずに説明をしました。体は一つですって。すると……」


 ドーベルマンは首を使って左、真ん中、右と数を数えた。


「三頭ですね……。ですよ!酷いでしょう」


 成る程、ドーベルマンの言い分は体でカウントして欲しいと、しかし、店員は頭でカウントしたのだ。


 うーん。頭で数えた店員は有能。


「これが回転寿司じゃなかったらどうなることか!三倍の料金を支払わないといけません!まったく」


「けれど、各頭は満腹感を共有しているんですよね?」


「勿論です!そして、そこなんです!胃が一つ。食べる頭は三つ。より自分が食べ物を味わうにはどうするか」


 ドーベルマンの担当は足。皿は取れない箸は持てない。


「各頭が腕と料理を独占する惨状になっているのです!肉体的にはさして害が無い行為でも、着実に真ん中の私にはストレスが掛かるんです!わかりますか?口になにも含んでいないのに、空腹感が和らぐ感覚が!」


 わからない。わかりたくない。そして、わからないけれど人次第では便利に感じそう。


「食事の動作を省けているのでお得では」


「目の前に置かれた高級料理を食べられれば、お得感が無くなります。金銭は割り勘ですし、足は私ですので」


 移動もしてくれて、食事の費用を30%オフにしてくれる真ん中ドーベルマン。私も欲しい。


「見てください。私はストレスでドーベルマンなのに、甘やかされた隣の奴らは柴犬からポメラニアンに。どうなっているですか!隣の芝生は青くはないけど、隣の頭は白いんですよ!」


「いえ、知りませんけど」


 人間であれば自分の頭が黒で隣が白ならちょっとだけ安心感が生まれる。しかし、ケルベロス界では逆らしい。


「それに……」


「すみません。そろそろ本題に入って良いですか?仕事ですので」


 流石に他犬の不幸話に長々と付き合わされるのも飽きてきた。なので、私は仕事でもあるお悩み解決の「解決」へと向かう。

 すると、ドーベルマンは不幸自慢の威勢を失って、また最初のように疲れたサラリーマンのような口調に戻った。


「ご飯を食べられるような案が欲しいんです」


「まずは両隣の犬から耳栓を外しましょう」


「説得は叶いませんでしたよ……」


 そうだろう。流石に柴犬からドーベルマンへの変化だ。それ程のストレスを抱えて何も言わない何て事は無いだろう。


「……両腕縛って、同じ苦しみを味わうのはいかがでしょう」


「縛るのに必要な腕がありません。そして、そんな強行手段をとると、動物愛護団体に怒られます」


「えっ、自分の体なんですけど」


 もしかしたら、ここの店員と同じように頭一つで一頭と捉え、各犬に対する個犬の尊重がされているのかもしれない。例え同じ体でも別の頭を苛めてはいけないのだろう。


「機敏そうな頭部を活かして、横取りするのは?」


「以前やろうとしました。その結果は……猿ぐつわってわかります?」


「成る程。犬なのに大変ですね」


「……その大変さは感じませんでした」


 つまり、強行手段をとろうとすれば、ポメラニアンから口を拘束され、説得はろくに聞かないわけか。

 残されたのは……。


「取引を持ちかけましょう」


「取引?ですか?」


「はい」


 体の所有権における有利は向こうの方が上。つまり、ドーベルマンの頭部と足vsポメラニアンの頭部二つと両腕であれば勝ち目はない。なので、後は舌戦になるのだが、二対一の対面で尚且つドーベルマンは精神的に弱っている。つまり、単純な舌戦での勝ち目はない。

 故に考えられるのは取引なのだ。そして、取引材料として有能な足の所有権をドーベルマンは持っている。


「確かに貴方に操れる腕はありません。ですが貴方にはその両足があります。下半身にはポメラニアンは干渉できません。つまり、貴方は両腕には無い権利を持っているのです」


「権利……まさか!」


「はい。移動は貴方にしか出来ないメリットです。移動の重要性。食事に、トイレに、仕事に。全てに於いての必要となるスキルです。ですので、取引のレートしては高い筈です」


「どうすればいいんですか?」


「簡単です。こうやるんですよ。まずはグッとその厳つい顔に力を入れて「ご飯を食べさせてくれないのなら、帰るからな」です」


「脅しじゃないですか。恐喝で捕まりませんかね」


 法律は基本的には人間用だから、大丈夫な筈。


「大丈夫です。後大事なのは根気ですよ。いくらお腹が空いても、ポメ公が音を上げるまで耐えるんです。貴方なら出来ます!ストレスと戦ってドーベルマンになった貴方なら!」


「わかりました。わかりましたよ!やって見せます!今こそ、ケルベロス社会に革命を起こすときです!」


「そうです!頑張って下さい!」


 そして、私は一仕事を終えたついでに寿司を手に取りました。



「おーい。楓ちゃん。依頼主から手紙来てるよ」


「誰からですか?」


「えーと。汚い字だなぁ。け……る?」


「ケルベロスさんですね」


 私は所長から手紙を受け取った。

 手紙はシワだらけで所々穴も空いていた。さぞや存外な扱いを受けたのだろう。

 そんな手紙を見ると所長の言ったように、かなり汚い字でケルベロス(ド)と書かれていた。ドーベルマンからのようだ。


 私は飛び出掛かった中身を、封を切って取り出しました。そこには、これはまた汚い字で文書いてあった。


 なになに。


「……足を拘束されました」


 あっ、そう来たか。


「どう?お礼の手紙だった?」


「ふー」


 完全なハッピーエンドではないけれど、まあ……一件落着にしておこう。

 

 そうして、私は手紙をそっと机に投げた。


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