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超絶やさしい魔王とクズの極み勇者  作者: 仙葉康大
第五章 罪と罰
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聖鎖魔法

 誰も言葉を発することができなかった。


 しばらくたって、ようやく、アンとクリムが同時に声を出した。


「な、なんで?」

「神様が言うには、君は危険なんだって」

「わ、私の魔法がってことですか?」

「いや、えっと、魔法うんぬんより、人間の人気を集めてるのが、とても危険なんだって。魔王が人間と仲良くしてもらっちゃ困る、みたいなことを言っていたような」


 それからキーケは、ふと、紙の箱をのぞきこんだ。


「あ、シュークリーム。これ好き」


 そう言うと、一つとって食べてしまった。

 ぶち切れたのは、アンである。


 魔力のすべてを拳に集め、キーケになぐりかかる。が、キーケは一瞬でアンの背後に瞬間移動し、眠たそうに発音した。


聖鎖(せいさ)魔法」


 手の平から鎖が伸びて、次の瞬間にはアンを縛り上げてしまっていた。


「絶対っ殺すっ」


 アンは鎖を引きちぎろうと体に力を入れているが、聖なる鎖がちぎれることはありはしない。鎖魔法に聖なる力を付与した魔法、それが聖鎖魔法である。その鎖をひきちぎれる者は、神のみである。


 キーケは紙箱の中のシュークリームをたいらげると、クリムの方を見た。


「お腹も膨れたし、そろそろ君を殺そうと思うんだけど、いいかな?」

「いいわけねえ」


 その場にいたギルドメンバー全員がクリムの前に立った。


「みんな」

「安心しろ。大天使だろうと何だろうとクリムちゃんはやらせねえ」

「そうだ。クリムちゃんは優しいいい子なんだ。どう考えてもお前の方が間違ってるぜ、天使さんよ」

「このギルドを敵に回したことを骨の髄まで後悔させてあげる」


 クリム以外は、すでに臨戦態勢に入っている。


「魔王ちゃん、愛されてるね。すごいね」


 テンション低くそう言うと、キーケは瞬間移動魔法と聖鎖魔法を連続で発動し、その場にいた全員をまたたくまに縛り上げてしまった。


 クリムだけは縛られた瞬間、鎖を無に還した。


「あ、そうだ。忘れてた。君、なんだっけ、なんでも消せる魔法が使えるんだよね。えっと、だから、どうすればいいんだっけ」


 キーケは頭上の天使の輪を指で叩きながら考えている。

 クリムも考えていた。このピンチを切り抜けるにはどうしたらいいのか。


 そうだ。逃げてしまおう。

 そして二度とギルドへは戻ってこない。

 走り出すための一歩目。


「あ、困ったら、人質を使えって神様が言ってたんだった」


 クリムは足を止めた。止めざるを得なかった。


「というわけで、逃げたり、私にその何でも消せる怖い魔法を使おうとしたら、ここにいる人たちを殺しちゃうね。鎖の縛りを強くすれば、人間の体ぐらいなら簡単に引きちぎること、できるから」


 クリムは長く息を吐きだした。それから、笑った。


「分かりました。どうぞ殺してください」


 両膝をその場について、頭を垂れる。

 すると、


「なにしてるのよっ。逃げなさいよっ」


 怒声を飛ばしたのは、アンだった。


「っていうか、そのくそ天使をぶっ殺しなさいよ。あなたの魔法ならそんなの簡単でしょうっ。どうしてっ、どうしてっ」

「ごめん、アンちゃん」

「うるさいっ。こんなときにまで謝ってんじゃないわよ。私はあなたのこと一生許さないわ。だからあなたは一生私のそばでその罪を償わないといけないのよ。それが罰よ。勝手に死ぬなんて許さないんだから」

「別に君に許してもらう必要はないから、殺すね」


 大天使キーケの手元が光り、真っ白な鎌が現れた。その清廉(せいれん)な鎌を振り上げて、


「言い残すこととかある?」


 クリムは首を振った。


 王都であった人たち、その一人一人に言いたいことはあった。けれど、そんなことをしても、その人たちの悲しみが深くなるだけだ。


 臣下を残して行くことだけが心残りだが、みんな、本当は、誰よりも強い子たちばかりだから、大丈夫だろう。


 まぶたを閉じる。

 鎌が風を切る音がした。

 一秒、二秒、三秒。


「クリムちゃん、大丈夫?」

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