シュークリームを作る魔王
アンを懐柔するには、お菓子しかない。言葉なんてアンの前では無価値だからだ。彼女の価値観の最高は、お菓子とお金なのだ。
けれど、クリムがあげれるお金などたかが知れている。しかもお金には付加価値というものがつかない。クリムの持ってる百リンプもアンの持ってる百リンプも同じ価値だ。
お菓子は違う。味だけでなく、誰が作ったか、どこで売られているか、手作りか、魔法作りか、どういう気持ちをこめたか。そういった情報や情緒が価値となる。
アンの心の氷が思わず溶けだすようなお菓子は何だろうと考え、最悪の出会いから始まった二人の日々を思い出した。そうして、クリムはあるスイーツを作ると決めたのだった。
計画をシオに話すと、快くお店の厨房を貸してくれた。
それだけでなく、材料までくれるという。クリムはお金を払うと言ったが、いいよいいよと笑うばかりだった。
貸してもらったエプロンをしめる。
さて、作るぞ。
しかし、作り方が分からない。クリムはお菓子を作ったことがなかった。
「教えてあげるよ」
シオが言った。
「お店の方はいいんですか?」
「ずっとカウンターにいなくても、お客さんが来たら対応すればいいさ」
「それじゃあ、お願いしてもいいですか」
ようやくお菓子作りスタート、というときになって、
「どお? クリムちゃん? うまくいってる?」
とナコが顔を出した。
クリムから計画のことを聞いていたナコは、心配になって様子を見に来たのだ。
「そういうことなら、私が店番しますよ」
「ギルドの方は大丈夫なのかい?」
「あっちの受け付けは、他のメンバーに頼んできましたから」
というわけで、店の方はナコに任せ、クリムとシオは調理に取りかかった。時に細かく、時に大雑把に教えてもらいながら、シュークリームを作っていく。
シュー生地を作る過程で、バターを溶かしたり生地を焼き上げたりするのに、火炎魔法を使う必要があった。そこはシオに手伝ってもらった。
次はカスタードクリームだ。
鍋に牛乳を入れて、またシオに炎を出してもらう。
無化魔法以外の魔法が使えない魔王は、シュークリームを作っていくなかで、自分の無力さを噛み締めるとともに、よい縁に恵まれたことに感謝していた。
シュー生地を上から三分の一のところで切り分け、カスタードクリームを絞り入れる。クリームのついた生地同志を合体させて完成。
出来上がったそれをナコに試食してもらった。
「うん、おいしい。これならきっと仲直りできるわ」
「今日はシオさんとナコさんにすごく助けてもらいました」
「これぐらいなんでもないよ」とシオ。
「いいのいいの。むしろ感謝するのはこっち」とナコ。
「え?」
「あの子の友達になってくれてありがとね」
そう言ったナコの目はなぜか悲しいほどに澄み切っていた。




