カジノヘ
首をねじったチリドペッパが見たもの、それは、魔力を拳にためこんだ、勇者アンだった。
「何をやろうとしているのだっ、お前は。ここは図書館だぞ。戦闘などもってのほか」
次の瞬間には、チリドペッパは腹に拳を打ち込まれ、倒れてしまった。
「悪いけど、あなたが何をしようと私には勝てないのよ。だってあなた、弱いじゃない。魔力の総量だって私に比べたら小さいし。努力したってできないことはできないの」
バーヘンとクリムは、チリドペッパに駆け寄り、具合を確かめた。
息はしている。
クリムが安堵の息を吐きだす。そのとき、
「あら、クリムじゃない。いたの?」
「いたよ。アンちゃんこそ、カジノへ行ったんじゃなかったの?」
「ここに魔王が出たって言うから呼び出されたのよ。これで軍資金が手に入ったわ」
出入り口に控えていた王都魔法軍の小隊長が小走りでやって来て、アンに小切手をわたした。
「これを換金して、今度こそ大勝ちするわよ。そうだ、クリム。あなたも来なさい」
断るとまた不機嫌になるんだろうなと思いながらも、クリムは断るしかない。
「ごめん。今、仕事最中なんだ。だからいけない」
「いえ、クリムさん、こちらの都合で申し訳ないのですが、残りの封印書の開封は、また火を改めてお願いできないでしょうか。図書館がこんな状態では、封印書どころではないので」
図書館の外では、避難の際にけがをした人たちが手当てを受けており、中は、本がそこらじゅうに落ちていて、貸出カウンターのそばには魔王チリドペッパが倒れている。
「私に何か手伝えることはありませんか?」
「ありがとう。でも、こうなってしまってはあなたは勇者アンさんと行動を共にしていた方が、謂われない疑いをかけられなくてすむでしょう」
「すみません」
「あなたが謝ることではありません。チリドペッパさんにしても、彼は、図書館では決して暴力をふるわなかった。あなた方は悪くないのです」
では、いったい誰が悪いのか。
善悪のありどころについて考えていると、アンがクリムの肩に手を回してきた。
「カジノで勝ちまくって王都一の金持ちになるわよ」
「アンちゃん」
ここまで金銭欲にまみれていると、いっそすがすがしい。
聖剣を携えた勇者と、何も持たない魔王は歩き出した。ギャンブルの巣窟、王都カジノ「ルージュノワール」へ向かって。




