白い影と黒い影
家まであと半分ほどだろうか、
バイト終わりで疲れているので息を整えるために少しだけ歩く。
バイト先からそこそこ離れたので緊張がほぐれ、狭まってた視界が元に戻っていく。
「やっぱり今日の月綺麗だな。」
普段は気に留めないのにどうしてだろう。
ふと、視線の淵に白い影が浮かんだ。
驚いてそちらの方に目をやる。
白い猫だった。
その白い猫は月明かりに照らされて美しく見える。
しばらくその猫を止まって眺める。
猫もこちらの様子を伺っている。
しばらくすると猫は走りさってしまった。
それを見送って自分も歩きだす。
白い月に白い猫
カイジュウの件で今日はついてないと思ったが、なかなか美しいものを見れたと少し気持ちが和らいだ。
しばらく歩いてからもう一度走りだす。
家がある場所は住宅地だが、田舎なこともあり街灯が少なく、すこし心許ない。
(さっさと走って過ぎてしまおう)
そう思い、動かしている足に力を入れ加速しようとする。
その瞬間
ドン
重たいものが何か打ちつけられる音が遠くでした。
音のする方を向こうとする。
(あれ、身体が動かない。)
体に力が入らない。
更に目の前が真っ暗だ。
自分がどんな状態になっているのかがわからない。
(なんだろう、これ)
次第に身体の感覚が戻ってくる。
そして自分の頭が壁に打ちつけられたことに気づく。
(なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ)
頭の処理が追いつかない。
次第に打ちつけられた部位が痛みだしてくる。
呼吸が出来ない。
身体が動かない。
自分の頭を掴んでいるものが、今度は喉元に位置を変える。
目の前には、
真っ黒いものがいた。
恐怖で意識が飛びそうになる。
しかし、その黒いものが喉元を摑んで、自分の頭を何回も壁に打ちつける。
「ああがぁあいが、がが」
言葉にならない悲痛の叫びが出る。
さらに、何回か打ちつけたあと、壁に頭をこすりつけられる。
(アツイ、イタイ、アツイ、イタイ、クルシイ、イタイ、クルシイ)
痛みで冴えた頭が、今度は痛みで処理出来なくなり、次第に意識が消えていく。
「こ#¥き¥%@&い@」
目の前の黒い物が何か呟いたようだったが。
その言葉を理解する前に彼の意識は途絶えてしまった。