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エッセイ 

「日本は世界一の人権先進国だ」「(笑)ぷーくすくす」「笑うな! シャラップ!」事件を振り返る、さて日本の人権とは?

作者: NOMAR

(* ̄∇ ̄)ノ 寄才ノマが極論を述べる。人権ってナンダ?


 2013年5月22日

 スイスのジュネーヴで開かれた国連拷問禁止委員会にて、日本政府の代表として出席した上田秀明・人権人道大使の発言が話題になりました。


 会議の中、アフリカのモーリシャスのドマー委員が、


『日本の刑事司法制度は自白に頼りすぎではないか?』


 と、自白の強要から冤罪の発生する日本の司法制度を批判。これに対して上田大使は、


『日本は世界一の人権先進国だ』


 と、反論しました。

 この発言に会場から失笑が漏れると上田大使は、


『笑うな! シャラップ!』


 と叫びました。

 この映像は今もYouTubeで見ることができます。


 日本を代表する人権人道大使の発言から、日本の人権とは、強権でもって黙れ、というものだと世界にアピールする一件となりました。


 このような出来事から、日本人には国連の推奨する人権思想は理解できない、とも言われます。


 社会の力関係を是正し、強者から弱者を守ろうとするのが人権ですが、それを単なる『思いやり』にすり替えてしまうのが日本の人権とも呼ばれます。


 弱者が人権保護を求めるのは『他人に対する思いやりに欠ける行動』であり、弱者に対し思いやりを強要することで、人権を権力にとって都合よく使おうとするのが日本のやり方とも言われます。


■人権とは?


 人権、human rightsとは、人間であるということに基づく普遍的権利のことです。


 欧米では人権は、キリスト教プロテスタントの中から生まれました。

 キリスト教では神が人を特別に作ったとされます。

 これが人として産まれた者は他の動物とは違い、人としての特別な権利、人権がある、という考え方になりました。

 この人権思想が為政者よりも正しい存在、神を根拠にした人民の権利となりました。


 フランス人権宣言の前文より。


『国民議会を構成するフランス人民の代表者たちは、人権についての無知、忘却あるいは軽視のみが、公衆の不幸および政府の腐敗の原因であることにかんがみ、人間のもつ譲渡不可能かつ神聖な自然権を荘重な宣言によって提示することを決意した』


 神聖な自然権とあるように人権を支える根拠となるのが神聖、つまりキリスト教の信仰となります。


 人民は国王が善き君主であれば従いますが、悪辣な暴君に対しては抵抗する権利を主張しました。


 フランス人権宣言

 第2条(政治的結合の目的と権利の種類)

 『すべての政治的結合の目的は、人の、時効によって消滅することのない自然的な諸権利の保全にある。これらの諸権利とは、自由、所有、安全、および圧制への抵抗である』


 不当な権力に対して人々が抵抗することを、抵抗権と呼び、権利の一種として規定しているのです。


 その権利は神が後ろ楯となり支えます。この人権思想が民衆に力を与え、革命の原動力となりました。


 人が人として生きる権利は、例え国王であっても犯すことができず、為政者が違反した場合には聖書が証す神が、『権力者を倒して良し』と保証してくれることになります。


 人権とは、対国家権力の為の抵抗権が起源でもあるのです。


■抵抗権


 この抵抗権が憲法に明記されている国のひとつがアメリカです。


 アメリカ独立宣言から、


『われわれは、次のような真理をごく当たり前のことだと考えている。つまり、すべての人間は神によって平等に造られ、一定の譲り渡すことのできない権利をあたえられており、その権利のなかには生命、自由、幸福の追求が含まれている。またこれらの権利を確保するために、人びとの間に政府を作り、その政府には被治者の合意の下で正当な権力が授けられる。そして、いかなる政府といえどもその目的を踏みにじるときには、政府を改廃して新たな政府を設立し、人民の安全と幸福を実現するのにもっともふさわしい原理にもとづいて政府の依って立つ基盤を作り直し、またもっともふさわしい形に権力のありかたを作り変えるのは、人民の権利である』


 アメリカは当時のイギリスの圧政から独立戦争を勝ち抜き産まれた国なので、為政者への抵抗権が重要となります。

 圧政に対しては人民が武力でもって現政府を打倒することが、人の権利であり義務となります。


 アメリカ合衆国憲法より


 修正第2条

 『武器保有権』

[1791 年成立]

『規律ある民兵団は、自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し携行する権利は侵してはならない』

 

 アメリカが銃社会であるのは、いざというときには民衆が政府と戦うことが義務であり権利だからです。そのために民衆には武力を持つ権利があります。

 銃乱射事件が起こる度に銃規制の案が出て来ますが、銃規制が進まないのはアメリカの国の成り立ちに関わるからです。


 抵抗権は人権に含まれ、民衆が武力を持つことを厳しく規制すれば、抵抗権に障ることになり、人権侵害に繋がります。


■日本の抵抗権


 日本の政府が警戒したのはこの抵抗権です。

 為政者に抗う抵抗思想が民衆に広まることを防ぐ為に、豊臣秀吉はバテレン追放令を出し、徳川家康はキリシタン弾圧を行いました。

 明治政府もまたキリスト教を弾圧しました。


 キリスト教にある、神のもとに人は平等という思想が広まれば、為政者を絶対視せず一揆や反乱が増えることを警戒したのです。


 日本にはキリスト教的な抵抗思想が広まらないように、と為政者が苦心してきた歴史があります。その努力の結果に日本では抵抗権が現代でも普及していません。


 人権とは対国家権力の抵抗権が出発点であり、この抵抗権の認識の違いが日本の人権と欧米の人権の大きな相違点となります。


■ドイツの抵抗権


 ドイツもまた憲法に抵抗権が書かれています。

 ドイツではナチスの起こしたことを歴史の教訓としています。


 ドイツ連邦共和国基本法

『政府が憲法と国民に背き、これを正す手段が他に一切ない場合に、国民は抵抗権を発動できる』(基本法20条4項)


 ドイツではこの抵抗権から、国民が政府を監視し、いざというときは政府を打倒することが国民の義務という考え方が普及しています。

 では、ドイツと日本の違いを見てみましょう。


■学校の授業


 ドイツの政治教育の特徴には、

『ボイテルスバッハ・コンセンサス』

 という大原則があることです。


①教員は生徒の期待される見解を持って圧倒し、生徒が自らの判断を獲得するのを妨げてはならない。


②学問と政治の世界において論争があることは、授業の中でも論争があるものとして扱わなければならない。


③生徒が自らの関心・利害に基づいて効果的に政治に参加できるよう、必要な能力の獲得が促されなければならない。


 ボイテルスバッハ・コンセンサスのもと、ドイツの教育は『喋る』ことが重要になります。発言の有無が成績にも繋がります。

 自由な議論の在り方を教室で学んでいくことになります。


 日本では、法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育や、その他政治的活動をしてはならない、とされます。

 このために学校の教師は政治に関わる自由な発言や議論ができなくなります。生徒と政治討論し、特定の政党を批判することができないのですから。


 選挙期間中に立候補者が小学生や中学生、高校生といった、未来の有権者と討論会を行うドイツとは真逆の教育方針となっています。


 また、ドイツでは小学生のうちから『抗議から社会運動までの手順』を学びます。

 

 子供向けのテレビ番組でも、町の公園に問題があると、子供たちが市長や行政の担当部署に掛け合うというドキュメント番組を放送しています。

 ドイツでは小学生から正しいデモの仕方を学ぶなど、市民が行政に関わる手段を学習します。


■デモの違い


 日本のデモには効果が無いと言われることがあります。

 デモとはデモンストレーションであり、極端に言えば、現政府がやり方を改めなければ民衆は武力で現政府を打倒する。民衆にはその権利と義務がある、という示威行動がデモになります。

 抵抗する権利を憲法に認める国ほど、デモには効果があることになります。


 抵抗権が蔑ろとされる日本でデモの効果が薄いのは当然となります。


■労働時間


 ドイツと日本の大きな相違点に労働時間があります。

 先進国の中でも、最も労働時間が短いと言われているのがドイツです。

 ドイツの年間平均労働時間は約1363時間です。

 日本の一般労働者の労働時間は年間平均約2018時間、そして、15~64歳男性の平均労働時間を休日も含めた1日あたりの時間で算出すると、2014年のデータでは日本はOECD諸国の中でトップの375分となります。


 ドイツの労働時間の短さにはドイツ人の合理主義もあるでしょうが、ここに抵抗権も関わってきます。


 政府を監視し迷走を防ぐ為には、今の政治について学ばなければなりません。労働の為に時間を取られたなら、政治について調べる時間も無く、選挙に立候補した人のマニフェストや所属する政党の方針、これまで行ってきたことや履歴書を確認する時間も取れません。


 労働時間の長さを自慢し、仕事が忙しくて選挙に行く暇も無い、というのは消極的な無政府主義者とも言えるでしょう。


 労働時間を短くしなければ、最新の政治について学ぶ時間も取れません。国民に政治に参加させよう、という国ほど労働時間違反と有休休暇の未取得に対して、企業への罰則が厳しくなります。


 労働時間の長さを誇る企業とは、消極的な無政府主義者のテロリスト予備軍を育てていることになります。


■生涯学習率


 ニューズウィーク日本版には『日本の成人の生涯学習率は先進国で最低』という記事が掲載されました。


 日本の生涯学習率は1.6%とランキング18カ国の中で最も低く、学校で学ぶ成人が少ないのが日本の特徴です。

 生涯学習率の高い国はフィンランドの8.3%で日本のおよそ4倍になります。


 日本は教育大国と言われていましたが、それは20歳未満に限った話で、生涯のスパンで見ると先進国の中では最下位となります。


 勉強は未成年のするもの、というのが日本の風潮でもあります。これには大人がいろいろなことを学び政府を監視することが国民の義務、と考える人が少ないからではないでしょうか。


 北欧で生涯学習率が高いのは抵抗権の存在が大きいと考えられます。


■天賦人権説


 キリスト教を背景にした人権思想は、人は生まれながらに人として特別な権利を神から与えられた、となります。これを天賦人権説と呼びます。


 一方でキリスト教の普及していないアジアではアニミズムが文化の背景にあります。

 アニミズムとは、生物・無機物を問わない全てのものの中に霊魂、もしくは霊が宿っているという思想です。万物に魂が宿るとする日本の八百万信仰が分かりやすいところでしょう。


 アニミズムでは人も他の動物と同じ命、という考え方になります。そのためアニミズム背景の文化ではキリスト教背景の文化とは違います。神が人だけを特別に作った、という考え方から始まる人権思想は理解しにくい、とされます。


 日本ではこの天賦人権説が馴染まず、キリスト教圏でも無いために、誰が人権を保証するのか? というところに誤解が生じます。


■ホームレスの人権は?


 定額給付金について、こんなことを言う人がいました。


「ホームレスにまでなんで給付金を出すんだ? あいつらは納税もしてないから税金から給付金なんて出さなくていい。義務を果たしていないホームレスに人権なんて無い」


 これは天賦人権説から見ればおかしな意見です。天賦人権説では、人は生まれながらに人としての権利を持ち、それは税金を払ったか払わないかとは無関係です。

 納税などの国民の義務を果たしたことで国家が人権を与えるとすれば、それは国賦人権説とでも呼ぶべきでしょうか。


 市民としての義務を果たすことで福祉というサービスを受ける権利を持つ、とするのは市民権、公民権となります。

 自然権の人権と、国家が与える権利の市民権とは区別して考えた方が良さそうですが、日本では人権は市民権と混同している人が多いです。


■LGBT問題


 2014年、国連自由権規約委員会が日本に出した勧告の中には、


『公営住宅に同性カップルが入居できるようにするべき』


 というものでした。これに対し日本政府は、


『公営住宅法の改正によって、同性カップルは入居できるようになっている』


 と、回答しました。


『本当に同性カップルが入居できているのか?』


 という質問が日本政府にされましたが、政府は、


『法律を改正したことによって、入居の条件は自治体が決めることになった』


 と、回答しました。


 実態は自治体では同性カップルの公営住宅の入居は拒否されています。日本政府は、法律は整っているのだから問題は自治体に責任がある、と説明したことになります。


 この説明とは、日本政府は人権問題に関しては政府には責任は無く、国民の無知と勉強不足に責任がある、と諸外国に説明したことになります。


 人権啓発としてよくあるのが『思いやり』です。人権啓発冊子のタイトルでも『思いやりと優しさのハーモニー』というのがあります。

 日本では人権と道徳が混同されがちです。

 例えば、『みんなで仲良くしましょう』というのは、裏を返せば、『仲良くできないのは市民の責任』と、政府は責任転嫁ができます。


 国民の無知と勉強不足を諸外国や国連への説明理由としている日本政府としては、日本人が人権と道徳を混同している方が都合がいいのかもしれません。


『みんなで仲良くしましょう』というのは道徳の問題ですが、仲良くできない人とも共存し、互いの人権を尊重する為にはどのような制度が必要か? というのを考えるのが人権の問題になります。


 日本の人権とは欧米の人権から抵抗権を省き、そこに市民権と道徳を混ぜたもの、と言えそうです。


■アジアの人権


 1993年、タイのバンコクで、バンコク宣言が採択されました。


『普遍的人権保障に真っ向から挑戦する』


 と、されるバンコク宣言。


①人権は相対的なものである。


②人権は国内問題であり、NGOを含め外部からの介入を許すものではない。


③アジアでは社会権の実現が肝要であり、集団の権利たる発展の権利が国際社会によって確保されなくてはならない。


④先進国の人権政策は一貫性を欠いており、援助供与の条件に人権を用いることは不当である。


 このバンコク宣言が欧米の人権思想に対するアジアの見解とされます。

 アジアの人権と欧米の人権と日本の人権。どれも『人権』と呼ばれますがその中身は大きく違って来ます。


■まとめ


 上田秀明・人権人道大使が失笑されたのは、この各国の人権の違いを認識していなかったからではないでしょうか。特に日本では人権問題をうやむやにしようと、人権を道徳や市民権と混同し改変しようとします。


 今も抵抗権を警戒する日本政府は『人権=思いやり』といった人権啓発を行っています。思いやりの強制で解決できるのは民衆同士の小さな問題で、国家と民衆の関係では思いやりなど何一つ効果はありません。


 国家が国民に思いやりを強制すれば、


『コロナ復興税を導入し、消費税を段階的に上げて30%に。健康保険、年金、介護保険の徴収を3倍に。この政策に反対する人は思いやりの心が無い』


 ということにもなりかねません。


 人権問題から道徳を考えることは可能ですが、道徳では人権問題は解決不可能です。思いやりで解決のできなかった現代の問題が人権問題となるのですから。解決に必要なのは、法律と制度の改革になります。


 人権思想については日本に輸入した際に和魂洋才と改造されました。

 

 福沢諭吉の学問のススメでは欧米の権利や平等の概念について解説されましたが、抵抗権は否定されました。


 日本の人権と欧米の人権を同じものと考えるのが間違いのもとと思われます。


 これはトイレを例に出すと分かりやすいでしょうか。

 日本のトイレはかつてはほとんどが和式トイレでした。現代では洋式のトイレの方が多くなり、飲食店や公共施設では和式トイレを見かけることも少なくなりました。


 和式トイレも洋式トイレも同じトイレと呼ばれますが、その形は大きく違います。


 そして人権にも洋式と和式の違いがあり、国連の推奨する世界の人権と、アジアがバンコク宣言で主張したアジアの人権と、日本の人権は同じ『人権』と呼ばれても中身は違うということになります。


『日本は世界一の人権先進国だ』


 この上田秀明・人権人道大使の発言も、


『日本は国賦人権説において、世界一の人権先進国だ』


 とすれば誤解は無かったかもしれません。


 日本はトイレは和式から洋式に変わりましたが、人権はまだ和式から洋式に変わってません。


 また、無理に和式人権を洋式人権に変えることも無いのでしょう。洋式よりも和式がいい、という人が多いのですから。


 ただ、日本の人権と国連の推奨する人権には違うところがある、ということは知っておいた方が良いのでしょう。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 日本は国連の社会権規約・自由権規約に批准しているのでしょうか? そりゃ戦争に負けたからでしょう。国際ルールでそうなってしまったのなら従うしかありません。 松前藩がアイヌ民族を半ば奴隷と…
[一言] 会場が静まり返ったならそれでよかったのでは? 相手は日本が反論してくると思ってなかったのだろう 日本は人権国家だと日本が言って、あなた達は人権国家ではありませんよと返されなかった。 外交…
[一言] 外国の人権意識なんて正直しょうもないと思うがね。結局の所、彼らが叫ぶのはもっと自分達を優遇しろ!もっと金を出せ!の二つだろう。 当時の日本がキリスト教を脅威に感じたのは当然だと思います。キ…
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