まっすぐ帰りなさい
店の外に出た。
なんだかやけにきれいな満月が夜を照らしていて少し不安になった。
(ちょっと怖いな、家が多い方から帰ろう。)
といっても、多少家や店が並んでいるが、夜11時を回っていることもあり、ほとんどの店は畳まれているし、家も明かりが消えているのがいくつか見えるので少し心許ない。
(走って帰るか。)
そう思い走る態勢に入った。
すると、
「ちょっと君良いかな。」
ビクッと体が反応する、声のする方を見る。
街頭の明かりに照らされて、少し怪しげなおじさんが立っていた。
「君ここらでカイジュウが出たっていうのに危ないじゃないか。」
「あなたは誰ですか?」
このおじさんがなんとなく心配してくれているのがわかったが、時間的にも、状況的にもどうにも怪しく感じてしまう。
「ああ」
「すまない」
「私はこういうものだ。」
怪しいおじさんは懐から紙を取り出した。
どうやら名刺のようだ。
ある一定の距離を保ちながら名刺を受け取る。
名刺にはカイジュウ対策北部支部
大木繁と書いてある。
この人が店長の言っていたカイジュウ専門の人のようだ。
「カイジュウ専門の人が何か用ですか?」
少し強めの口調になってしまう。
「いやだからカイジュウが出たのに外を出歩いているなんて危ないだろう。」
「もし、よかったらおじさんの車で送っていこうか?」
誘拐する怪しいセリフにしか聞こえない。
「いえ、結構です。」
「徒歩でも走ればすぐなので。」
本当は少し時間がかかってしまう場所に住んでいるが嘘をついてしまう。
「こういう時に警察が居てくれれば良いんだが。」
「わかった。」
「気をつけて帰りなさい。」
「ただし絶対に周り道をしては行けないよ。」
「わかったかい?」
おじさんは諦めた様子でそう呟いた。
「わかりました。」
「まっすぐ帰ります。」
生返事をしてそのまま走りだす。
とりあえずおじさんもカイジュウも怖いので、ひたすら走った。