大負け
「オールイン」
アンが持っていたチップ三百枚を台の上にぶちまけた。これでは、どの数字に賭けたのか、分かりやしない。
「恐れ入りますが、どちらに賭けたのか、確認させていただいても?」
ディーラーが淡々と訊くと、アンは勝ち誇ったように言った。
「赤」
ルーレットのホイールが回り始め、球が投げ入れられた。
「俺も赤」
「俺はやっぱり偶数に変更だ」
無言でチップを置く者もいる。
他の客が追加でベットしたり、どこに賭けるかを変更したりとあわただしい。アンはまばたきもせずに、回る盤と走る球を見つめている。
「ノーモアベット」
ディーラーがそう告げると、それから二呼吸の内に、球がポケットに落ちた。そこは黒のポケットではなかった。しかし、アンの賭けた赤のポケットでもなく、赤でも黒でもない、唯一の緑のポケット、0だった。
0はディーラーの総取りとなる。
アンの瞳孔が開ききるのを、クリムは横からぼーっと眺めていた。
「なんでよっ。なんで赤に入らないのよっ。ああっ、もうっ」
アンが台を叩くものだから、他の客は台から遠のいていった。ディーラーが次投げ入れる球を磨きながら、
「お客様、台や盤への物理的攻撃は、お控えなさるようお願いいたします」
「イカサマディーラーが何を言ってるのよ。いいわ。殺してあげるわ」
「わー、ダメダメダメ」
あわててアンを羽交い絞めにするクリム。
「アンちゃん、もう帰るよ」
「いやよ。私はまだ負けてないわ」
「そんなこと言ったって有り金全部チップに変えて、そのチップを全部賭けて負けちゃったじゃん。もうお金ないでしょ」
「ぐぬぬ」
ぐうの音も出なくなったアンは、ふてくされたまま、クリムに引きずられてカジノをあとにし、その後ナコから死んだ方がましと思えるほどの説教を受けた。




