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 卒業後、私は大学へ通い始めました。平日は勉強に励み、休日はブライアンとデートをしています。


 マデリンは卒業から半年後に盛大な結婚式を挙げたようです。

 その後、しばらくするとマデリンから連絡があり、それ以降月に一度は会うようになりました。


「セシリア!」


 大通りのカフェで待ち合わせの時間より三十分遅れてマデリンがやって来ます。


「ごめんなさいね。イヤリングをどっちにしようか悩んでしまって」


「いえ、本を読んでいたから大丈夫よ」


 マデリンは毎回誘っておきながら遅れてくるので、私も時間を無駄にしないために必ず本を用意しているのです。


「先週買ったばかりのイヤリングなんだけど、少し派手かしら?」


「そんなことないわ。似合うわよ」


 一般的にはちょっと派手ではあるけれど、セレブらしさのある豪華なイヤリングでした。


「ごめんなさいね。屋敷に呼べたらいいんだけど、義母がうるさいから」


 マデリンが言うには、義母はマデリンのことを一日中監視していて、客が来たら侍女を寄越して会話に聞き耳を立てているらしいのです。


「全部義母に報告されると思ったら何も喋れないわ。だからセシリアに会うのはいつも街のカフェにしているの」


 もしそれが本当なら、確かに居心地が悪いことでしょう。


「セシリアと学生時代のノートのように文通をしようかとも思ったんだけどね、もしかしたら手紙も読まれてしまうかもしれないのよ。本当に、侯爵家っていろいろと制約があって辛いわ」


「大変なのね。マデリンも苦労するわね」


「そう、そうなのよ! 私、自由が無くてとっても辛いの。でも実家のお母様に相談しても、『侯爵家に嫁げたのだからそれくらい我慢しなさい』って言われるだけなのよ。お母様には昔から侯爵位以上の家に嫁がないと幸せになれないと言われてきたのに、いざ結婚してみると全然幸せじゃないわ」


「でもマデリン、お金に不自由していないのは羨ましいわ」


「そんなもの、幸せの物差しではないわ。お金よりも愛や自由の方が大事だと思うの。だからセシリアの方が絶対に幸せよ。私は不幸の星の下に生まれてきたのだわ。実家ではお母様に虐げられ、結婚したら義母に虐げられてるのだから」


 そう言いながら、美味しそうにケーキを頬張っています。


「そんなに辛いなら、子供が出来る前に離婚したらどう? その方が人生やり直しがきくわ」


「何言ってるの、セシリア!」


 マデリンは少し声を荒げます。


「離婚して実家に帰ったりしたらお母様に何て言われるか。きっと、みっともないからって二度と家から出してもらえないわ」


「それじゃあ、旦那様と二人で暮らしたらどうかしら。侯爵家所有のお屋敷、他にもあるんでしょう?」


「そんなの無理よ。夫はひどいマザコンなの。一人息子だし、義母の側を絶対に離れないわ。義父は愛人宅に入り浸っているから義母は夫にベッタリなのよ」


「まあ……あなたも大変ね」


 この話を聞くとさすがに私もマデリンに同情しました。とても辛い新婚生活のようです。


「だから、こうやってセシリアが親身に聞いてくれて嬉しいの。あなただけが信用できる。リリアナは夫の従姉妹だからこんな愚痴言えないし、マザコンだと知っていて私には黙っていたんだから許せないわ」


 そして二時間、みっちりといろいろな不満や愚痴を聞かされました。


 帰り際、マデリンはとてもスッキリした顔で


「ありがとう、セシリア。聞いてもらってなんだか気持ちが明るくなったわ。また連絡するから会ってね!」


 元気に手を振って迎えの車に乗り帰って行きました。


 私はドッと疲れが出ました。ほぼマデリンが喋っていて、私は聞くだけ。何か話題を変えようとしても、


「あらそう。そんなことより……」


 と、自分の話に持っていってしまうのです。


(聞くだけというのも疲れるものなのね……)


 私は徒労感を感じつつ、ストレス解消のためにケーキを買って家に帰りました。


 やがて私は大学を卒業し、ブライアンと結婚しました。


 ブライアンは父親の商会で下働きから始めていろんな仕事を覚え、今では支店を任されています。


 私との結婚を機に副社長に就任し、父親を補佐して経営に参加するようになりました。私も加わり、家族みんなで仕事を頑張っています。もの凄く大きな商会という訳ではなく、そこそこではありますが、贅沢しなければ充分に食べていけます。ブライアンも相変わらず優しいし、私は自分が幸せだと思っています。



 マデリンはその間に子供を産んだので、しばらく会うことはありませんでした。


 その後、私の出産とマデリンの二番目の子供の出産が同時期だったため、マデリンが子連れで遊びに来るようになりました。


「セシリア! お久しぶり」


 乳母に子供を抱かせたマデリンが私の家を訪れました。


「お久しぶりね、マデリン。まさか同じ月に子供が生まれるなんてね。そう言えば、ジョイスとケリーも今年初めての子供が生まれる予定なのよ。そのうち、みんな子連れで会えるわね」


「あら、そうなの……? でも私は、セシリアだけでいいわ。あの二人がいるとゆっくり話が出来ないから」


 相変わらずマデリンはあの二人が苦手なようです。


「上のお子さんは今日はどうしてるの? 」


「家庭教師が来ているのよ。お義母様がついてて下さるから大丈夫よ」


 上の子は男の子なので、義母の管理下に置かれているそうです。


 本当はいろいろ愚痴を言いたいのでしょうが、今日は乳母が一緒に来ているので下手な事は言えないみたい。


 当たり障りのない世間話と、子育ての話だけで和やかに時間は過ぎていきました。


(いつもこんなだったら楽しいのに。ずっと乳母がついて来てくれないかしら)


 愚痴さえ無ければマデリンは普通のお友達なのです。


 その後は私も二人目を産んだり、仕事を再開したりで忙しく、気がつけばあまりマデリンと会うこともなく年月が過ぎていきました。


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