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超絶やさしい魔王とクズの極み勇者  作者: 仙葉康大
第四章 金とプライド
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魔王ブーハ

「んあ?」


 鈍い動きで立ち上がったその生物は、人間と同じく手足が二本ずつあった。ただ、でかかった。体長は十メートルくらい。体表は岩石のように角ばっており、赤茶色をしている。髪も同じく赤茶色で、肩の方までウェーブがかかっている。目じりには何重にも皺が刻まれている。


「誰かと思ったら、クリムじゃないか。それに」


 言葉を切って、獣のように笑う。


「勇者アン」

「こいつ、誰なの?」


 クリムに訊くアン。


「ブーハさんだよ。魔王」


 ちなみに巨人とゴブリンのハーフだ。


「へー。ねえ、あなた、黄金がどこにあるか、知らない?」

「この先、行き止まりまで行ったところにたんとあるよ」

「そ、ありがとう。黄金は近いわ。行きましょ、クリム」


 進もうとしたアンの進行方向を、ブーハの手の平が遮った。


「なに? これ」

「悪いが、ここから先は行き止まりだよ」

「は? なんでよ、おばさん」


 クリムは戦慄(せんりつ)した。やばい。アンがキレかけている。頬が痙攣(けいれん)しているのがその証拠だ。


「黄金なんて欲しがるんじゃないよ。人間が金持ちになってもろくなことになりゃしないんだから」

「だから私がお金持ちになっちゃいけないって言ってる? もしかして」

「あんた、勇者だろ。生活には困ってないはずだ。それとも借金でもあるのかい?」

「ないわ。私はね。毎日夜通しカジノで遊べるだけのお金が欲しいの。高級お菓子をどれだけ買っても使いきれないほどのお金が欲しいの。この世は金なのよ。金さえあれば幸せなの」


 うわあ、とクリムがドン引いている一方で、ブーハはうなずいていた。


「金があれば、幸福。確かにそうだろうね。裏を返せば、金がなければ、不幸なんだよ。残念ながら、人間の社会だけはそういうふうにできている」


 人間はお金で物を買い、所有し、自立の精神のもと、個人での生活を成り立たせる。一方で、人間以外の種族は、物々交換をしたり共有したりして、助け合いの精神のもと、集団での生活を成り立たせる。


 クリムはどちらがいいとも思っていなかった。二項対立で考え、どちらかが全面的に勝っていると思い込むことほど、愚かなことはないからだ。


「ここの黄金は、あんたのような比較的裕福な奴のものじゃないんだよ」

「あなたのものだって言うの?」

「私のものでもないさ。ここの黄金は、子供たちのものなのさ」


 アンが首を傾げる。


「私たちは、採れた黄金を、子供のいる貧しい家庭や孤児院へ送ってるんだよ」

「大人や老人で貧しい人もいるのに子供だけ特別扱いするわけ?」

「するんだよ。大人や老人より子供が優遇されるのは当たり前じゃないか」

「私だって子供よ。まだ十四よ。だから黄金を持って帰っていいわけね」

「ダメだよ。あんたは金銭的に困ってないんだろう? ここの黄金は、すべて、貧しい子供のものだよ」


 ブーハはさらにつづける。


「富の偏在を解消するために富を分配する。そんなに難しいことじゃないはずなんだがねえ、それさえできない種族が、一種族だけいる。それが人間だ」


 ブーハはどうにかしてやりたいと思っていたという。そして一か月ほど前、ブーハとその一味は、ついに黄金の眠る場所を掘り当てた、というわけだった。


 話し終えたブーハは、腕を組んで鼻息を荒く鳴らした。

 アンは歯ぎしりを激しくさせる。


「あなた、魔王のくせになんて善行をやってくれちゃってるのよ。これじゃあ生活に困っていないのにここの黄金を奪おうとしてる私が悪者みたいじゃない」

「いや実際その通りだよ、アンちゃん」

「ぬぐぐ」

「あんた、本当にお金が欲しいのかい? 本当はもっと別の何かが欲しいんじゃないのかい?」

「何かって何よ?」


 アンが目を()く。


「この世はお金をたくさん持っていて、腕力の強いやつが勝つ世界なのよ。そんな世界で他に何が要るっていうのよ?」

「かわいそうな子だねえ」


 ブーハの瞳は憐憫(れんびん)に満ちていた。

 アンは眉を吊り上げ、拳を握った。


「もう許さないから」


 言うと同時にブーハの腹を殴っていた。


 いつもの光景だった。ブルチズもチリドペッパも一撃だった。だから今回も、とクリムが思っていたら、いつもと違うことが起こった。


 ブーハは倒れなかった。


「これが噂の強化魔法かい」


 そう言ったブーハの顔は鋼色に鈍く光っている。顔だけじゃなく、首も腕も足も、皮膚全体がメタリックだった。


 硬化魔法。基礎的な魔法だが、それを極めたブーハは、アンの攻撃すら受け止めて見せた。


「拍子抜けもいいところだよ、勇者アン。とっととおウチに帰るんだね。私は昼寝の続きでも――」


 アンの蹴りがブーハのでか尻にヒットした。が、ブーハはぴくりともしない。


「このっ、このお」


 アンは次から次へと攻撃をくり出した。殴り、蹴り、ひじやひざまで使って、何とかしてブーハにダメージを与えようと躍起になっている。一方、ブーハは何もしなかった。硬化魔法を発動しているだけである。ガードのポーズすら取らない。


 徐々に勇者と魔王の優劣がはっきりしてきた。魔王ブーハは腕を組んで退屈そうに首をひねっているのに対し、勇者アンは息を切らしていた。その拳には血がにじんでいる。


「意味わかんない。魔王なんてザコばっかりなはずなのに」

「私をブルチズやチリドペッパと一緒にすんじゃないよ」


 魔王の戦闘力は、最低でも一国家の軍事力と同等である。ブルチズやチリドペッパが弱いわけではない。彼らと比べて、アンが強過ぎたのだ。そして、今の状況も同じように説明できる。アンが弱いわけではない。ブーハが強すぎるのだ。


 魔王序列第十一位はだてじゃない。


 「魔帝ススパイの盾」という異名を持つブーハに傷をつけられるものなど、世界を見渡しても、十人といないだろう。


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