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 私の子供が二人とも学校に通うようになると早速、マデリンから外で会おうという連絡がありました。


 久しぶりにカフェで会うことになり、待ち合わせの場所に着くとやはりマデリンは遅刻して来ました。


「ごめんなさいセシリア、お待たせしちゃって」


「いいけど、子供達との予定もあるからそんなに長い時間お付き合い出来ないわよ」


「ええ、わかってるわ。あと一時間ほどね」


 それからはマデリンの独壇場でした。よっぽど愚痴が溜まっていたのか、お茶を飲む間も惜しんで話し続けます。


「義母の子育てへの干渉が酷いの。私の意見なんて聞いてもらえない」


「夫は義母の言いなりよ。私の味方は誰もいないの」


「侯爵家なんて堅苦しいばっかり。私の子供たちには家を出て自由に生きて欲しい」


「セシリアが羨ましい。自由に生きて仕事も出来て。私は、外出も自由に出来ないし、本当に籠の鳥なの。こうしてセシリアに会うことだけは許されているのよ。それ以外はずっと家の中で義母と顔を突き合わせているわ。気分が落ち込んでしまうの」


 暗い顔で話すマデリンに私は同情しました。


「でも子供達はきっとあなたの味方よ。だから強く心を持ってね」


「いえ、子供達も甘やかす義母のところばかり行ってしまうわ。娘は『お母様のような生き方はしたくない』なんて言うし。私は義母のせいで子供にも馬鹿にされているのよ」


「それに最近体調も悪くて。薬ばかり飲んでいるわ。元々体温が低いから、微熱でも凄くしんどいの。今日も少し熱があるんだけど、せっかくセシリアに会えるんだからと無理して来たのよ」


「まあ、マデリン! そんなに無理してはいけないわ。すぐ帰った方がいいわよ」


「大丈夫よ。あなたに会えて気分も良くなったわ。心配してくれてありがとう」


 時間いっぱい愚痴を話し終えるとマデリンは手を振って帰って行きました。


 またしてもグッタリして帰宅した私をブライアンが心配してくれました。


「またマデリンか? そんなに疲れてしまうのなら、会うのをやめた方がいいんじゃないか?」


「ありがとうブライアン。でも彼女、私以外に愚痴を話せる人がいないんですって。辛い結婚生活を送っているようだからせめて話くらい聞いてあげようと思っているのよ。私は、あなたと結婚してとても幸せだからそれくらい……」


「だからって、愚痴ばかりぶつけるのは友達と言えないと思うよ。君はいつもマデリンに会うと暗い顔で帰ってくるもの」


 ブライアンはそう忠告してくれたのですが、その時の私はマデリンが頼れるのは私だけだと思っていたので、それ以降もマデリンの愚痴に付き合うことになるのでした。







 ある時、ジョイスが遊びに来ました。


「ジョイス! 久しぶりね! 来てくれて嬉しいわ」


「セシリア、私も会えて嬉しいわ。ようやく王都勤務になったのよ」


 軍所属のジョイスの夫は長く地方都市で勤務していましたが、この度昇級して王都に配属になったのです。今後は地方へ行くことはないらしく、頻繁に会えると思うと楽しみです。


 すっかり仲良くなって庭で遊び始めた子供達を見守りつつ、いろんな話に花を咲かせます。


「ケリーの農園のワインは今年優秀賞を貰っていたわね。今、注文が殺到して大忙しらしいわ」


「ええ、本当に美味しいワインですもの。賞を取ってたくさんの人に知ってもらえて良かったわね」


「ねえ、ところでセシリア。私、夫が昇級した時に王宮のパーティーに出席したのよ。パーティーなんて十年振りくらいで、緊張しちゃったわ」


「まあパーティーへ? 私もずっと出席していないわ。どうだった? 楽しかった?」


 私の夫ブライアンの商会は貴族よりも平民との商談がほとんどです。貴族と取引をするのはもっと高位貴族がやっている大きな商会ですから、私達は出る幕がないのです。

 だから社交界で顔を広げる必要性があまりなく、たまにお義父様が出席なさるくらいで私とブライアンはパーティーにはほとんど参加していないのでした。


「うーん、雰囲気は素敵だったけどね、パーティーって私には合わないわ。疲れちゃった。あっそうそう、マデリンを見かけたわよ」


「あら、マデリンに? 旦那様も?」


「それが、旦那様は相変わらず社交嫌いらしくて、マデリンはいつも一人で来るんですって。リリアナ達と五、六人でお酒も入ってキャッキャと騒いでいたわ。随分明るくなっていてびっくりよ」


「えっ、そうなの?」


(マデリン、パーティーでは明るくしているの……? それに、リリアナのことを嫌いなのではなかったかしら)


「マデリンと少し話したんだけどね、リリアナ達とは一緒に旅行したりショッピングしたり、仲良くしているみたい。『あの人達とは生活レベルが同じだから一緒にいて楽なの』って言ってたわ。やっぱり私達とは生まれ育ちが違うって昔から思っていたんでしょうねえ。なんだか生き生きしていたわ」


「そうなんだ……」


 私はマデリンにずっと聞かされてきた話と随分違うことにショックを受けていました。


「観劇にもハマっているらしくて、毎日のように劇場に通っているみたいよ。子供達を放ったらかしで。あ、これは別の人から聞いたんだけどね」


(観劇って、チケット代もかなりお高いはず。毎日行けるなんて羨ましいわ。あんなに、どこにも出掛けられない籠の鳥だと辛そうに言っていたのに)


「それとね」


 ジョイスは急に声をひそめて子供達に聞こえないように言いました。


「若い俳優に入れ上げてしまって、随分貢いでいるんですって。どうやら不適切な関係も結んでいるらしいの」


「ええっ! 本当に……?」


 ジョイスは真面目な顔で頷きます。


「社交界のご婦人方の間では有名な話みたい。マデリンの旦那様とお義母様は滅多に社交の場に出てこないから、噂が伝わってないんじゃないかって」


「不倫だなんて……子供達の耳に入ったらどうするのかしら」


 母親が不倫しているなんて知ったら、子供にはかなりの衝撃です。


「そうよねえ。そろそろ多感な時期だもの。でもそんなことを冷静に考えられないくらい、その彼に熱くなってるのかしら」


 私は、マデリンから聞かされていたこととジョイスが言っていること、どちらが本当のことなのかわからなくなってきました。


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