聖剣による説教
アンは、無事だった。
代わりにブーハがわき腹から血を流していた。
「ブーハッ」
「大丈夫だよ、このぐらい」
聖剣がとっさに軌道を変えてくれたから、深い傷ではない。が、ブーハはすでに肩を斬られている。これ以上の出血はまずい。
「すみません。危険ですので、近づかないでください」
攻撃を一時中断して、聖剣が言った。
アンは息を整えながら、眉間に眉を寄せていた。
「どうして?」
「子供が死ぬのは、目覚めが悪いじゃないか」
「でも私は勇者よ」
「だから何だって言うんだい。あんたまだ十代だろう。勇者だろうが魔王だろうが、子供は子供さ」
アンはブーハの瞳の奥をにらんでいるようだった。
「私には、分からないわ」
「だからあなたは勇者失格なのです」
聖剣の声が響き渡る。
「本来、勇者とは、今、魔王ブーハが見せたような行動をとるべきなのです。弱者を助け、強きをくじく。勇気とは常に、弱者を守るためにしか存在しえないのです。なのにあなたは、これまでどれだけの弱者を無視してきましたか。誰かのために戦ったことは? 死を覚悟して、自分より強大な敵に立ち向かったことは?」
アンは何も言わない。
「皆無です」
でも。
アンを擁護する声が、クリムの内側から湧き出てきた。
「勇者とは魔王を倒す者のことではありません。勇気をもって民を守る者のことなのです」
正しい。
でも、勇者としての正しさを一人の娘に押しつけて、大衆はただ守られるだけ。
「魔王を前にして危機的状況にある人の、その足元を見て、見返りの金銭を求めるなど言語道断」
労働の対価をもらうのは当然というアンの主張だって正しいのではないのか。
胸に反論を重ねながら、一歩、一歩、クリムは聖剣との距離をつめていく。
「ギャンブルに金を使うぐらいなら、貧しい子供に寄付したらどうです? 菓子を暴食するぐらいなら、孤児院の子供へ菓子を配ってやればどうなのです?」
立派な行為だ。
でも、アンのお金はアンのお金なのだから、どのように使うおうと自由なのではないか。
クリムは自分でも自分が分からなかった。一緒に過ごすうちにアンの考えに感化されてしまったのかも。
「あなたは勇者失格です。イイエ、人間失格です」
「ならあなたは聖剣失格よ」
アンがゆっくりと顔を上げた。
「さっきから黙って聞いてれば、なに、あなた、私に説教するつもり? 道具の分際で思いあがるんじゃないわよ。人間様に逆らってんじゃないわよ」
「その傲慢も罪です」
聖剣は淡々と告げた。
アンは歯ぐきをむき出しにして言う。
「教育、いいえ、調教してあげるわ。あなたは一生、私に使われ続けるのよ」
「なんと醜いのです、あなたは」




