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冴えない旅立ち

「あー、俺の人生これからどうなるんだよ・・・」


時刻は19時を回った。


目の前のテーブルでは格安スーパーで買った2割引のショートケーキと大きなクラッカーが僕をあざ笑うようにこちらを見ている(気がする)。


「おいおい、庄司のやつ彼女できたのかよ、しかもめっちゃ可愛いしスタイルいいし、なんだよこれ・・・。

 あいつたしか最年少で地方番組のディレクターを任されて、出世コースに乗っているって聞いたことあるし。

 こいつ100人分くらいの幸せを吸い取ってるだろ、悪魔め。」


「えええ、中学の同級生だった遥ちゃんモデル雑誌の表紙を飾ってるのかよ!

 それよりもなんだこの完璧なスタイルは!

 神様、もしおられるのでしたら一度でよいので彼女とお付き合いをさせてください。」


気づけば1時間以上もSNSを見てしまっていた。


あの頃は同じ場所にいたのに、いつからこんなに差が生まれてしまったんだろうか・・・。


最近はSNSで同級生の近況を把握しては自問自答を繰り返してばかりいる。


こんなことをしても仕方がない。人は人、俺は俺なのだ。


自分が納得できればそれでよいのだ。


俺は俺なりのやり方で幸せを掴もう!


目の前のショートケーキは敗北を宣言したかのようにクリームが溶けてぐったりしている。


そうそう、何事もポジティブに行かなきゃ!


よし!食べよう!


「ケーキよ、今回は私の勝ちだ、苦しまないように一瞬で仕留めてあげよう。」


「その前に宴前のクラッカーだ!」


「俺はこれからも諦めず頑張り続けます!」


「3.2.1.」


ドパァァァアン!!!


その時であった。


自分を中心に半径1m程の赤い魔法陣?が展開され、すぐに頭上にも同じものが現れた。


「は?えっっ、なにこr・・・」


赤い魔法陣が現れてから飲み込まれるまで2秒ほどであったか。


俺は目が覚めると真っ白い床がどこまでも広がっている空間にいた。壁や建物、埃さえ一つもない。


「俺、死んだか」


約26年間、締まりの悪い終わり方になってしまったけれど、仕方がない。

これは運命だったのだ。受け入れよう。天国はあるのかな?来世は?


仰向けになり目を閉じながらこれまでの出来事を思い出したり、これからの事を考える。


そういえば中学校の校庭に埋めたボール回収してないな。


あー、中学生の頃好きだった春香ちゃん元気にしてるかなー。


これから俺はどこに行くのかな・・・?


「ようこそおいでくださりました。」


ああ、なんて優しい声だ。


この声は女神さまに違いない。


僕は天国へ行くことができたのだ!


「お疲れのことでしょう、健司さん。瞳を閉じたまま少しお休みになってください。」


はい!そうさせていただきます。女神様の声に包まれながら・・・。


・・・


・・・


・・・


「えっ、待って、あなた、弱い。」


・・はい、私はひ弱であります。それゆえ天国ではたくさんの方と協力しながら・・・


「は?こんなザコがあの大魔王を倒せるはずがないじゃない!」


・・・


え?女神様?今なんと?


「だーかーらー、あなたみたいな小心者でひ弱なザコは呼んでないの!」


ええええええええっ!!なになに、全然理解できないんですけどぉぉぉ!


瞳を開けると目の前には青い瞳をした、ブロンドの長髪で高貴なドレスを身にまとった美しい女性が気に食わない顔をして立っていた。


「だいたい何で友達もいない、社交性もない、パーティーとは無縁の生活をしているあなたが、な、ん、で、あの特大クラッカーを使うのよ!」


「あのクラッカーに転生魔法を施せば、少なくとも平均以上の運動神経と頭脳を持った適度に女性のエスコートに慣れている男子が来ると思ったのに!」


もっと他に方法あっただろぉぉぉぉ!


こんな特大クラッカーを使う人はせいぜい金髪の兄ちゃんだけだよ・・・


それかラブホ女子会大好きなSNS女子くらい・・



「あのー、すみません。色々お騒がせしているみたいですが・・・。僕ではダメですかねぇ?」


会って早々にディスられすぎているせいで何一つこちらに非がないように思えるが、とてつもなく気まずい。


「当ったり前でしょ?いい?あなたは理解力が乏しいようだから色々と説明してあげる。」


「あなたはね、私が長い年月を莫大な魔力をかけて作られた召喚魔法によって転生された勇者候補だったの!」


「他の召喚魔法と比べて労力が桁違いだった分、強い意志と可能性を秘めた勇者が召喚されるはずたったの!」


そうだったのか・・・気合の入れ方が違っていたわけね・・


でも、そんな目で睨まれてもねぇ・・


ん?他の召喚魔法と比べてってことは他にも転生された人はいるってこと?


「僕ってもしかしてめっちゃ弱かったりします?」


「うん、クソザコよ」と女神様


「あ、お名前を伺っていませんでした。教えていただければ幸いです・・」


「あなたに教える必要などないけど、まぁいいわ、召喚したのはこっちだし。」


「私はね、古より伝わりし美貌と明晰なる頭脳、包容力を兼ね備えた空間を操る女神クロノス様よ!!!」


決まったと言わんばかりに、これでもかという程に口角をあげて横目でこちらを見ている。


「ありがとうございます。」


「ええっ?それだけなの!?女神さまの名前を聞けてそんな反応ってなしでしょ!なしなしなしなしなし!!」


この女神様、もしかして、もしかしてだけど、かなり拗らせてる!?


「うるさいわね!この召喚魔法を完成させるのにこの何もない空間に何百年いたと思っているのよ!!!」


「そりゃ、メンヘラにもなるし拗らせるのも当然でしょうが!!!

 

 女子への気遣いが欠けているあたり、正真正銘のクソザコね。」


あ、さすが女神様、すべてお見通しだ。


願わくば召喚魔法を唱え始める前の、きっと容姿も中身も美しかった頃に出会いたかった。


「何か言った?」


「いや!本当にお綺麗な方だ!」


これ以上女神さまを考えるのは止めよう。

心の声もすべて聞こえてしまっているのだから。


「それはそうとクロノス様、他にも召喚魔法で転生された人はいるってことですか?」


「ええ、いるわ。人に限定はされないけどね。

 地球の中から召喚された生命体でもあれば、他の惑星から召喚されることもあるわよ。」


おおおお!!

やっぱり他の惑星にも生命体はいたのだ!

もしかしたらこの先で会えるかもしれない!

そう思うと転生も悪くないように思えてしまう。

何を隠そう、僕はSFが大好きなのだ。


「その、僕も一応、その、勇者候補みたいですけど、他の勇者より結構弱いってことですよね・・?」


「ええ。かなり。この際だから全部教えてあげる。

 勇者の平均ステータスは体力を除いた初期段階、つまりレベル1で総力1500って言われているの。

 これはたくさんの神々から集められた報告の統計だから間違いはない。」


「攻撃力、防御力、魔力、回避力、思考力の5つの合計でね。

 それと体力ね。基本防御力が高いものは体力も多くて、魔力や回避力が高いと体力は低い傾向にあるわ。」


「それに加えて召喚された勇者は個々にあったスキルが付与されるの。中にはいくつか覚醒する勇者もいる。」


おおお!


いままでやってきたRPGゲームに似ているな。

システムが似ているのは助かる。

こういうのって最初を生き抜けるか否かが肝心だからな。


「でもね、あなたのステータスを見させてもらったところ、合計で200程しかないのよ。

これまで召喚された候補者の最低が950であることからもあなたの残念さがわかるでしょ?」


「へぇ?に、にひゃk・・・200って・・」


いきなり突き付けられたあまりにも悲しい現実を前に、僕は26歳が発したとは思えないほど情けない声で聞き直す。


「ええ、その返答と同じくらい情けなくて頼りなくて救えないステータスよ。」


「ちなみに教えてあげると、これからあなたが召喚される世界”アスルド”にいる知的生命体の平均総力が350って言われているわ。」


はい、オワタ。


この世界では自分も活躍できる、みんなに認められると思ったのに・・・。

本当は情けなくて、恥ずかしくて泣きたいはずなのに・・・


自分のあまりにお粗末なステータスを思うだけで涙が枯れた。


「あ、自分、ほんとうにクソザコ君だったのですね。」


「わかりました、では、もう帰ります!あっちの世界も色々大変だけど、明日から頑張るって決めたので!貴重な体験をありがとうございました!」


そうだ、ステータスなるものが存在する世界で、こんなにも露骨な低スペックでは生きていけない。

色々やってみたいこともあった、見てみたいものもあったけど、元の世界で普通に生きよう!


「残念だけど、それは出来ないわよ。

 あなたの肉体は転生時の空間の歪みに耐えられずに消滅したし。

 もう私の魔法で人々の記憶からあなたの存在自体を消したから、帰る場所ないわよ。」


はぁぁぁい!?


えっ?消された?


じゃあ俺は元の世界に帰れないってこと!??

父さんや母さんも俺のことを覚えていないってこと?


「正確にはあなたの存在自体をなかったことにしたわ。

 私は異空間の転生には抜かりがないデキる女なの。

 それとね、もう元のあなたには戻れないけれど、地球に戻る方法ならあるわ。」


おいおい、こっちのことなどお構いなしですか。

勝手に転生しておいて戻れません、

あなたの存在は消しましたって・・・。


これは婚期を逃すバリバリのキャリア女子タイプですわ。


「もうあなた消える?」


「へっ?」


女神様がそういった瞬間、何もないはずだった空間に突如、ブラックホールのような球体がいくつも現れ時空が捻じ曲がる。


・・・・・・・・


あれ・・?


「やっと起きた、あなたあと2回しか復活出来ないから気を付けてね。」


はい・・・?


「あれ、言っていなかったっけ?

 転生された者は3回まで復活できるの。

 4回目に死んでしまったら肉体はおろか魂ごと大魔王の手に渡るわ。」


「はい、今初めて聞きましたけどぉぉぉぉお!?


それに3回しか復活出来ないのになんで今俺をコ〇したのか全然理解できない件について説明してもらってもいいですかねぇぇぇ!!!

しかも大魔王に捕まるって最悪の展開しか予想できませんけど!???」


「女神様は美しく可憐で気まぐれなの♡」

「大魔王に支配されるとアンデットとして荒野をさまようか、

魔王の配下の奴隷としてこき使われることになるから気をつけるのよ♡」


ダメだこりゃ。


ここに居たら女神様の気まぐれで消されるし。


もう”アスルドとかいう世界に行くしか選択肢はなさそうだ。”


「少し話が逸れたわね。地球に戻る方法を言っていなかったわ。」


「転生先であるアスルドにいる大魔王を倒して平和を取り戻しなさい。

 そうすれば唯一神であるゼウス様に望みを一つ叶えてもらえるわよ。」


「でも自分ステータスが低いし、もっと強い勇者を転生させて大魔王を倒してもらった方がよくないですか?」


「ええ、その通りよ。」


「え、じゃあなんで自分が・・」


「誰もあなた一人で倒せなんて言っていないじゃない。

 いつ出会うかはわからないけど、あなたの他に3つの生命体を召喚しているわ。」


「あとね、簡単に召喚魔法を使って転生できるとは思わないでちょうだい。

 召喚にはかなりの時間と魔力、それに私の生命源である”マナ”を使うのだから。」


おおお!早く出会えるといいな!


どんな人たちなのだろうか!?


頼りになる腕力自慢の剣士だったり?


みんなを援護する包容力抜群のヒーラーだったり?


魔法と剣術に優れた両刀魔法戦士だったりして!


それと召喚には色々制約があるみたいだ、マナというのは簡単に言うと残りの寿命みたいなもので、マナを拡大させることはほとんど不可能に近いらしい。


女神様も思っているより大変なのかも。


「最後にあなたのスキルについてね。」


おおお!!!


待ってました!


スキル次第ではステータスに依存しない多彩な戦い方ができるかもしれない!


「あなたのスキルはエリクサー職人改っていうスキルで、エリクサーを作ることができるわ。」


・・・え?


エリクサーってあのエリクサー!?


某ゲームではHPとMPを全回復できるあれ??


「そうよ、この世界ではかなり希少でね。

使うと全ての状態異常と全てのステータスを回復できるわ。

たまに能力の最大値を引き上げることもあるの。

でも普通手に入らない代物だし、強力だから同時に2つ以上持ち運ぶことはできないことになっているわ。」


「でもあなたは別よ、エリクサーを10個まで持つことができるわ。よかったわね、エリクサー職人さん。」


なんだこのカッコつかないスキルは・・・


勇者の仲間でエリクサー職人って聞いたことないのだが??


道具持ち的な・・?


こき使われる未来しか見えないの・・・


「深いことは考えなくていいの!

 あなたの役目はエリクサーを精製して勇者達の役に立つこと!」


「頑張ってね!一応期待しているわ!」


「じゃあ、もうアスルドに送るわね!」


女神クロノスは早く行けと言うように話を切り上げると、さっさと召喚魔法を発動させた。


「えっ?もう行く感じですか!?」


「うん!いってらっしゃーい!」


適当な言葉で送り出されると、辺り一面が白い光で覆われて何も見えなくなった。


「・・・頑張ってね・・あの人を・・・救ってあげて・・・お願いね、ひ弱な勇者さん・・」


女神様の声がかすかに聞こえてからはその先の記憶がない。


最後の言葉の”あの人”とは誰なのか。


考えていても何も始まらない。


これから自分にできることと言ったら・・・



・・・できることと言ったら・・・



エリクサーを作ることだけや。

最後まで読んでいただき本当にありがとうございます!


次回からは異世界での生活がスタートです!


更新は不定期になってしまうと思いますが、よろしくお願いいたします!


ご意見や感想お待ちしています!


Have a nice day !

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[一言] マジでかわいそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
2021/09/02 11:56 退会済み
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