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超絶やさしい魔王とクズの極み勇者  作者: 仙葉康大
第四章 金とプライド
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ゴブリンたち

 着地の瞬間、アンは強化魔法を発動し、クリムを抱きかかえた。すべての衝撃を受け止めたアンは、お姫様抱っこしていたクリムを下ろした。


「ありがとう」

「何でもないわ、このぐらい。っていうか、すごいわね、これ」


 底は意外にも明るくかった。


 誰かが灯した光魔法が壁に沿って点々と灯っている。そしてその光が地面や壁から生えている水晶や鉱物に反射して、カラフルな光が飛び交っている。


 しかしそこには、幻想的な光景にそぐわない者たちもいた。


 ゴブリンである。緑の体のあちこちからこぶが出ている。手に持ったハンマーやつるはしを振り上げて、原始人のように叫びながら二人のもとへ駆けてくる。


 アンがかまえる。

 が、ゴブリンたちは、クリムと目が合うと、途端に手を下ろし、そろって首を傾げた。


「どこかで見た顔だ」

「俺もそう思っていたところだ」

「俺もだ」

「実は俺も」

「馬鹿言うなお前ら。でも俺もそう思った」


 面倒なことになる前に帰りたい。クリムはただそれだけを願った。


「こっちの顔にも何か見覚えがある、ような気が」

「確かに」とゴブリンたちはいっせいにうなずく。


 すかさず別のゴブリンが言った。


「バカ。お前ら、新聞を読まないのかよ。俺はインテリだから時々、近くの村へ行って路地裏とか公園とかのゴミ箱をあさって、新聞を見つけて、読んでるんだけどよ、こいつはよく載ってるぜ」

「へえ、じゃあいったい誰なんだい?」

「知らねえよ。だって俺、字、読めねえもん」


 ゴブリンたちが笑い合う。アンが震え始める。


「こいつら、この私を知らないなんて、なんて非常識な」

「アンちゃん。落ち着いて」

「落ち着けるわけないでしょ。この無知で愚鈍なゴブリンどもに私の存在を知らしめなきゃならないのよ。いい、よく聞きなさい。私は――」


 クリムは慌ててアンの口を押さえた。


「な、なにするのよ」


 すぐクリムの手首をつかみ、はがすアン。


「唇を触るなんて非常識よ」

「アンちゃん、黄金を探そうよ」

「もちろん探すわ。でも、その前に、このゴブリンたちに私が誰であるかを」

「それは別にいいんじゃないかな」

「いいわけないでしょ。私は勇者なのよ。王国に生きとし生けるものは、みな私の存在を認知し、感謝しなければならないのよ」


 クリムの誘導はうまくいかず、ゴブリンたちはアンが勇者だと知ってしまった。

 また、戦いになる。

 そしてまた、魔王が一人、倒されてしまう。ブルチズやチリドペッパと同じように。

 しかし、ゴブリンたちは口を半開きにして、互いの顔を見やっている。


「勇者って言うと、俺たちの敵のあの勇者かな?」

「いや、でもそうとは限らないんじゃ」

「そりゃあそうさ。そうとは限らん」

「そうだよなあ」


 流石のアンも怪訝(けげん)な顔をする。


「なにこいつら、脳みそ抜かれてるの?」

「多少、抜けてるだけだよ、きっと」

「もういいわ。クリム、行くわよ。これで私も億万長者―」


 アンが自作の歌を口ずさみながら、辺りを探索し始めた。クリムはついて行く。すると、壁に横穴を見つけた。二階建ての家ぐらいなら入りそうなほど、高さや幅がある。奥行きは暗くてよく分からない。


「ここ、怪しいわね。ゴー」


 クリムはアンに手を引かれながら、なんとなく嫌な予感がしていた。

 この穴のサイズからして、もしかすると、ここに――。


 そんなことを考えていると、なにか低い音が聞こえてきた。規則正しくゴーフガ、ゴーフガ、というその音からは、生物が発しているようなぬくもりが感じられた。


 音のする方へ進む二人。暗闇に目が慣れてきたときには、その音は、爆音となって鼓膜を突き破る勢いだったから、耳を手で押さえて進まなければならなかった。そうして穴の奥深くにたどり着いた二人は、音の主を発見した。


 闇の中では、何の種族かまでは分からないが、人間でないことは確かだった。でかすぎるのだ。

 人間よりもはるかにでかいその生物は、爆音のいびきを立てながら眠っている様子だ。


「うるっさいのよ」


 アンが巨大生物を蹴り上げた。

 いびきが止んだ。

 静寂。

 そして、低い声が響いた。


「ライト」


 光魔法の中でも最も基礎的な魔法ライトは、その使用者の人差し指の先に光を灯す。

 クリムとアンの体よりも太くて長い人差し指の先が白熱した。


 寝そべっていたから、巨大生物の片頬は地べたについていて、クリムとアンは、目の前に突如現れた、自分の頭と同じぐらいのサイズの目玉にあとずさった。


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