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超絶やさしい魔王とクズの極み勇者  作者: 仙葉康大
第五章 罪と罰
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人間の弟子はいない

 クリムはギルドの魔法電話を借りて、ナンバーゼロゼロゼロマイナスセブンに電話をかけた。


「はい」


 メアが出た。


「あ、クリム? 最近、電話がないってススパイが悲しんでたわよ。まあ、別にどうでもいいわよねー。今日は誰につなぐ?」

「ススパイ様につないでもらえますか?」

「ススパイに用なんて珍しいわね。あ、お小遣いが欲しいとか?」

「いえ、ちょっとまずい状況でして」

「すぐつなぐ」


 一秒後。


「ススパイだ。クリムか?」

「はい」

「状況は?」

「大天使キーケが私の命を狙って襲来。戦闘になりましたが色々あって私は無事です」

「なるほど。神の奴が動いたな。幸い、サビとチェスを指していたところでね。すぐそっちへ向かう」


 電話の切れる音がした。


 と思うと、クリムの影からサビとススパイが現れた。サビの方が背は高いが、骨だけのススパイの方が存在感はある。


「ん?」


 ススパイがナコに目をとめた。しばらく見つめてから、


「どうも。クリムがお世話になっているね」


 ススパイが会釈(えしゃく)すると、ナコは数秒、ススパイの頭蓋骨を見つめて、それから思い出したように会釈を返した。


 挨拶もほどほどにして、ススパイは大天使キーケに問いかけた。


「大天使よ。神と連絡を取れるな?」

「取れるけど、私が連絡魔法コンタクトを使うといつも、しょうもないことで連絡してくるなって言われる」

「それはひどい。君にとってはしょうもないことではないのにな」

「そう。すごい。この人、話が分かる人」


 キーケは心なしか機嫌がよくなって、神様への直通連絡魔法ゴッドコンタクトを使ってくれた。こぶし大ぐらいの大きさの光の球が現れ、その中から声がした。


「いったいなんだ。いつも言っているだろう。つまらないことで電話をかけるなと」

「ずいぶんな第一声だな、神。人の上に立つ者がそんな横柄な態度でいいのか?」

「その声は、ススパイか?」

「こちらからの要求は一つ。クリムに手を出すな」

「いや、それは困る。魔王は悪であってもらわなくちゃ困るんでね」

「正確にはクリムが人気を集めると、お前への信仰心が減るから困る、だろう」


 神は黙った。


「もし今後もクリムをつけ狙うようなことがあれば、我が魔王軍が全力をあげてお前を殺す」

「お前、創造魔法が使えるからって調子に乗りすぎていないか?」

「いいや、私が調子にのっているのは、クリムのような優秀な部下が何百人といるからだよ。大天使をこき使うしか能のないお前に負ける気は全くしない」


 神は舌打ちすると、連絡魔法をぶった切った。


「これで大丈夫だ」


 ススパイはその骨の手で、クリムの頭を撫でた。


「ありがとうございます。魔帝様」

「何を言う。また何か困ったことがあればいつでも連絡しなさい」


 クリムから手を離し、ススパイは振り返った。


「みなさん、今日はクリムが迷惑をかけた。ささやかなお詫びとしてこれを受け取っていただきたい」


 ススパイは創造魔法を発動させ、テーブルに大量の酒瓶と菓子類を出現させた。みんなは歓声を上げて、宴を始めた。


「それじゃあ、クリム。私は帰るよ」

「もう行かれるのですか?」


 クリムが言うよりも先に、ナコが言った。


「せっかくですから一緒に食事を」

「いや、遠慮しておこう」

「そう、ですか」


 ナコは何かいいたそうに、言葉をひきずっている。


「ところでクリム、勇者アンとは仲直りできたのかい?」

「あ、えーと、一生許さないって言われました」

「当たり前よ。あなたのせいで、私、聖剣なしの似非(えせ)勇者なんて言われてるのよ。どうしてくれるのよ」

「ごめんって」


 じゃれつく二人を見て、サビは腹を抱えて笑った。


「なるほど。聖剣か」


 ススパイはうなずくと、創造魔法で片手剣を出現させた。柄には赤いルビーがはめこんである。


「切れ味は保障する。あとはこの剣に、聖なる力を込めてもらえばいい」

「くれるの?」

「部下の尻ぬぐいは上司の務めだからね」

「ふーん。じゃあもらっとくわ」


 アンはススパイにもものおじすることなく剣を受け取った。それからその剣を試し振りすると、にやりと笑った。


「いい剣ね」

「言っただろう、切れ味は保障すると」

「それはいいけど、まさかこの剣、使用者である私を攻撃してきたりしないわよね?」

「そんな剣があるのかい?」ススパイがおどけて尋ねる。

「あるのよ。ねえ、キーケ」


 キーケはうなずく。


「今度君にわたす予定の剣も、自分の利益のためだけに使ったら、三回目ぐらいで反旗を(ひるが)すようにプログラムしてあるよ。聖剣はそういう仕様になってるから」

「そんな不良品、もういらないわ。こんないい剣が手に入ったんだもの。これを聖剣ってことにするわ」

「ハハハ。君は実に愉快だね。それじゃあ、失礼するよ」


 ススパイとサビが影に沈んでいく。


「あの」


 ナコが声を振り絞って言った。


「まだ何か?」

「ススパイさん。私とどこかでお会いしたことありませんか?」

「ないと思うが」

「そうですよね。ごめんなさい。昔、私に魔法を教えてくれた人に、声の高さとか、口調とか、雰囲気とかが、とてもよく似ていたので」


 一呼吸の間のあと、


「私に、人間の弟子はいないよ」


 と言って、ススパイは影の中へ沈んでいってしまった。


 ナコはしばらくススパイが消えた影を見つめていたが、すぐ表情を新たにして、


「さあ、食べましょう」とクリムとアンの背中をみんなが飲み食いしている方へと押していった。


 クリムはお酒が飲めないので、トマトジュースを飲む。アンはブドウジュースを飲んでいる。


「ねえ、アンちゃん」

「なによ」

「今度、私の仲間を紹介するね」

「別に会いたくないわ」

「ううん、する」


 この人が私の友達のアンちゃんだって紹介するんだ。


 クリムはそんなことを思いながら、ススパイの魔法によって生まれたシュークリームをほおばった。


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