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魔物ハンターアリスちゃん前編

「さあさあ!!! 魔物狩りに行きますよー!!!」


「あんまり大声を出さないでくれ、俺はただの人間なんだから頭がおかしくなったと思われるだろうが!」


 農民は魔物狩りなんてしない、そんな当たり前のことも賢者と名乗る妹様には関係なければ知らない話のようだった。


 現在村の出口、北の森が彼方に見えている地点だ。形ばかりの治安維持部隊が配置されているが、それらの目的は村を外から防衛するためではなく農民が脱走しないようにという目的だった。


 もっとも、農民の生活が厳しいからと言って町や王都へ行って別の道を見つけるのは不可能に近かった。天職というのは向いていないことをやっても才能を与えられた人間には絶対に勝てない。だから農民となると他の生き方はどのみちないのだった。


 そう言う意味では農民の保護目的だとも言える。今までにも時々逃げ出すやつは居た、居たのだが外部での誰にも勝てない無能扱いされる生活に嫌気がさして逃げ帰ってくるか野垂れ死ぬかの二択だった。


 そんな事情があってから、農民をやめようとする者もほとんど居なくなり、治安維持はどちらかと言えば天職に『傭兵』や『冒険者』といった真っ当な暮らしはできないが、放っておくと力だけはあるので面倒くさいことになる連中の社会保障と言った意味合いも持っていた。


 持ちつ持たれつの関係になっているので農民も衛兵も荒事を起こすのは良しとしておらず、アリスが『研究素材確保に必要なんです』と言ったら俺も含めて素通りできた。


「ではさっさと森に行きましょうね!」


「なあ……俺、死んだりしないよな?」


 魔物との戦闘とかできる気がしない。というか戦闘用のスキルとか腕力とか魔力とか皆無なので俺が参加する必要性を感じない。


「気にしないでください! 私だけでも十分に攻略できる程度のアトラクションでしかありませんからね!」


「じゃあ何で俺を連れてきたのかなあ!?」


「お兄ちゃんが見てると気合いが入るんですよ」


 なんだよそれ……俺は素直に農業をやってても変わんないってことじゃん。理不尽が過ぎるなあ……


 まあ妹だけを危険にさらすというのも兄としてどうかと思うので北の森は怖いが一人で送り出すよりは一緒の方がマシだとは思う。


 現在ではたった一人となった家族を、危険な場所に一人で行かせるほど薄情には慣れなかった。


「アリス、森まで半日ってところか? 手前でキャンプ張った方が良さそうだな」


 森の中で夜になってしまっても困るし、森の手前で一晩過ごして翌日狩りをして帰りに一日と言ったところだろうか? それなりに手間はかかるがアリスはその価値はあると断言していた。


「そんな必要は無いですよ? 日が落ちる前には着きそうなので、適当に狩ってから私たちの家に設置しているポータルへ飛べば日帰りですね」


「ぽーたる?」


 聞いたことのない単語だった。家に設置した? 一体何を?


「ああ、平たく言えば転送魔法ですね。あらかじめ設置しておけばそこへ一発で飛べるんですよ。まあ事前の設置は必要ですがね」


「そんな魔法があったら早さが命の商人とかが血眼になりそうだな」


 転送魔法なんてあるのなら内陸へ魚を届けたり、戦場へ物資を輸送したりして大もうけできるだろう。


「あるんですよ、何せ私は『賢者』ですからね!」


 万能過ぎる魔法に俺はついていけなかった。常識を壊していくアリスに当たり前の考え方は通用しないようだ。


「さて、いい感じの草原ですし、この後の作戦を立てておきましょうか」


「驚いたな、アリスのことだからノープランだと思ったんだが……」


「お兄ちゃんは私をどう見てるんですかね……まあ魔物ごときに後れを取ったりはしませんが、効率は変わりますからね」


 効率と来たか……命を賭けて生きるか死ぬかの戦いになるかと思ったのだがアリスからすれば勝つのは大前提で、どうやって効率よく数をこなすかの方が重要らしい。


「さて、魔物狩りですが、倒すこと自体はものすごく簡単です」


「簡単なのか……」


「ええ、分解魔法や消滅魔法、そんな面倒なものでなくてもファイアーボールで跡形もなく焼き尽くすことは可能です」


「魔物をファイアーボールで!?」


 野生の獣を狩ってくる時にギリギリ使えるかどうかの初球魔法で魔物を狩れるのか、そういえばお風呂を小さな火球一つで軽々と沸かしていたな。確かに本気を出せばできるのかもしれない。


「なら何問題無いんじゃないか? 楽勝なんだろ?」


「私たちの目的を分かってますか? 魔物の死体を肥料にするために収集するんですよ? 消し飛ばしたらそれが出来ないじゃないですか」


 なるほど……と納得しそうになったが、コイツは魔物を死体が残る程度に殺すのを加減が難しいと言っているわけだ。勝つことが当たり前になっている。


「じゃあアリスが加減して魔法を使えばいいだけなんじゃ……」


「まあそうなんですがね……撃ち漏らしてお兄ちゃんにたどり着かれると守り切れるか不安なので……もちろんお兄ちゃんに防御魔法は使いますがね」


「じゃあ俺が遠くから見てればいいんじゃないか?」


「知ってますか? 魔物って相手が格上か格下か分かるみたいですよ?」


「今日一番嫌な情報をありがとう」


 逃げたくなってきた。どう考えてもヤバいやつです、どうしろと。


「ちなみに俺にかける防御魔法ってどのくらい強いんだ?」


「そうですね……付与している状態なら火山の火口に飛び込んでも平気程度ですね」


「いや、俺の心配要らないんじゃないか?」


 普通に火山より強い魔物なんて数えるほどしか居ないだろう。もはや伝承上の出来事だが火山が噴火して魔物も人も動物も周囲一帯が全滅したという記録が残っている。それに耐えられるなら大抵の攻撃が平気だろう。


「そうですか? お兄ちゃんにフレイムドラゴンのブレスとかが飛んだら不味いと思ったんですが」


「ドラゴンなんて人間の生活圏に出た途端に王立の討伐軍が出るだろうが! 森で出る魔物はせいぜい狼族か、でたところで熊系だよ」


 アリスは少し驚いた顔で俺を見る。


「お兄ちゃん、以外と詳しいんですね。私のスキルでもたかだかその程度しか出てこないとは分かってはいるのですが……やはり注意に注意を重ねるべきでしょう」


 慎重すぎる! 普通にこんなところにヤバい魔物は出てこないよ!


「落ち着け、アリスが魔物を狩るだけだぞ? 災害級の魔物を討伐するわけじゃないんだ。お前の防御魔法があれば森の生き物程度なら守り切れるって」


 俺は気楽にそう言う。守られる方が言うのもなんだが、人間の生活圏に近いだけあってそれほど強い魔物や魔獣は出てこない。


「うーん……まあ大丈夫そうではあるんですがね……お兄ちゃん、絶対に死なないでくださいよ?」


「俺はお前を信じてるよ」


 賢者のスキルなど関係ない、アリスの人として、妹としての人間性を考慮すると俺に危険がおよぶようなことはしないはずだ。


 アリスは肩を落として決意を固めたようだった。


「では行きますか! バフ魔法と防御魔法をお兄ちゃんにかけておきます!」


「フィジカルプロテクション! バイタルアップ! マテリアルウォール! ロジックバリア!」


 俺のからだが光に包まれて体力が満ちあふれてくる。これなら魔物相手に勝てないまでもアリスのところまで逃げてくるくらいの体力は十分そうだった。


「お兄ちゃん、準備はいいですか? 体調も問題無いですね?」


「どちらも良しだ。じゃあ行くとするか」


「はい!」


 こうして俺たちの森林地帯における魔物討伐戦が幕を開けたのだった。

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