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超絶やさしい魔王とクズの極み勇者  作者: 仙葉康大
第四章 金とプライド
32/59

大負け

「オールイン」


 アンが持っていたチップ三百枚を台の上にぶちまけた。これでは、どの数字に賭けたのか、分かりやしない。


「恐れ入りますが、どちらに賭けたのか、確認させていただいても?」


 ディーラーが淡々と訊くと、アンは勝ち誇ったように言った。


「赤」


 ルーレットのホイールが回り始め、球が投げ入れられた。


「俺も赤」

「俺はやっぱり偶数に変更だ」


 無言でチップを置く者もいる。


 他の客が追加でベットしたり、どこに賭けるかを変更したりとあわただしい。アンはまばたきもせずに、回る盤と走る球を見つめている。


「ノーモアベット」


 ディーラーがそう告げると、それから二呼吸の内に、球がポケットに落ちた。そこは黒のポケットではなかった。しかし、アンの賭けた赤のポケットでもなく、赤でも黒でもない、唯一の緑のポケット、0だった。


 0はディーラーの総取りとなる。

 アンの瞳孔が開ききるのを、クリムは横からぼーっと眺めていた。


「なんでよっ。なんで赤に入らないのよっ。ああっ、もうっ」


 アンが台を叩くものだから、他の客は台から遠のいていった。ディーラーが次投げ入れる球を磨きながら、


「お客様、台や盤への物理的攻撃は、お控えなさるようお願いいたします」

「イカサマディーラーが何を言ってるのよ。いいわ。殺してあげるわ」

「わー、ダメダメダメ」


 あわててアンを羽交い絞めにするクリム。


「アンちゃん、もう帰るよ」

「いやよ。私はまだ負けてないわ」

「そんなこと言ったって有り金全部チップに変えて、そのチップを全部賭けて負けちゃったじゃん。もうお金ないでしょ」

「ぐぬぬ」


 ぐうの音も出なくなったアンは、ふてくされたまま、クリムに引きずられてカジノをあとにし、その後ナコから死んだ方がましと思えるほどの説教を受けた。


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