命脈草を育てよう
「さて、命脈草の育て方を教えてください」
畑に着いた俺たちだが、アリスも命脈草の育て方までは賢者のサポートが得られないらしく俺に質問してきた。俺は知り得る知識の泉から該当する部分を引っ張り出す。
【命脈草、水が多めに必要、土壌の栄養素を吸い取るため注意、合成肥料を多めに撒くことを推奨、栄養素さえあれば自生さえする植物であり生命力は強い】
「この畑、確か肥料は大量に撒いてるよな?」
「ええ、私が買い占めたやつですね」
「後は水だけだな、結構必要だけど大丈夫か?」
基本的にこの畑の水はアリスの魔法に頼っている。空気中に水が生成されていく様は何度見ても神秘的だった。
「それは大丈夫ですけど……お兄ちゃんの知識の出所が気になりますね」
「農家ならこのくらいの知識誰でも持ってるだろ?」
「それはないと思いますがねぇ……まあいいでしょう」
「種は普通に撒いてもいいし、気をつけるなら上から土をかぶせるくらいでいい。栄養と水さえあれば世話の必要もほぼ無い」
「わかりましたじゃあ水を作っちゃいましょうか」
『ジェネレートウォーター』
水が大量に生成されて球形になった水がはじけて畑に降り注ぐ。
「相変わらず便利な力だなあ……」
「お兄ちゃんも大概だと思いますがね?」
「?」
「まあいいです、種を撒きましょうか」
アリスがストレージを開けて種子の詰まった袋がドサドサと落ちてくる。麻袋にして十袋、不良在庫だけあって結構な量が備蓄されていた。噂によるとこの村には人気の苗や種は回ってこずこうした動かない商品が割と入ってくるらしい。
ま、そのおかげで助かるわけだがな。
「巻き方はどうやるんです? 穴を開けて一個一個ですか?」
「見てみろ、こんな小さい種を一個一個なんて無理だろう?」
俺が袋の中に手を突っ込み種を掴んで取り出す。手のひらの上には小さな種が大量にある。命脈草の種は小さい、一つ一つ丁寧に撒くようなものではない。
「こいつはバサッと撒けばいいんだよ!」
俺は手を大きく振って種を広げるようにばらまく。ファサファサっと地面に種が落ちていく。雑な撒き方だが命脈草は栄養を吸い上げる力が強いので問題無い。
「そんなやり方でいいんですか?」
「ああ、水はたっぷりと撒いてあるからな。明日も水が必要にはなるが栄養は十分にあるからな」
「じゃあ私も!」
バサッと種をばらまくアリス、綺麗に風に乗ってあたりに散っていく。
バサバサと種をばらまいてまんべんなく畑の全面に行き渡っていく。巻き終わったところでスキルで確認をしてみる。
『問題無し』
「よし、問題無いな」
「よーし! それじゃあ帰りましょうか!」
アリスがいつも通りポータルを立ててその中に飛び込む。俺も一緒に入って見慣れた家までジャンプをした。
「さて、一週間くらいで収穫できるかな。アリス、そのくらいの時間はあるか?」
「ちょっと待ってくださいね」
アリスは思案してからスキルを使っているのだろう。頭のまわりにいくつかの光が出現して網を構築してパリンと割れた。
「問題無いですね、予測到達期間は一月です」
「よし、それじゃあ寝るか」
「はい! お休みなさい!」
こうして俺たちはその日の仕事を終えたのだった。翌日……
「私、なんであの種が不良在庫になっていたのか分かりました……」
辺り一面に茂っている命脈草の芽を見ながらそうつぶやくアリス。その原因はなんと言っても地面だろう。
なんと……カチカチに乾いてひび割れている。
「ここまで水を使うとはな……補給はできるのか?」
「それは問題無いですけど、この調子で毎日これだけ水を使うんですか……」
「出せないかな?」
「まあヨユーですね。ただ、ここまで消費すると思ってなかっただけです」
「ジェネレートウォーター」
また水が大量に畑に降り注ぐ。俺は『土壌調査』スキルを使って水が行き渡ったか確認する。表層の水は十分になっているが地中ではまだ水が足りないようだ。
「アリス、地中に水を入れられるか? これから根を張ってくるとかなり必要になりそうだ」
「了解」
『ジェネレートウォーター』
今度は地面に手をあてて水を作り出す。俺の方もスキルを使ってみるとしっかりと水が地面に行き渡っていた。
「よし、命脈草は放っておいても水と栄養があれば育つからいいだろ」
「簡単ですね!」
本当はものすごく資源を消費する植物なんだがなあ……賢者の力にベッタリ依存していることを自覚していないらしく、楽しそうにしている。多分楽して育てられると考えているのだろう。
その辺を説明するのが面倒になったのでポータルを開いたアリスに何も言うこと無く帰宅したのだった。
そして翌日……
「またここまでカラカラになってるんですか……」
「まあ命脈草って水の豊富にある池や湖や川の畔に自生してるものだからな」
再びカラカラになった土地を見て俺たちはそんな会話をする。
「でも育ちがいいな。この調子なら明日には収穫できそうだぞ!」
一本折って『植物鑑定』のスキルを使うと品質も成長度合いもかなりのものになっていた。水分が足りずややしなびているがこの程度なら水分を今から補給できる程度だ。
「じゃあちゃちゃっと水を用意しますかね」
いつも通り魔法を使って水を大量に作り出すアリス。相変わらずのとんでもない力だが、自由に使えるのはありがたいことだ。
表層と地中、両方に大量の水が生成される。俺は『土壌鑑定』スキルで調べてみると潤沢な水分が補給されていることが確認できた。
「お兄ちゃん、栄養の方は十分ですか? 結構必要でしょう?」
「ああ、鑑定したところ栄養の方はまだ普通かややそれより良いくらいの量がたまっている。というか今までの栄養量が少し過剰だったんだな」
「なるほど、じゃあ明日には収穫して薬が作れそうですね!」
「そうだな、薬の知識は無いからお前任せになってしまうけどいいか?」
「私だってもうちょっと活躍したいんですよ! ドンと来いです!」
頼もしく胸を叩くアリス、この村の未来は明るくなりそうだった。
かなりの量の薬草をどうやって収穫するかは悩みの種になりそうだった。これだけの量だが魔法で収穫できるのだろうか? そもそもそんなピンポイントに便利な魔法なんてものがあるのだろうか?
しかし……アリスならやりかねないという信頼感だけは確かにあって、理論的には心配するようなことでも心の方は落ち着ききっているのだった。