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 次の日、学園に行くとジョイスとケリーが待ち構えていました。


「セシリア! 昨日のデートはどうだったの?」


「やだわ、二人とも朝から……」


 そう言いながらも私も話したくてウズウズしています。他の人に聞こえるといけないので、廊下に出て固まってコソコソ話しました。


「ブライアンったら素敵じゃない」


「これからも一緒に帰るんでしょ?」


「うん、それなんだけど……」


 私は昨日のマデリンのことを二人に話しました。すると二人はお互いに顔を見合わせました。


「ごめんね、セシリア。私達、何も考えずに先にグループを抜けてしまってたわ。ねえセシリア、私達がマデリンと一緒に帰るから、あなたはブライアンと帰っていいわよ」


「えっ、でも……二人とも彼氏はどうするの?」


「私達はもう付き合ってからしばらく経ってるし、関係も落ち着いてきたわ。でもセシリアはまだ始まったばかりで今が一番楽しい時期じゃない。お昼も帰りも、私達がマデリンと一緒にいるから、安心してイチャついてらっしゃいな」


 どんと胸を叩いて言ってくれる二人に、私は心から感謝しました。


「ありがとう! ジョイス、ケリー、大好き!」


 そこへマデリンが登園して来ました。


「おはよう。みんな、廊下で何してるの?」


 ケリーが早速マデリンに今の話をしました。


「おはよう、マデリン。いいところに来たわ。セシリアとブライアンが付き合い始めたでしょう? だから今日からしばらく、私達と帰りましょうよ」


「えっ。セシリアは?」


 マデリンの顔が曇ります。私はちょっと不安になりました。


「セシリアは、今が大事な時なのよ。ブライアンと仲良くさせてあげましょうよ。ねっ?」


「……セシリアは、私といたくないの?」


「違うのよ、マデリン。私とブライアン、まだ全然お互いを知れていないから、話す時間がいくらあっても足りないくらいなの。だから、しばらくの間、悪いんだけど……」


「わかったわ。セシリアは私よりブライアンが大事なのよね。もちろんそうだわ。そんなのわかってたことだもの。私がセシリアと新しいカフェに行きたいと思ってるなんて、あなたにとっては大したことではないのよ」


 涙を浮かべ弱々しく話すマデリンに、私は急に申し訳ない気持ちになりました。


「ごめんなさい、マデリン。やっぱり今日はあなたとカフェに行くわ。ジョイス、ケリー、明日からお願いしてもいい?」


 ケリーと顔を見合わせて仕方ないな、という表情をしながらジョイスが言いました。


「わかったわ、マデリン。明日から私達と一緒に帰りましょう。それと、今日のお昼休みは久しぶりに四人で食べましょうね」


 マデリンも頷き、なんとかその場は収まりました。でも暗い顔をしているマデリンを見て、私は自分がすごく利己的で、自分勝手で、思いやりがない人間のような気がしてきました。


(友達と好きな人、どちらも大切なんだけど……どうしたらいいのかしら)


 ジョイスやケリーのように、マデリンもてっきり祝福してくれるものと思っていた私は、なんだか気分が落ち込んでしまいました。



 その日の昼休みは、四人で過ごしました。四人でいると、マデリンは何も喋りません。みんなの言うことを聞いていて相槌を打ったり笑ったりしています。


 私と二人でいる時のように、愚痴や悩みを口にすることはありませんでした。暗い話を聞かずに楽しく食べるランチはとても美味しい、と感じた私は薄情でしょうか。


 そして放課後、私とマデリンは二人で新しく出来たカフェに行ってみました。


 内装がとてもお洒落で、メニューも豊富にありました。次はブライアンと来てみたいなと思うような素敵なお店でした。


「セシリア、今日は我儘言ってごめんなさいね」


 マデリンに謝られると、私も胸が痛みます。


「私こそごめんね、マデリン。決してあなたを蔑ろにしているわけではないのよ」


「ううん。私なんて、話もつまらないし、親からも見放されてるし、なんの取り柄もないんだもの。セシリアが私と一緒にいても退屈だと思うのは当然だわ。だから今日は、最後だと思って楽しむわ」


「マデリン、そんな事言わないで。ずっとって訳じゃないのよ、少しの間だけブライアンと一緒に帰らせてもらえたらなって……」


「いいえ、いいのよ。行ったらいいと思うわ。だってあなたは幸せいっぱいなんですもの。でも私だったら、彼氏が出来ても友達は大事にする。放課後は友達との時間を優先するし、絶対、邪魔者扱いしたりしない。それが親友だと思うから。でも気にしないで。あなたと私の考え方は違うんだから」


「ごめんなさい、マデリン……」


 こうして言葉を書きだしてみるとキツいように思えますが、実際のマデリンは眉を下げ、弱々しく、悲しそうに話すので私は罪悪感でいっぱいになりました。


「セシリア、私はあなたを信頼してるの。あなたになら悩みを話せるって思ってた。ジョイスやケリーは明るすぎて、悩みなんて笑い飛ばされてしまうから話せないの。親身に聞いてくれるのはあなただけなのよ」


 そう言われると、マデリンよりブライアンを選ぼうとしていた私は酷い人間のように思えてきました。マデリンの話を聞いていると暗い気分になったりモヤモヤが溜まったりするのですが、それさえも私が悪いような気がします。


 そんな感じで、せっかくのお洒落なカフェも全く楽しめないままでした。こんなに責められるくらいならブライアンと別れた方がいいのではないかと思うほどでした。


 それでも翌日は、ジョイス達がマデリンを連れ出してくれたので、私はブライアンと一緒に昼も放課後も過ごすことが出来ました。


「マデリンは大丈夫なのかい?」


 ブライアンが気にしてくれています。


「ええ、ジョイスとケリーが一緒に居てくれているわ。でもあの二人もやっぱり彼氏と過ごしたいと思うから、交代にしようと思うの。だから三日に一回は一緒に帰れないけどそれでもいい?」


「もちろんさ。三日に二回も一緒にいられるなら嬉しいよ」


 なんてポジティブに考える人なんでしょう。私は二回しか、と思っていたのに彼は二回も、と考えるのです。そう思うととても気持ちが楽になりました。


 それからは、お昼休みは四人で過ごし、放課後は三人が交代でマデリンと帰る習慣になりました。


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