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超絶やさしい魔王とクズの極み勇者  作者: 仙葉康大
最終章 クリムとアン
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ウルチ

 魔王城完成記念パーティー当日、夕闇が迫りくる時刻、第九百九十九魔王城城門前には、何十人もの人と四人の魔王とその臣下三百人近くが集まっていた。


 あいにく、魔帝ススパイは急用で来られない。なんでも、大天使たちが、各地の魔王を狙って襲来しているのだという。クリムを殺せなかった腹いせだろうとススパイは言っていた。


 ブルチズ、チリドペッパ、ブーハはあらかじめ部下に今日に限っては人間を襲わないようよく言って聞かせてくれたらしく、トラブルもまだ起きていない。


「魔王様、時間ですぞ」ゴーストのスフレが壁を通り抜けて来た。

「うん、いま行きます」


 クリムは魔王の間のベランダから飛び降りた。


 叫び声があがるが、笑い声もあがった。魔王や悪魔にとって飛び降りなど何でもないのだ。そんなことで死ぬような奴は、魔王になれているはずもない。


 城の尖塔から滑空してきたベルギーヨに乗ったクリムは、手に持った旗を振って、今日来てくれた人たちに笑顔を見せた。そのまま城の一番高い塔のてっぺんまで連れて行ってもらい、旗をその塔の先端に突き刺した。強風に旗がはためく。風がゆるやかになると、旗に描かれた紋章が見えた。紋章は、王冠のようなシュークリームだった。


 拍手が下から昇ってきた。

 重たい鉄の城門がゆっくりと開いていく。


 クリムとベルギーヨは城内に降り立ち、客を出迎えた。


 まずはじめ、まるで城の主は自分であるかのように胸を張って堂々と入って来たのは、勇者アンだった。


「アンちゃん、来てくれてありがとう」

「お菓子は用意してるんでしょうね?」

「たくさんあるよ」


 見知った顔が次々に現れた。


「ありがとう」


 何度も何度もそう言った。


 クリムと握手を交わしたお客さんたちは、クリムの部下に案内されて、大広間へと誘導された。


 光を反射するほどにまだ真新しい大理石の床。王都で購入した上等な机には、真っ白なテーブルクロスがかけてある。その上には、森の果実や王都のお菓子など、ご馳走がたくさん。


 クリムの臣下たちは、来場者にグラスを配って回り、飲み物をついで回った。ワイン、エール、ラガー、トマトジュース、森の泉の水など好きなものを選んでもらう。


 全員に飲み物がいきわたったところで、クリムが乾杯の挨拶を始める。


「皆さま、本日はご多忙にも関わらずお越しくださり、ありが――」

「魔王様ー」


 受付をしていたゾンビのミトパが間延びした声を出した。みんな、一斉に広間の入り口の方を振り返る。


「この人、招待状持ってないって言うんだけど、どうするー?」


 その人は、紅色のロングスカートに身を包みんだ大人の女性で、魔女の三角棒を目深にかぶっていた。帽子からはみ出ている髪は、どこか品位を感じさせる紅色だ。腰には長剣を携えている。


 クリムはその人に見覚えがなかった。しかし、人間の多くは、その人を見て何かしきりに囁き合っている。


「あの、失礼ですが、どちら様でしょうか」


 その人は、帽子を取って、小さな鼻と紅の瞳を見せて言った。


「ウルチと言います」

「ウルチ?」

「あなたがクリムさんですね。妹がお世話になっています」


 妹。

 クリムは、記憶をたどった。


 ――あの子の姉も勇者でな。


 アンは瞳孔を開ききり、拳を握りしめ、吐き捨てるように言った。


「ウルチ。何しに来たのよ」

「アン。そんな口の利き方をしないで。私のことはお姉さまと呼ぶよう、口をすっぱくして教えたでしょう」

「相変わらず気持ちが悪いわね」


 話しながら、アンとウルチは一歩ずつ距離を詰めていく。


「今さら何しに帰って来たの? 王都を捨てたくせに」

「違うわ。私はただ、世界中を清く正しく美しくしたかっただけなのよ。王都は私には狭すぎたの。でも、ほら、年末も近いし、しばらくみんなの顔を見ていなかったから、里帰りでもしようかなって」


 顔を突き合わせ、アンはウルチをにらみ、ウルチはアンに微笑みを返している。


「でも、あなたもギルドのみんなも王都にいなかった。だから、魔法警察署に行って、捜索願を出そうとしたの。そしたら警察の人が、あなたたちは、魔王城完成記念パーティーに出席したって言うから、なにそれ、私も出てみたいって思って」

「だからってあなたは来なくていいでしょ。クリムはあなたなんて呼んでないわ」

「いや、アンちゃんのお姉さんなら、パーティーに参加してもらって全然かまわ――」

「黙ってなさいっ」


 アンの目が血走っている。


「アン、友達に向かってそんな乱暴に声を荒げてはいけないわ。王都の人たちに聞いたわよ、そこのクリムさん、あなたみたいな自分のことしか考えていない人間と、友達になってくれたそうじゃない。私は驚いたわ。あなたは一生、一人で、自分勝手に生きていくものとばかり思っていたから」


 アンはうつむいている。


「王都でのあなたの評判は最悪ね。薄情で、金に卑しく、自分の思う通りにいかないことがあったら、すぐに暴力をふるう。どうしてあんな子を次の勇者に選んだんだって、私は色々な人から責められたわ。これ、

全部、あなたのせいよね。どう考えても」

「ウルチ」


 ナコさんが二人の間に割って入った。


「あら、ナコ。久しぶり。元気だった? 聞いたわよ。大天使を半殺しにしたんですって。相変わらず恐ろしいわね」

「あなたほどじゃないわよ。アンをいじめるのはそのぐらいにしなさい。ごめんね、クリムちゃん、乾杯の邪魔して」

「い、いえ」


 クリムは驚愕していた。あのアンがまだ手を出していない。いつものアンなら、あんなことを言われたら、絶対に殴りにいってる。


「じゃあ、改めまして――」

「あ、ごめんなさい。クリムさん。乾杯の前に、前任の勇者としてやっておかなくてはいけないことがあるんですの」


 そう言って、ウルチは全身から魔力をあふれさせた。その魔力の質と量を見ただけで、ほとんどの悪魔は戦意喪失した。


 まずい。

 クリムはウルチのそばに行って、必死でしゃべった。


「すみません。今日だけは許してもらえないでしょうか。ここに集まっている魔王とその臣下は、確かに人間に危害を加えたこともあります。でも、今日だけは」

「あら、何か勘違いしていない? 私はあなた方を攻撃するつもりなんてないんですのよ」

「え?」

「だってそうでしょう。人にはそれぞれ立場というものがあって、あなた方は、魔王とその臣下、という立場にのっとって、その職務をこなしているだけですもの。でも、ここには一人、その職務を満足にこなさないどころか、勇者という職に泥を塗った巨悪がいるじゃないですか」


 ウルチはその眼を、アンへ向けた。


「私は間違えたのです。こんな子を次の勇者に推すべきではなかった。だから、責任を取らなければなりません」

「どうするというんですか?」


 クリムの問いかけに、ウルチはさきほどまでと全く同じ口調で答える。


「アンから聖剣をはく奪します。つまり勇者をやめてもらうのです。そして、これまでに行ってきた数々の悪行を、今ここで償ってもらいます。その死でもって」


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