ダメ
アンクリムがファイティングポーズをとった瞬間、ウルチは拳をくり出してきた。アンクリムは避けなかった。
無化魔法でウルチの強化魔法を打ち消し、さらに自身を強化魔法で強化したアンクリムは、ウルチの拳を受け止めることができた。
ウルチが目を見開く。
「嘘」
「ほんと」
アンクリムはウルチのわき腹に蹴りを入れた。
ウルチがわき腹を押さえ、後ろへと下がる。アンクリムは前へ前へと攻撃を連続させる。ウルチは、ただ攻撃をしのぐだけ。
アンクリムが笑う。
「あなた、こんなに弱かったっけ?」
「調子に乗らないことね」
ウルチの魔力が上がる。が、それもアンクリムが触れた瞬間、無に帰した。
「あなたこそ、あんまり調子にのらないで」
アンクリムがウルチの頬を殴った。
そのままラッシュに入る。腹を殴るだけ殴って、蹴って、また殴る。
ウルチがカウンターパンチを繰り出す。が、アンクリムはそれへ頭突きをぶつけ、ウルチが歯をむき出しにしたその瞬間、あごへアッパーパンチを放った。
空を舞うウルチ。
地に倒れるウルチ。
追撃を仕掛けようとしたが、アンクリムは振り上げたこぶしをそのまま宙に止めた。
ウルチは大の字になっていた。目を閉じて言う。
「もう魔力が出ないわ。私の負けね」
「ナコさんとの闘いで、かなりの魔力を消費してたみたいね」
「そりゃあそうよ。ナコとの戦闘で七、八割の魔力を失って、その後、クリムさんがドラゴンとかスライムとかケルベロスとかいろんな魔族の力を使ってきて、かなりのダメージをもらって、その回復にも魔力を充ててたから、実はギリギリだったの。だから、アンが私と戦うの最初からあきらめて出てきてくれたときは、本当に助かったと思っていたのに、クリムさん、あなたのせいで、私の計画は破綻よ、破綻」
アンクリムは剣を抜いた。
「言い訳は済んだ? なら死んで」
しかし、その声はアンだけのもので、アンクリムは振り上げた剣を振り下ろせない。
「ちょっ、なんで」
「実のお姉さんに死んで、なんて言っちゃダメでしょ、アンちゃん」とクリムの声。
「こいつは私を殺そうとしたのよ」
「それでもダメ」
「今が絶好のチャンスなんだから、邪魔しないでよ」
「ダメッたらダメ」
「うぎぎ」
「うぐぐ」
アンの声とクリムの声が分離していき、弾ける光と共に、アンクリムはアンとクリムに分かれた。
「よし。これでぶっ殺せるわ」
意気揚々と聖剣を振り下ろしたアン。だが、その剣の軌道上に手を置いたクリムは、無化魔法を発動させた。
剣は消えた。
「クリム、あ、な、た、ねえ」
「アンちゃん、殺しちゃだめって言ってるでしょ。なんで分からないの?」
「そっちこそ、私の聖剣どうしてくれるのよ。あなた、学習能力皆無なの?」
またもみ合いの喧嘩が始まると、傍から透き通るような笑い声が聞こえてきた。ウルチが口に手を当てて笑っている。
「本当に、仲がいいのね」
「何笑ってるのよ。待ってなさい。こうなったら、殴り殺してあげるわ」
「そんな体力残ってないくせに」
アンもクリムも、もうほとんど体に力が入らないのだった。
ふと、ウルチが夜空に向かって呟く。
「やめたわ」
「え?」
「アンを殺すのはやめたわ」
「どうしてですか?」クリムは突然の心変わりに警戒した。
「アンは相変わらず邪悪だけど、大丈夫って確信できたから。クリムさん、アンのことをよろしくお願いするわ」
そう言うと、飛び上がるように跳ね起きた。
服の泥を払い、アンとクリムに背中を向ける。
「なによ。まだ余力、残ってたんじゃない」
手を振って遠ざかるウルチ。
クリムは一歩踏み出して言う。
「あの」
ウルチが止まる。
「この後、お城でパーティーがあるんですけど、来ませんか」
「やめとくわ。水を差したくないし」
「そうよ。来ないでよ」
「ぜひ来てください」
「何言ってるのよ、クリム。あなた、頭イカれたんじゃない?」
「だってアンちゃんの小さい頃の話とか聞きたいし。それにナコさんだってウルチさんと話したいはずです。久しぶりに再会できたんだから」
「そうかしら? ナコは案外、私のことなんて」
「そういう面倒くさい性格、まだ治ってななかったのね」
ウルチの目の前にナコが現れた。瞬間移動してきたのだ。
「いいから来なさい。あなたの好きなお菓子もたくさんあるわ」
そう言うと、ナコはウルチ、アン、クリムを瞬間移動させた。




