吹っ飛ばされて
ナコとウルチが瞬間移動した先は、王都の南西にそびえたつ、大火山の噴火口だった。マグマはナコの物質変化魔法で、液体から固体になっていた。マグマの固まった岩の上で、ナコは数十の超高難易度魔法を同時に繰り出したが、ウルチの一撃は、そのすべてを吹き飛ばした。
戦闘が十分もつづけば、明暗ははっきりしてくる。ナコは今や、スカートもブラウスも端々がちぎれ、体を傷だらけにしてかろうじて立っているだけだ。一方、ウルチは無傷だった。
「ナコ、あなた、ずいぶん弱くなったわね」
「本気で戦うことなんて滅多になかったから、体がついていかないのよ」
「おばさんみたいなこと言わないでよ。私、あなたと同い年なのよ。こっちまでおばさんになった気分じゃない」
「みんなからおばさんって呼ばれたことはないけど、私たちもう、子供ではないわ。描いた理想を現実にできる、そう本気で信じることができていたあの頃とは違うのよ、ウルチ。あなたは潔癖すぎるわ。アンの多少のわがままぐらい許してあげたらどうなの? あの子が思い通りにならないからって殺すとか言っちゃダメ」
「アンをあなたに任せたのは、間違いだったわ。あなた、甘やかしてたでしょ、あの子を」
ナコは強がるように笑った。
「私が甘やかさなかったら、誰があの子を甘やかすの? 誰もそばにいない一人きりのあの子を。でも、まあ、最近は、私もあの子を叱れるようになったのよ」
「あら、どうして?」
「あの子が一人じゃなくなったから」
「おもしろい冗談ね、それ」
言いながら、ウルチはパンチを繰り出した。ナコは近距離にはいなかったが、そんなことは関係なかった。衝撃波が固まった溶岩を砕きつつ、ナコに迫る。
「ナコさんっ」
ナコの影から現れたクリムは、衝撃波を無に還した。次々と魔王が現れるのを見て、ナコはまばたきを繰り返す。
「クリムちゃん、それに魔王のみなさん。どうして?」
「どうしてもこうしてもあるか。勇者ウルチ。ここであったが百年目。決着をつけてやる」
チリドペッパが炎を繰り出しながら猛進する。ブルチズは糸を吐き出す。ブーハはその場を動かず、サビははなから戦う気がない。
「どこかで見た顔だわ。でも、忘れちゃった」
ウルチが空間を蹴った。すると、鋭い衝撃波がチリドペッパをぶっ飛ばし、ブルチズは飛んできたチリドペッパの直撃を受けた。
もう二人やられた。
「クリム、いつでも無化魔法を使えるようにしときな」
「う、うん」
次の瞬間、地面を強く蹴ったウルチが、ブーハの懐に潜り込みアッパーを繰り出した。硬化魔法を発動したブーハだったが、その目は白くなり、地に伏した。
「クリムちゃん、あなたも私と戦うの?」
「まだあなたがアンちゃんを殺す気でいるのなら」
「死なないよう、手加減はしてあげるわね」
ウルチの拳がクリムの頬を直撃した。
無化魔法。
しかし遅かった。クリムは空の彼方まで吹き飛ばされた。そうして行きついたところ、そこは、天上の世界、天界だった。
雲がどこまでも広がり、まばゆい光が点滅している。
クリムは倒れたまま、動けない。
確かに、あれは勝てない。
勝てるわけがない。
アンが正しかったのだ。
何かが頭上に現れる気配がした。
「ねえ、生きてる?」
クリムはわき腹を何者かにつつかれた。
「生きてます、一応」
「この前はごめんね。でも、あれから神様、私に愛想つかしちゃって、最近はのんびりやれてるんだ。ありがとう」
傍にいるのが誰か分かった。
「どういたしまして、キーケ様」
「君はこれからどうするの?」
「どうしよう」
クリムは仰向けになって、大天使を仰いだ。
「ひとまず、これ、渡しておきます」
「私に?」
「あなたに」
クリムは招待状をキーケに手渡した。
「お城、できたんだ。ねえ、このパーティーってお菓子出る?」
「たっぷり用意してますよ」
「やった」
クリムは満天の星空に息を吐きだし、倒れたまま体を伸ばした。不敵に笑って言う。
「キーケ様、瞬間移動魔法、使えますよね?」




