第二次シュガークライシス勃発
第二次シュガークライシスが起きた。
ありとあらゆる国、街、村へ、ありとあらゆる砂糖、すなわちグラニュー糖や上白糖や黒糖を輸出していた帝国マイアが、ある日突然、その輸出をストップしたのだ。
全世界は混乱の渦に飲み込まれた。
菓子店の店主は砂糖を使わずに甘みを出す工夫をこらし、なんとかお菓子を棚に並べたが、売れ行きはよくない。
みんなが砂糖を求めていた。
「早くしなさいよ、クリム」
「待ってよ。まだ詰めてもらってるから」
「はい、できたよ、クリム」
シオから紙袋を受け取る。その中には、店に残っていた最後のグラニュー糖を使って作ったシュークリームが入っている。硬貨をわたし、お礼を言って、クリムは店を出た。
店の正面、人が行きかう通りには、アンが箒を持って突っ立っていた。
「遅い」
「アンちゃんが約束の時間より早く来すぎただけでしょ」
「あなたには危機感が足りないのよ。私は一刻も早く、砂糖の効いたお菓子をお腹いっぱいに食べたいの。そのためにこれから、帝国の砂糖担当大臣を締め上げに行くのよ。なのにあなたと来たら、何悠長にシュークリーム買ってるのよ」
「いいの? そんなこと言って。このシュークリームのカスタードクリームには、本物のグラニュー糖が溶けてるのに」
「嘘。早くそれを言いなさいよ」
アンはすぐ紙袋に手を突っ込み、取り出したシュークリームをひとかじりした。
「あー、これだわ。これよ、これ」
クリムが見ていると、
「何見てるのよ、あげないわよ」
「いや、それ、もともと私が買ったやつ」
「あなたのものは私のものよ」
クリムは嘆息した。
「まあ、別にいいけど。私、心広いから」
「自分で言うなんて、あなたもずいぶん恥知らずな奴になったものよね」
「アンちゃんよりは恥ずかしくないから大丈夫」
「それどういう意味よ」
人々は足を止め、今や名物となった勇者と魔王の口喧嘩を見物する。
「いいわ、砂糖大臣をぶっ倒す前に、あなたをぶっ殺してあげる」
「無理だよ。アンちゃん、私より弱いでしょ」
「あ、殺す」
アンが強化魔法を使っても、クリムはそれを打ち消せる。だから二人の喧嘩はただの殴り合い蹴り合いになる。
野次馬がはやしたてる。
砂糖がないせいで活気を失ったお菓子通りが、再び活気づく。
「ちょっと、あなたたち、何やってるのっ」
群衆の中からナコの声がした。
アンもクリムも真っ青になる。
「誰よ、通報したのは」
「そんなことより、アンちゃん、早く」
「分かってる」
アンは犯人探しをやめ、箒にまたがった。クリムはその後ろにまたがる。
「しっかり捕まってなさいよ」
「安全運転」
「げろ吐いたら殺す」
「だから、安全運転してくれたらね」
「無理」
箒が飛び上がる。
一気に高度を上げ、急停止。方向転換し、急発進。その飛行は、王都を置き去りにした。風も雲もそのスピードにはついてこれない。
「クリム」
「なあに?」
「まだ落ちてないわね」
「落ちないよ。ちゃんと捕まってるから」
クリムはアンの胴体にしがみつく力を強めた。
「大丈夫だよ。一人にはしないから」
「なにキモイこと言ってるのよ」
「ひどい」
箒がさらに速度を上げる。
アンが後ろを振り返り、笑った。
クリムは笑い返す。
そして、吐いた。




