プライド
アンは魔力を高めているが、硬化魔法にも勝る聖剣相手に、素手で戦うなど、勝ち目があるはずがない。
だから、クリムは、光り輝く刀身に触れた。
そして、魔法を発動させた。
有を無に還す魔法を。
一瞬だった。
聖剣は消えて、あとには、洞窟の奥へと吹き込む風の音だけがその余韻を残した。
アンもブーハも聖剣が消えた虚空を見つめている。
クリムだけがうつむいてた。
「どういう、こと?」
アンはさらに問いを重ねる。
「私の聖剣は?」
「ごめん、アンちゃん」
「ごめんって何?」
「私が、聖剣を消したの。魔法で」
「なんでよ」
アンの声は震えている。
「なんで、そんなこと」
「あのまま戦ったら、アンちゃんがやられちゃうと思ったから」
アンは目を見開くと、大股で一気にクリムとの距離を詰め、首元をつかんだ。
「それ、どういう意味よっ。なんで私があなたに守ってもらわないといけないのよっ」
「だって、守るとか守らないとかじゃなくて、私は、単に」
「聞きたくないわ。本当は自分の方が強い、そう思ってるんでしょ」
「そんなこと」
「いいえ思ってるわ。あなたは。自分が一番強い、そんなふうに思ってるのに、そんなことには気づいていないふりをして、誰よりも殺傷能力が高い魔法を使えるくせに、平和主義者のふりをして、魔王のくせに、勇者と仲良くする。馬鹿にするのもいい加減に――」
「落ち着きな」
ブーハがアンの襟首をつかんで、クリムから引きはがす。アンはかまわず喚き続ける。
「弁償しなさい。同じものを持ってくるまで許してあげないわよ」
「そんな無茶を言うんじゃないよ」
「だっておかしいじゃない。あの聖剣は私のものだったのよ。それを勝手にどっかへ消して、ごめんの一言で済むと思ってるわけ? 聖剣ってのは、勇者の証よ。聖剣を持ってない勇者がどこにいるって言うの?」
「お前さんを助けるためにやったことじゃないか」
「頼んでないわ。私は聖剣になんか負けなかった」
クリムはアンのプライドを斬りつけてしまったのだ。
クリムに守ってもらった。命を救われた。ただそれだけの事実が、プライドの権化であるアンには耐えられない。
「絶交よ」
そう言い捨てて、アンは洞窟の外へと走って行ってしまった。
「あんたは正しいことをした」
ブーハの慰めを受けつつ、クリムはこのとき、確信した。
正しさほど、間違っているものはないのだと。




