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超絶やさしい魔王とクズの極み勇者  作者: 仙葉康大
第五章 罪と罰
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返事をしなさい

 夏の日差しから逃げるように、冷房魔法のよく効いた店内に入る。


「いらっしゃい、クリムちゃん」


 白いコック服を着たシオがショーケースの向こうに立っていた。


 クリムはシュークリームを一つ買って、店の隅の木椅子に座って一口食べた。


 二口目をなかなか食べないでいると、シオがそばに来てくれた。手にはオレンジジュースの入ったガラスコップを持っている。


「もしかして、あのことで悩んでるのかい?」


 とガラスコップを差し出してきた。


「ありがとうございます」


 受け取って、一口飲む。

 やっぱり、おいしくない。

 最近、あまり味を感じない。食べても満たされないのだ。


「アンちゃんは強情だからなあ。自分から謝ったりはしないし、謝られても許さない、そうだろう?」

「その通りです」


 聖剣を消し去ったあの日から二週間が経っていた。クリムは何度も謝ったが、アンはクリムに対して、睨むか、キレるか、無視するかで、仲直りの糸口は見つからない。


 いまや魔王クリムと勇者アンの仲が悪くなったことは、王都中の人々が知っている。


「どうすれば許してもらえるんでしょうか?」

「うーん。難しい問題だなあ」

「ですよね」

「ごめんなあ。いいアイディアを出せなくて」

「いえ、話を聞いてもらっただけでも楽になりました」


 クリムはシュークリームを口に詰め込んで、おいしかったですと言ってから店を出た。


 向かった先は、王都中央広場の外周に建つ、王都魔法警察署である。


 受付で面会を申し込むと、面会室へ通された。四方を鉄の壁に囲まれた部屋で、魔法警察官四人が四隅に立っている。クリムが椅子に座ると、魔法警察官は呪文を唱え、部屋を二つに区切る結界魔法を発動させた。青白い光の壁が出現し、クリムはその向こうに、扉から入ってくるブルチズを見た。


「同志クリムよ。元気、そうではないな」

「分かりますか?」

「我でよかったら、相談に乗ろう」


 クリムは、アンと仲違いするに至った経緯を説明した。


「難しい問題だな」


 ブルチズがうなった。


「一つ言わせてもらえば、もはや謝罪は無意味な段階に来ているのではないか」


 薄々は分かっていた。

 どれだけ言葉を費やしてもアンが許してくれることはないと。


「やっぱりもう無理なんでしょうか」

「無理と言うことはないであろう。何かきっかけさえあれば、(なんじ)たちはいともたやすく仲直りできるだろう」

「つまりは時機を待てと?」

「ウム」


 クリムは待つことにした。いつか、そのときがくるまで。けれど、もしそのときが永久に訪れなかったら。そう思うと、胸の奥の虚無が宇宙よりも速く膨張していくのだった。


 ギルドへ行くと、アンがいた。ホールの真ん中あたりの机に両足をのせて、椅子を傾けて、天井をにらんでいる。


 いつもならすぐ謝りに行くクリムだが、今日はブルチズの助言に従い、声をかけないことにした。


 なんとはなしに依頼掲示板の前に立つ。


「クリムちゃん」


 後ろから両肩に手を置かれた。振り返ると、ナコがいた。


「ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」

「私にできることであれば、なんでも」

「今度、魔法学校で模擬戦闘の授業があるのよ。それで、ウチからも何人か派遣して、模擬戦のお手本を見せたり、生徒の相手をしたりするの」

「それに参加してほしいということですね」

「そう。どう?」

「いいですよ」


 ナコは両手を合わせて片頬につけ、微笑んだ。


「よかった。あ、アンちゃんも行くからね」

「え?」

「アンちゃーん、クリムちゃんも行くことになったからー」


 声を伸ばしてそう伝えたナコは、鉄壁の微笑みを崩さないまま、アンのもとへ行くと、


「いーい? 分かってるわよね?」


 アンは頬杖をついて、クリムとナコがいない方を見つめたまま、返事をしない。


「アン。返事をしなさい」


 ナコの声がほんの少しだけ冷たくなった。


「アン」

「うん。分かってるわよ。ほんとうざい」


 小さな声でそう言うと、アンはたちまち立ち上がり、早足でギルドを出て行ってしまった。


「ごめんなさいね。アンも仲直りしたいと思ってるはずなんだけど、あの子ってこれまで友達がいなかったから、仲直りの仕方を知らないの」


 苦笑いするしかない。

 あ、でも。

 クリムはずっと以前、シオが話していたことを思い出した。


「たしかアンちゃんにはお姉さんがいるんですよね。姉妹でけんかとかしなかったんでしょうか?」

「しょっちゅうしてたわよ。けんかというか、戦争だったわ」

「戦績は?」

「アンの全戦全敗」

「お姉さんは勇者をやめて旅に出たって聞きましたけど、いまどこで何をしてるんですか?」

「さあ。分かっているのは王都にはいないってことだけ。どこかで何かはしてるはずなんだけど。ほんと、親友の私に手紙の一つぐらいよこしてもいいのにね」


 ナコは小さく笑った。瞳の輪郭がにじんでいる。


「お二人はほんとのほんとに親友だったんですね」

「あら。あなたたちだってそうじゃない。違う?」


 はいそうです、とは即答できない。少なくとも今は。


「大丈夫よ。きっと仲直りできるわ」


 そう言ってナコはクリムを抱きしめた。母親を知らないクリムは、母親がいたらこんな感じかなと思った。


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