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超絶やさしい魔王とクズの極み勇者  作者: 仙葉康大
第五章 罪と罰
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ナコ

 その声にクリムが目を開けると、ナコがそばにいた。

 キーケは離れたところで、床にささった鎌を抜こうとしている。


 今の一瞬のうちにクリムは移動したのだ。いや、させられたのだ。ギルドに帰ってきたナコのもとに。


「出たあっ、ナコさんの他者瞬間移動魔法っ」


 縛られたままでもはやし立てるみんなに、ナコさんが頬を赤らめる。


「もうっ、そういうのはいいっていつも言ってるでしょう」


 他者瞬間移動魔法とは、自分以外の他者を、瞬間移動させる魔法である。当然、自分が瞬間移動するよりも難易度が高くなる。


 キーケは鎌をなんとか抜いて、ナコとクリムがいる方へ向き直った。


「君、何者?」

「私はナコと言います。このギルドの受付嬢です。失礼ですが、お名前をうかがっても?」

「キーケだよ」

「え? 大天使様? 本物?」


 クリムやみんながうなずくと、ナコは深々と一礼した。


「でも大天使様がこんなところに何をしに来られたのですか?」

「神様に言われて、その子を殺しに来た」


 ナコの目の色が変わった。


「その子というのは、クリムちゃんのことですか?」

「そう」

「申し訳ございません。お引き取りください」

「でも、神様に言われたから、殺さないと」

「誰がなんと言おうと、私の見ている前で、ウチのギルドの仲間を殺させるわけにはいきません」

「じゃあ、見てないところでするから」


「そういうことではなくてですね、お帰りくださいって言っているんです」

「ごめん。それは無理。だってその子を殺さないと神様に叱られる」

「叱るって何か罰を受けたり、暴力を受けたりするんですか?」

「ううん、二、三、小言を言われるだけ。お前はなっとらんとか。お使い一つ満足にこなせないのか、とか」

「もしかしてそれが嫌だからクリムちゃんを殺すって言ってる?」

「うん、言ってる」


 ナコが真顔になった。

 瞬間、ギルドメンバーが悲鳴を上げた。

 アンだけがせせら笑ってる。


「キーケ。あなた終わったわね」

「え? どうして?」


 次の瞬間、キーケの体から鎖があふれ、彼女自身を縛り上げた。


「なあに? これ」


 キーケは首を傾げている。


「反逆魔法です」ナコが答えた。


 この魔法を受けた者は、自分が最も信頼している魔法をその身に受けることになる。


「まあ、別にいいけど」


 キーケは瞬間移動した。しかし移動した先は、キーケが意図したところではなく、ナコの目の前だった。


「瞬間移動先指定魔法、そしてこれが、煉獄火炎魔法よ」


 ナコの手の平から放たれた黒い炎は、キーケの胸から全身へと広がり、その肌を焼いていく。


 キーケが床に倒れ、足をばたつかせる。みんなを縛っていた鎖は消えた。今のキーケには鎖を維持するだけの集中力がないのだ。


「うううううう」


 苦しそうに声を出すキーケを見下ろしながら、ナコは言った。


「空間固定魔法であなたの瞬間移動は封じさせてもらいました。天界へ逃げようとしても無駄ですからね」


 みんなが苦しそうにもだえるキーケから目を逸らしているというのに、アンだけは大声で笑いながら、


「ざまあみなさい。バカ天使。そこで一生苦しんでたらいいんだわ。私のシュークリームを食べた罰よ。バーカバカバカバーカ」


 と、キーケを足蹴りにしている。

 そのいつもの極悪ぶりに、クリムは我に返った。


「アンちゃん、人の不幸を笑ったりしたらダメだよ。それに、蹴らないのっ」

「クリム、あなた、こいつに殺されかけたの、忘れたの?」

「そうよ。クリムちゃん。敵は殺し切っておかないと、あとで復讐しに来るんだから」


 ナコの言い分も理解はできる。けれど、クリムの瞳は揺らがなかった。


「ナコさん、助けてもらっておいて、こんな勝手なことをするのは、許されないのかもしれないけど、ごめんなさい、でも、私」


 そう言って、クリムは黒い炎に手を当てた。無化魔法が煉獄の炎を消火した。


「なんで?」


 仰向けのまま、キーケが尋ねた。


「苦しそうだったので。あと、あなたは私を殺そうとはしていたけれど、そこに殺意はなかった。あるのは、ただの義務感。神様に命令されたから、仕方なくやっていただけなんですよね?」

「そうだけど、そうじゃない。神様に逆らうことだって、やろうと思えばできなくもない、かもしれない」

「歯切れ悪いわね。大体あなたねえ、私のシュークリーム勝手に食べたでしょ。許さないわよ。絶対に。どうしてくれるのよ」

「アンちゃん、シュークリームならまた作ってあげるから」

「いいえ、ダメよ。やっぱり殴らないと気が済まないわ」


 アンはキーケの顔面を一発殴った。


 しかし、キーケは平然としている。人の手で大天使にダメージを与えるなど、あり得ないのだ。普通なら。


 異常なナコがため息をついた。


「しょうがないから、クリムちゃんの意見を尊重して、キーケ様を殺さないでおくけど、どうするつもり? 神様がクリムちゃんを殺したがってるんでしょ? さすがの私も神様に勝つ自信はないわ」

「私、神様と同じぐらい強い人を一人知っているので、その人に連絡して相談してみます」

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