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Hav av herdar(羊飼い達の海) 後編

作者: 水底に眠れ

残念だったな!新作でなく続きだ!

1331 赤旗勲章バルト艦隊(Red-Banner Baltic Fleet)第2戦隊旗艦 重巡洋艦クロンシュタット



 これまで同航戦を行っていたスウェーデン艦隊に変化が見られた事は、すぐに見張り員及びトップの主砲射撃指揮にあたる砲術科員によって確認がなされた。



『敵艦隊、同航のまま回避行動を開始!艦隊速力落ちます!』

『射撃継続。この艦隊をそのままにしておいては空挺部隊の支援に差し障りが出る』



そう命じる同志提督にも疑問の色が出ている。今更である。撤退ではなく我々との戦闘を継続なぞ、ただただ死ぬまでの時間を延ばすことでしかない。あまりにも不可解な戦術行動ではあった


『同志政治士官』

『ハッ!ドイツ人の水上戦力はおおよそ位置を把握出来ています同志提督。キール運河は偵察のための工作員を配置しておりますし、通信傍受でも艦艇の移動は確認されていません。少なくとも昨日の内には』



 この場に戦力を持ち込めそうな相手の動向は把握している。最新情報ではないが、何かあればコトリン島の艦隊司令部から通信が来るはずである


『英国等の参戦があれば尚更、だな』



同志提督も腑に落ちなさそうではあるが頷く。

そう。スウェーデンが諸王国連盟(LR)に加盟しての、 英海軍によるエーレスンド海峡を通っての来援が作戦立案の初期に浮かんではいた。が、現加盟国ではない国の紛争に介入する事で、必然的に戦域を世界規模に拡げるのだから参戦にはよほどの調整が必要となるし、大規模な戦時体制にはどの加盟国も至っていない為、仮に動くとしても事後であろう。との分析はそうは間違っていない様に思えたからこそ作戦実行に移したわけであるし、実際その兆候は一切見られていない。

 連盟として結成されたが故に我々と較べて遥かに外交上の自由度が低くなっているのだ。かの反動共に対して、戦略的先制有利は我々が常に保持するであろう。これがSTAVKAスタフカの見解であり真理で間違いない。であるならば、この戦術行動は一体なんであるのだろうか?わけがわからない。これはどうせ自棄になっているのだ



『同志提督。フィンランドの連中が立ち上がったとしても、ソビエツキー・ソユーズで対応出来ますし、スカンジナビア連合として考えてもノルウェーには本艦に対応するだけの艦艇を保持してはいません。今は眼前の敵を叩きましょう!』


 と、現状を肯定し不安を払拭する言動を行なう。勝利がそこにあるのだ、早いか遅いしかない。同志提督が望んでいるのはこれだろう。盤石の態勢で我々は今ここに居るのだ


『至極もっともであるが、警戒を怠るわけにもいかんな。何か不審な点があれば誤報を恐れず報告するよう各員は努めよ。艦長、何事も見逃すな。電波統制も解除する』

『ダー、状況の変化に注視します。対空、対水上見張りを厳とせよ』


 同志艦長が頷いて部下に指示を出していく。我が艦の捜索レーダーはGyuis-1Bであるが、これの対空探知距離は5万m程度、射撃管制用のレーダーとなるとRedan-1で1万8千m程度であるため、今現在敵艦隊との砲戦距離が2万mであるから、起動させてはないかった。それに火が点り、電子の目が見開いていく


『空襲を御警戒ですか?』


 今、敵に行えることを考えると取りうる選択肢はそう多くは無い。しかし、ヴィスビュー空港を抑えているため、飛んでくるとしたらスウェーデン本土からになる。それならば陸上からの探知等で十分空軍への支援要請も間に合う。潜水艦はよほどの僥倖がなければ戦端を開くまでの時間が短かったが故に展開が間に合っていない事は見えていた


『あるいは水雷艇だな』

『ああ、なるほど』


 北欧各国はイタリアから輸入をして湖沼用も含めて魚雷艇の運用に長じている。その機動性から来襲を警戒したのだ。しかし、そこを見越して昼戦に至ったのだから、いくら船高が低く低視認性ローヴィジュアルだからといって見逃す可能性は殆どないはず。水上は靄も無く、見通しは最高と言っていい。盤石も良い所である


『対空目標感知!数、2機の模様、南西より接近中、敵速200kn!』

『遅いですね』



 レーダー室からの対空目標感知に一瞬身構えるが、機数と速度に胸をなでおろす。おそらく機数と速度から言って哨戒機の類であろう。弾着観測機として使うなら今更遅過ぎる



嚮導機パスファインダーかも知れん、重点的に注視せよ。近くの航空隊に戦闘機かシュツルモビクを一個小隊ほど回すように政治士官、調整出来るか?場合によっては魚雷艇を掃射させよう。ガンポッド搭載型だとなお助かる』



 同志提督は自説の強化の材料にしたようだ。確かにそう言う使い方も出来ようか。近場の空軍が対応してくれるなら良いが


『通信室を使わせていただきます』

『任せる。いささか神経質に過ぎるかもしれぬが、万全を期したい』



 同志提督に頷いて艦橋を去る。妙な事で水をさされたくはない、備える事に越した事はなかろう。敵に哀れみさえ覚えるぐらいだ。かの連中は完膚無きまでに叩き潰されるであろう、まったく偉大な同志提督に仕えられたものだ。私も一等励まねば



1336 ゴトランド航空隊所属機



 この時海戦域に近づきつつあったのは、ゴトランド専用の搭載機としてホーカーハートの改修機であるオスプレイから、瑞雲の普及でその任を解かれ、民間放出が行われた日本製機材を格安でスウェーデン海軍が購入したもの・・・零式観測機(F1M2)が2機であった。

 しかし時代は水上偵察機を水上電探の普及によって、回収などに難がある、特に遠距離砲戦が見込めない巡洋艦にとっては選択的な装備へと立場を変えてしまっており、ゴトランド用として用意された3機もカールスクルーナ市で殆ど搭載せずに使われていた。


『まさか我々に仕事が巡ってくるとは思いませんでしたね!』

『母艦に置いてけぼりにされた割にはな!』


 その最後の出番ともなるべき舞台において、水上機を搭載するとなれば航空燃料として可燃物であるガソリンを積まなければならない。それで砲戦予定であったゴトランド側はダメコン上嫌って搭載せずに進出したのだ。航空隊の所属員達の落胆は言うまでもなかった


『しかし、AZアダムセェタって符号は一体何者なんです?観測っつっても一体何を観測するんです。うちの国の艦隊は殆ど出払ってしまってるでしょう?』

『んなもん俺が知るかよ!言われた航路を通れば良いんだ。そうすりゃ下に見えてくんだろ!』


 状況が状況なだけに、空軍の連中は海軍が負けた後はもう無理やり機体をぶつけるしか止める方法は無いと悲観論が渦巻いていた。なんとかしてやらにゃあならん。しかし、その無理やりぶつけるのさえ、ソ連の連中が本気を出して来たら相当難しい話になってくるだろう。だからこそ、この出撃は期待感と悲壮感のないまぜとなった複雑なものであった。一体何がいるのか


『機体を揺らすぞ』

『ヤー』


 操縦士が機体をバンクさせて海面に対する視界を取れるようにする。オスプレイから引き継いだこの機体の運動性は抜群だから、苦も無くやれるのは助かる。しかし、交戦海域ももうそろそろのはずなんだが、何の観測かわからなければ仕事の仕様がない


『・・・航跡を確認』

『居たか。どっちだ!?』



 先に発見したのは後席の観測員だった。観測員は方向を指で指し示す。機をそちらに向けその方向に目を凝らす。そして大きくなっていく像に対して言葉を失った




1345 HswMSウルリカ・エレオノーラ



 スウェーデンにとって、この艦が現時点に於いてこの海域に間に合っているという事は奇跡に近かった。デンマークからスウェーデンに王妃としてやって来た稀代の人物の名前を付けられた彼女は、まだそう名付けられてから6時間と経っていなかった


『観測機、近付きます』

『零観じゃないか。見なくなって久しいが、こっちでは現役か』



 上空をフライバイした零観に手を振る乗員たち。その乗員たちの顔は一律に黄色く、東洋系の顔立ちをしていた。なんの事はない、このウルリカの乗員は全員が日本人であったのだ



 吾妻。それが彼女に最初に与えられた名前であった。大日本帝國海軍における白根級装甲巡洋艦の3番艦として改丸5計画により建造された最新鋭のフネであり、4番艦の黒姫と共に第2艦隊にあって来寇する米艦隊に対し、夜戦に於いて味方水雷戦隊のために敵主力の火力を誘引しつつ、増配備の進む敵大型巡洋艦をその砲力を以って打ち倒すモノとして整備された筈であった太平洋の戦乙女が、この北欧の海を進む背景にはオランダ王国の存在があった。

 1941年の諸王国連盟の発足以後、東アジア地域の安定を維持する兵力を日本に委託した形となったオランダであるが、そのコストとして加盟する諸国は、船体整備はともかく活動上やむをえない燃料弾薬について融通、補填しあう事が条文に明記されたのを良い事に、日本海軍はこれ幸いと適当な理由をつけては治安行動目的の巡航と訓練を行っては燃料を過大に請求していくことが常態化していて、いい加減腹に据えかねたオランダ政府は第二次世界大戦直前から計画していた巡洋戦艦整備を復活させると共に、無償で整備を日本に依頼したのだ。勿論、正式にではないが相手が過大に請求した分の石油代をつけて

 かくして最新鋭の超甲巡2隻はオランダ海軍に所属する事となり、その一隻目として(二隻目の黒姫はまだジブラルタルを出たばかりだった)吾妻は回航の矢先にスウェーデンの事変が発生したという次第である。そして、ソ連にとって日本とは陣営こそ違えど、アメリカの全面支援を得て行動する中国国民党を抑える楔として利用価値のある存在として手の出しにくい立ち位置にあり、欧州のどの国がスウェーデンに手を差し伸べるよりも戦争拡大に移行しない安全牌となっていた

 そういった背景もあり急遽、日本の駐英大使と英国政府とが協議をし、あろうことか自国海軍の艦艇が他国に身売りするのを良しとしない乗員全員の総意として反乱奪取され、かつ、利用されない為に現時点で中立国であるスウェーデンに亡命したいと主張している。と、英国のスウェーデン大使館に申し入れたのだ。



『ともかく、これで弾着観測については問題なくやれます、艦長。弾にも燃料にも余裕がありませんので』



 問題は航海上にもあった。すくなくとも戦争中であるドイツ領内にあるキール運河を通るわけにはいかないから、通るとなればエーレスンド海峡を通るしかなく、かつ水深の問題から燃料弾薬の一部を破棄してまで通ったのだ。

 ドイツは、自国の置かれた状況を把握しつつあり、意図的にこの問題を苦々しく思いながらも黙認した。先王が病死した事で継続する占領に求心力を失いつつあったデンマークの現王が、海峡を通過する吾妻を制服姿(現王は教育を海軍で受けていた)で見送る事で、その姿をマスコミが喧伝することにより影響力を回復させたことに関しては、この事変自体が英国の差し金ではなかったのかと勘繰る連中さえいた。



『まあひどい事になるだろうが、駆逐艦も3杯居る。とりあえずは戦えるな』



 ウルリカに付き従う3隻の駆逐艦には、それぞれ軍艦旗として白と赤に白頭鷲の紋章が刻まれた旗をはためかせている。

 自由ポーランド海軍、祖国を東西の大国に戦場として踏みにじられた彼らに帰る所は無い。ペキン作戦以降はせめて故郷の近くに、と中立国であるスウェーデンに逃げ込んでいた彼女たちは、スウェーデン海軍により決戦には参加しないように配慮がなされ、沿岸艦隊と交代してカールスクルーナ市へと進出していた。そして、彼らの自由意思にて彼女たちは此処にいた。ここが保護してくれたスウェーデンに唯一報いることが出来る死に場所であると。本当の意味での義勇艦隊ボランティアフリートというのは彼女たちの事を言うのだろう



『まさか私が現役のうちに砲戦をやれるとは思いませなんだ』



先程から話し相手になってくれている砲術長が、楽しげに制帽を被り直す。回航委員ともなると艦長他航海・機関科は現役からそれなりの人物が回されていたのと較べて、砲術科員としてはある種、退役前の海外旅行のご褒美としての側面として古参ばかりが選ばれていた。が、いやはやどうして、航空機が前面に出てくる前のような国家の一大事に関わる海戦の主役に躍り出る事が出来ようとは



『出来得る限りの観測手段は集めたと思う。後はお楽しみの時間だ。大事にしたいな、砲術長』

『景気のいい光景をお見せできればと思います。艦長』



見透かされている事に砲術長は照れつつ、敬礼して背を向けた。主砲指揮所へ上がるのだ



『前方左舷側!黒煙視認!スウェーデン艦隊と見られます!』



 今、彼らはその自国防衛を課せられた従僕として、義務を果たさんとことごとく燃え尽きつつある。それになんとしても応えねばならない。ふと気づく。誰もが艦長である自分の言葉を待ちわびていた


『全周波数帯に発信。我、AZアダムセェタ戦隊。戦場海域ニ到達セリ。各艦、我ニ続ケ。突撃、突撃、突撃』


 艦長はかつて空母での勤務経験があり、その際に搭乗員たちの使う符号でト連送、つまり突撃、突撃、突撃を使うのを知っていた。まさにこの光景にふさわしいと思ったのだ。そしてそれこそが夜戦部隊に身を置くはずだったこの艦にとっても


挿絵(By みてみん)


1350 HswMSゴトランド



 全周波数帯に送られた突撃電文は、スウェーデン、そしてソ連双方に対して軽い混乱をもたらしていた。どちら側にとっても想定外のものであったからだ。だからこそ奇襲として成立したわけであるが


『どこのどいつだ、AZ戦隊とは』


 ほかの部署から被弾した艦橋の様子を見に来た人員を吸収してなんとか操舵士役から解放された従軍記者の私は空を仰ぎ見る。こちらからの砲撃音、そして相手からの砲弾が空を切る音の他に、微かに別の異音を感じたからだ。通信についてはわけのわからない話であったが、援軍が来てくれるならこれ以上ありがたいことはない。願わくば赤い連中を追っ払ってくれれば満足だ


『従軍記者君、何か知らんかね・・・何を見ておるんだ』


艦長から怪訝な顔で見られる。その時私は、そんなことも気にしていられなかった。空中にゴマ粒のようななにかを見つけたからだ。期待感とともに首に下げてあったカメラのファインダーで捉えズームする。今また目の前でイェータ・レヨンに続き燃え落ちようとしているトレ・クロノール(三つの王冠)のラウンデル


『艦長!味方機です!味方機が飛んでいます!』

『なんだと!?貸したまえ!』


 シャッターを切りつつ叫ぶと、自分用の双眼鏡を失っていた艦長はひったくるようにカメラを私の手から奪って空に向ける。あそこ、あそこです!と見失わないように顔を動かさず場所を指し示す


『あれは本艦の機体ではないか。カールスクルーナに置いてきたはずなのに、一体なぜ・・・通信室に接触をはかるように伝えよ!状況を知りたい!』


 動き出した艦橋の様子を見ながら私は、本艦に対する砲弾の飛来音がはたとなくなっていることに気づいた。イワンの連中にも何かが起きているのだ。砲撃を停止するしかない何かが。いいぞ畜生、これでめちゃくちゃだ。そしてそれは我々にとっていい方向にだ。


『艦長。そもそも論として、本艦の搭載機として何をすることが可能なのでしょうか?』

『記者君、そりゃあ君。そうか!』


 偵察、哨戒、そして観測。そもそもをしてかの機体は観測機としての呼称を受けていた。ならば、なんらかの手段で砲弾なりを送り込むことが可能になったに違いない。ならば複数の観測データを得られる方が有利だ。だが、それを直接言ってこないというのはコミュニケーションに問題があるのだろう。よほど急な来訪であればその想像がつく


『砲術長!撃ち方やめ!撃ち方やめ!これより敵艦隊に起きることを注視せよ!』




1352 クロンシュタット



 海戦の当事者としてクロンシュタット側が得られた情報はもっと詳細なものであった。少し前にレーダーを稼働させていた事が功を得たともいえよう。明らかに自艦と同程度ともいえる大型艦の反射を捉え、また水平線上にその艦影を認めたのだから。加えて射撃管制レーダーの連続波(CW)を逆探での探知


『いかん!』


 そして、相手が何であるかの前に自艦隊の状況のまずさを悟ったのは提督本人であった。

 ソ連艦隊は回避運動と蓄積する被害により速度を落としつつあったスウェーデン艦隊に合わせて速度を落とし、かつ頭を抑えるべくイの字を描くように艦隊を移動させつつあった。しかし、発見した敵艦に逆にイの字を描かれただけではなく、速度を落とした状態で相手を迎え入れるというブーメランのような状況に陥らせられたのだ


『艦長、増速だ!本艦が迎え撃つ!伝達!本艦以外はそのまま適宜スウェーデン艦隊に射撃継続!』


 これに各艦の艦長が反発した。此処まで優勢を続けていたのに対し、既に青息吐息のスウェーデン艦隊を放置して隻数も砲門数も上回る自分達が全力で増援の艦隊を叩けば良い、と。各個撃破の良い機会だと



『閣下!チャパエフ以下も増速開始、続行します!』

『ならん!』



正しい。諸君らは正しい。間違いなく正しい



 砲弾の擦過音が聞こえる。あちらの第一射だ。そしてそれは私が見越した通りクロンシュタットを通り越し、チャパエフを包み込んだ。見事なまでの初弾夾叉


『敵弾チャパエフを夾叉!』

『繰り返せ!本艦より離れよ!本艦が敵を相手取る!』



 だが、正しさは我々を救うものでは無いのだ。敵に射撃目標を分散させてクロンシュタットを討つために駆逐艦を前に出させる。その為にはクロンシュタットの突出が必要であり、救援すべきスウェーデン艦隊の全滅と言う、相手が避けるべきイシューを進める布石の為に攻撃の継続が必要なのだ。それが例え戦力の分散と遊兵化に見えたとしても



『敵艦第2射!』



 甲巡を超ゆるものとして、条約明けに大量建造された1万トン前後の大型巡洋艦を屠るために建造された彼女の砲弾は、日本海軍の基準で見ても相当の重量弾である561㎏の砲弾・・・スヴァリイェ級の305㎏の砲弾どころか、クロンシュタットの砲弾(471㎏)と較べても100㎏近く重いともなれば威力は段違いのものとなる。それを不幸にも、すでに一弾を受けていた第一砲塔に被弾してしまってはどうしようもない。Bullseyeブルズアイ。砲塔下、弾庫へと侵入した砲弾はその暴虐の限りを尽くし、彼女のはらわたの中にある同種のそれを弾けさせる


『ch、ちゃ、チャパっ・・・チャパエフが!』



 見張りの反応で何が起きたのかおおよその予測がついた提督は唸る。連中は2斉射目で命中弾を送り出してきた、それだけの練度のある相手なのだ。おそらくこのまま突撃を続ければ麾下の巡洋艦は全滅、クロンシュタットはどうだろうな、既に相当砲身も射耗しているが、勝てるか・・・怪しいな。どうにも最後の最後で私は同志水兵諸君を信じ切れぬらしい。もっと正直に言おう。スウェーデン艦隊を軽く押しつぶせない我々は大損害を受ける以外の選択肢がない



『・・・(我が事破れたり、か)』



 であるならばどうするべきか。何を残し、何を捧げるか。ここで敵大型艦と刺し違えることは出来るかもしれない。しかし、それが従える新手の駆逐艦とスウェーデン艦隊の残存艦を討つ事は出来まい。そして背後に残るスウェーデンの駆逐艦隊を阻止した我が駆逐隊は魚雷を射耗してしまっている。つまり、輸送船団を攻撃する敵を阻止する能力に欠けているという事だ。ここでの勝利は我がソ連の迅速な着上陸が可能な、訓練済みの部隊を失う事とのバーターとなる。であるならば決まりきった話だ



『チカロフ艦長より打電!本艦以下意気軒高!全力ニテ突撃ス!』



 技量が足りないなら接近すべし、チカロフ艦長以下は敢闘精神については申し分ない。もしかしたら射撃を集中することで敵の射撃装置を破壊することが出来る<かも>しれない。そうなれば完全なる勝利を得ることも可能<かも>しれない。だがそれはあまりにも投機的すぎる。ここまでの優勢も適切な距離を取りうることが出来たからこその被害の少なささであり、それが出来なくなったうえで敵の火力が確定的に大きいとみられる今となっては・・・認められんな。


『艦長、砲撃目標変更。チカロフの鼻先に撃て』

『同志提督!?』


 流石に信頼をもって従っていてくれていた艦長も鼻白む。味方を撃てと言っているようなものだ、ここに政治士官がいたら、それこそ即時で逮捕されかねない。そもそも砲弾は敵に向けて撃つものだ、その照準をして撃つだけで相手に無傷での射撃を担保してやるようなものだ


『私に従え!抗命するは反逆ではないか。違うかね!』

『だ、ダー』


 これまでにないあまりの剣幕に艦長はたじろいで肯定し、命令を復唱する。もしかしたら同志提督は錯乱したとでも戦史には載せられるかもしれんな。フン、上等だ


『射撃後に通信。全艦、180度一斉回頭、右砲戦より左砲戦へ変更。本艦以下は先行して船団へと合流、レニングラードへ帰還せよ』


 ソ連側の作戦はここにて瓦解した。しかしそれは戦闘の終結を意味しない。あくまで艦の撃沈とは、その行動の過程で出てくる副産物にしか過ぎないのだから



1400 HswMSグスタフ5世



 そういった意味で、グスタフ5世の沈没はまさに戦闘の趨勢を見極めての死と言えたであろう。喫水線下への打撃はそう多くはない。クロンシュタットの攻撃に対して火災への対処や傾斜復元のための注水による緩慢なる沈没、人間で言えば出血多量による死ともいえよう。そうであるため、実に穏やかに沈降を続けていた



『総員退艦!総員たいかーん!』



 先ほど命じた命令により乗員たちが奇跡的に残っていたカッター2隻と、それに乗り切れない人間は下がった乾舷から海に飛び込んでいく。海戦はまだ続いているから、すぐすぐ回収することは出来ないだろうが、その顔は明るい


『司令。敵艦隊、反転していきます。被害の大きいスヴァリイェはこちらへ短艇を降ろし次第着底させにゴトランド島へ向かうそうです。トレ・クレノールも直近の浅瀬へ向かいました。間に合えば短艇を寄越すそうです』

『うむ』


 AZ戦隊の登場により、舞台は一気にひっくり返った。我々は義務を果たし終えたのだ。戦闘可能な残存の艦艇には適宜AZ戦隊に続行するように含めてある


『艦長、君も早く降りたまえ。私にはこの光景だけで十分だ』


 艦長席に司令は深く座り込む。クロンシュタットからの最後の一弾は司令の左目と両足を膝下からすべて奪っていっていた。艦長席に座らせて医療班が止血はしたが、出血から言っていくばくも持たない事ははっきりしていた



『幸運を、艦長。あとの始末は大変だぞ。大いに苦労してくれ』

『覚悟しておきませんとな・・・・おらばです。司令』


 笑いあいながら敬礼を交わして艦長が退去する。窓の外には煙を吹きつつも敵に向かって転舵していくドロットニング・ヴィクトリア。あの艦に乗ってからの栄達のおかげでここまで来れた。その艦がまだ戦えると向かっていく。しかし、ウルリカにしろヴィクトリアにしろ、王妃に救われるとは何ともはや


ギギギギギ・・・


非難するかのようにグスタフ5世の船体が浸水によってきしむ音が聞こえるのに苦笑する。まるで駄々をこねるかのようでおかしかったのだ


『そう文句を言うものではない。このフネでは勝てないなぞ言って悪かったな』


 海底への道行きを一人では行かせない、それぐらいで許してくれるとありがたい。もう両の目で海の向こうを見る必要もない。安寧とは・・・かくも・・・

 笑みを浮かべながら司令は意識を永遠に手放し、沈降していくグスタフ5世の中で二度と動くことはなかった


挿絵(By みてみん)


1405 HswMSウルリカ・エレオノーラ



『連中、連中、逃げ出しやがった・・・!』


 主砲指揮所で砲術長は制帽を握りしめて地団太を踏む。なんてことだ、なんてことだ。こんなことは考えていなかった。まだまだ戦力上ではそちらが上なんだぞ、何故こっちに突っ込んでこない!本来の想定では遮二無二に突っ込んでくるであろう敵巡を掃討して、自由ポーランド海軍の駆逐艦とともにこちらも肉薄、敵戦艦の撃沈を図るという、夜戦の殴り合いもいいところの戦闘を想定していたのにふざけやがって!しかも一度は味方を撃ちやがった。こっちを撃つ事もなくだ、舐めやがって!


『初弾観測、急斉射!』


 こちらも巡洋艦に向けるはずであった照準を敵大巡に変える必要性がある。そのうえで射弾を送り込むための命令を下していく。憤りを抑えきれない外面はともかく、内側の冷静な部分では、連中が被害極限をするつもりなのだと理解する。こうされてしまってはほぼ同クラスの相手に殴り合いをせざるを得ない。仮に速力に問題が発生したとしても、殿しんがりにあの艦がいるために無視もできない。そして右砲戦から左砲戦へ舷を変えたことで、これまで被害を受けることの少ない左舷側の副砲高角砲群で駆逐艦の接近を防いで、できうる限りの持久をかけるつもりなのだ、畜生め。露助にも海戦(いくさ)のわかる奴が居やがるじゃないか


『修正諸元の伝達に齟齬を出すなよ!今日は国際的グローバルだからな!』


 それに、下でも言ったが弾の数に不安がある。無駄弾は撃てない。敵が近づいてこないとなると、どうしても命中率の低下から使用する弾数は多くなってしまう。連中のターンは本当に絶妙なタイミングであったと言わざるを得ない。味方撃ちをした点を除くならば


ドドドドドドドドドッ!


 零式31センチ砲が咆え、バルト海の海面をしたたかに打ち付ける。あとは命中速度の問題になるだろう、そういう意味でも連中はこちらに撃てる回数を減らしたわけだ。投射弾量が少なければその分命中率にも跳ね返る。その報いを受けるがいい!



『だんちゃーく!』



30秒を超えて砲弾が向こう側に水柱を林立させる。相手が針路を変更したばかりなので、俺の基準からは遠い。すべて遠弾として敵艦の前方の向こう側に瀑布を沸き立たせている



『観測機の修正、スウェーデン艦が中継してくれています!』

『ありがたい!』



これはさらに一等派手な光景を見せてやらにゃならん。露助どもが大それた事を考えないように痛めつけてやる。この吾妻の力、とくとごろうじろだ


『第二射修正完了!』

『テェ!』


ドドドドドドドドドッ!!!



再び主砲の砲煙がバルト海を沸き立たせる。次で夾叉出来れば御の字だな。さっきのような二射目での命中爆沈は僥倖というものだ



『電測手!敵は回避運動をしとるか!?』



敵が射撃を考えずに舵を取り続ける事もあり得るため、電測手に状況報告を求める


『回頭後直進しております!』


向こうもやる気は変わらずか!ありがたい


『第二射、全弾近弾!』

『修正!』


今度は全部敵とこっちの間に水柱を林立させたわけだが、その水柱が敵艦と重なっている。方位は良し、か。あとは仰角の上げ下げでどうにかなる。あれこれ修正の指示を出し、各砲塔が準備完了と送ってくる緑のランプも問題なく光っている



『テェ!』

『敵艦発砲!』



 こちらの三回目の斉発に合わせて相手も射弾を送り込んでくる。あっちはここから修正が必要となる。自分達と同じだけの時間がかかるとしても、相手は6分を無駄にしてしまった訳だ。戦場での6分、これは致命的である。そして・・・



『敵弾大きく逸れます!』



 餓狼の様に口角をあげる。敵砲術の練度、極めて劣悪なり。あれでは観測データとしても使えなかろう。敵は確か新鋭艦と聞くが、砲の方も新型ともなるとこなれていまい。射表に組み込むデータそのものが不足しているのだろう。この吾妻も新鋭艦ではあるが、3女なだけあって、その面でも優位に立てるか


『本艦の射撃、夾叉!』

『ヨシ!畳み掛けろ!修正なし!撃て!』



 あとは相手が堪えきれなくなるまで弾をいくら撃ち込めるか。出弾率という奴で、これが伴わないと命中速度にかかわる。これは各砲塔長の力量と揚弾装置のご機嫌次第となるから、ここから先は多少の修正を除けば贅沢な観客でいられるか。下の連中に発破を入れるのは何かをしでかした時で良い


『敵艦に命中弾2!』



 どこまであがくか、見せてもらおうじゃないか



1421 クロンシュタット



『同志提督!』



最初の命中弾が発生してからは、加速度的に状況の悪化を招いていた。ほぼ1分ごとに繰り返される衝撃と破砕。通信室に降りていた政治士官が、提督に呼び出されてようやく艦橋に辿り着いたのは、何度か被弾の衝撃によりラッタルから振り落とされた所為でもあった


『来たか!凄いものだなこれは!ここまでの事が出来るのだ、連中は!』

『同志提督!貴方はいったい何を!?』


 道中でチカロフに対する射撃をしたという話は聞いた。にわかには信じられない。あの同志提督が、とも思ったが、これは・・・艦橋要員もこれまでの被弾と対応でか少なくなってるのもあり、同志提督にかかわっているようには見えない。誰か止める人は居なかったのか!?


『同志政治士官!確認したいことがある!』

『同志提督!何故勝利出来るはずの局面で撤退を!?これでは島にいる空挺部隊を見捨てることになりますぞ!』



 あそこには降下した一個大隊規模の兵士が増援を待っている。それを見捨てて、しかも戦力があるのに撤退なぞ正気の沙汰ではない!


『あちらは籠城中で本格的な戦闘には至っていない。おそらく政治的な折衝になる。心配は要らん!それよりも同志政治士官!』

『な、何を!?』


 それよりも優先すべきこと、だと?兵士は勝利へ前進してこそ・・・


『勝利のためだ、戦闘能力を維持しているうちに手を打たねばならぬ。いいから聞け、例の装薬は積んできているか?』

『装薬・・・?まさか、あれを!?』



 12in砲で列車砲を含めて射程で劣らないよう、記録更新タイトルホールドする為に使用された強装薬。使えば砲身寿命は2ケタを割るとすら言われた代物で、今現在はそれより落ち着いた普通の装薬を使っている。もちろん装甲貫通能力についてどっちが性能だけ見ればいいかは言わずもがな



『・・・あります、ありますが!』



 すでにスウェーデン艦隊に対して相当数の射撃を行ったし、新手の日本人の艦にも射撃を行っている。そんな中で強装薬を装填しての射撃なんてことをしてしまえば、膅発事故がいつ起きてもおかしくない


『同志政治士官、本艦であの艦を打倒するためにはもはやそれしかないのだ』


 楽し気に同志提督はそう告げる。主砲塔こそまだ全て健在であるが、相次ぐ被弾に速力は落ちつつある。しかし戦闘力がある限り、火力が担保出来る状態にあるならば無視は出来なくなる。その為には我々には火力がある事を相手に知らしめねばならない。そう同志提督は言うのだ


『連中は最終的にトドメを刺しにくる。そこが狙い目だ。行け!上の射撃指揮所から砲塔長については言いくるめてある。兵に対し指導後は政治士官の君はなんとしても生還し、乗員以下に尽くすのだ!打倒せよ、打倒せよ!君が打ち倒すべきはその先にある!』



 なんだこれは、なんだというのだ、まるで同志提督の言葉は遺言ではないか!視線に耐えきれなくなってラッタルを駆け降りる。違うのだ、同志提督は最後の最後で餓鬼に、敵艦と殴り合いをすることを楽しむ一人の餓鬼になってしまったのだ!おのれ、おのれ!



ズガガガガッ!



 再びクロンシュタットが被弾に揺れる。政治士官の向けた視線の先、そこには日本から来た、同志提督を狂わせた彼女が浮いている



『許さん・・・許さんぞアバズレめ・・・!いつかこの手で、絶対にお前のことをくびり殺してる!絶対にだ!』


 その叫びは、反撃するクロンシュタットの主砲の射撃音に紛れ、虚空に消えていった









 第二次ゴトランド島沖海戦はそれから40分ほど継続し、後落したクロンシュタットに自由ポーランド海軍の駆逐艦3隻が突撃、雷撃によってクロンシュタットを沈めた後半戦は特に一方的な砲戦であったとする後世の史書は多い。

 しかし、軍事機密が解かれた1960年代には、その砲戦の最終盤にウルリカ・エレオノーラは第一砲塔直下の舷側に敵弾を被弾。舷側装甲を貫通した一弾はバーベットにめり込んだところで信管不良の為か不発となったが、衝撃によって剥離したバーベットの破片が跳ね回り、揚弾器の一つを使用不能に追い込んでいた事が判明している。この時間帯、弾数の不足により射撃速度を落としていたウルリカが、もし通常通り砲撃を続けていれば。かつ、信管が作動していればどうなっていたか。乗員たちの心胆を寒からしめた事であったろう

 この事が軍事機密にして指定されたのは、スウェーデン海軍にこの不発弾を除去(勿論不活性化は海軍工作班によって行われていたが)。し、使えなくなった揚弾器の一つを修理する余裕がないため、ついこの文書が書かれた最近まで第一砲塔は1門が使えない状態であったからだ。そのためにクロンシュタットはその最後の不名誉を言われ続ていたのだ。しかし、実際は大きな向こう傷を与えていたわけである。

 この第二次ゴトランド島沖海戦を含むゴトランド島事件は、海戦終了後にヴェスビュー空港を占拠した空挺部隊を無血で送り返すことでソ連・スウェーデン王国間で政治的解決を見ることになった。戦争状態を継続状態にしてスウェーデンを完全に敵側に送ることはしたくないし、スウェーデン側も最前線にはなりたくないという意志が双方に働いたからであろう

 結果として本来のスウェーデン海軍の主力艦隊はドロットニング・ヴィクトリアとゴトランドの2隻を残し壊滅した。今現在でも着底したまま放棄されたスヴァリイェとトレ・クレノールが当時の激戦のよすがを残しており、観光スポットとして、また慰霊の碑として人々に畏敬の念を与え続けている。彼女らは羊たるゴトランドを守り切り、我がスウェーデン王国の国家としての自主独立を護ったのだ

 そしてソ連艦隊の方であるが、輸送船団にチカロフを含む巡洋艦3隻は合流しこれを無事レニングラードへ帰還させる事に成功している。彼女らもまた、羊の群れたる輸送船団を守り切る事に成功したのだ。そして、モスクワ・キエフへの核攻撃に続くドイツ敗戦直前に行われた最後の第ニ次核攻撃に於いて、コトリン島にいたこの3艦からの対空砲火が核搭載機を撃墜する事に成功している。歴史にもしがあるならば、敢闘精神が強く、ウルリカ撃沈の為に巡洋艦部隊が突撃を敢行していたとなれば、レニングラードは核の光に包まれていたのかもしれない。あの羊飼い達の海にいた彼女クロンシュタットは、その身をもって300万人を超える人民を護ったとも言えるのかもしれないのだ


 戦後、ウルリカ・エレオノーラとロヴィーサ・ウルリカの日本製超甲巡を2隻手に入れたスウェーデン海軍の悪戦苦闘と事件、およびソ連側からの対応については別稿に纏めるとして、ここでひとまず、あの海戦に参加した記者として総括の一端を終わりとしたい。

オランダ『借りパクは許されざるよ』

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