大穴へ
大穴ネロコの周りには、何台もの馬車や箒が停まっていた。
つるはしを持った人々が、穴を見下ろし、その底深さに顔をひそめている。
穴の内壁に人が一人通れるほどの道があって、そこを歩いて下って行けば、底にたどり着けるのだが、ほとんどの者は委縮して、その足を動かそうとしない。
「ねえ、そこのあなた」
アンが呆然と穴を見つめてばかりいる男に声をかけた。
「下へ行く気がないなら、そのつるはしをよこしなさい」
「え? いや、ダメだ。これは俺のだ」
「なら買い取るわ。金貨三枚で」
法外な値段に屈した男は、つるはしを差し出した。
「クリム、あなたも調達しなさい」
「私はいいや」
「何言ってるの、ここまで来て黄金を掘らないつもり? あ、そこのあなた、それよこしなさい」
とアンはまたつるはしを手に入れ、それをクリムにわたした。クリムとしては別にいらなかったが、アンの機嫌を損ねると面倒なことになるから、金貨と交換でもらっておいた。
「下へ着くまでにどれぐらいかかるかなあ」
クリムが歩き出すと、
「そっちじゃないわよ」
とアンが言った。
「こっちじゃないの?」
クリムは、細く下へと続く道がある方を指さした。
「そんな道をちんたら行ってたら日が暮れるわ」
「じゃあどうするの?」
「こうするのよ」
クリムの手を引っ張って、アンは駆け出した。アンが何をしようとしているのか、悟ったクリムだったが、時すでに遅し。
二人は大穴の中心へ向かってジャンプした。
勇者の笑い声と魔王の絶叫がねじれ、からみつきながら、大穴の底へと落ちていった。




