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超絶やさしい魔王とクズの極み勇者  作者: 仙葉康大
第三章 人気と差別
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魔王チリドペッパ

 ブルチズを牢屋に残し、クリムとサビは、王都を囲む城壁の上、そこで見張りをしている兵士の影から現れた。


 兵士は若い男で、まだ二十代のようだった。たれ目で、手には双眼鏡を持っている。


「わあ、何ですか、いったい」


 兵士はまばたきしたと思ったら、顔をほころばせた。


「クリムさん、魔王のクリムさんですよね」

「は、はい」

「うわあ、僕、会うの初めてなんですけど、握手してもらってもいいですか?」


 差し出してきた手を握るクリム。


「すごい人気だね」


 サビが冷やかす。

 サイレンの残響に包まれた王都に、声が響き渡る。


「城壁近くに住んでいる方は、中央広場へと非難してください。できるだけ都の中心へ避難してください。東の魔王の襲来です。繰り返します」


 声は拡声魔法で増幅されており、避難指示は王都中の人の耳に入った。


「東の魔王、ってことはチリさん?」

「流石、お詳しいですね」


 王都侵略の任務に就いている魔王は、クリムを合わせて四人だ。王都の北方から攻めていたブルチズ、西に陣取るブーハ、南の森に拠点を築いている最中のクリム、そして東の砂漠地方を支配下に置いているチリドペッパ。


 そのチリドペッパの軍勢が、王都へと向かってきた。

 呑気な兵士は腰にぶらさげていた予備の双眼鏡をクリムに貸してくれた。


 レンズを通して、チリドペッパの浅黒い顔が見えた。背中からは巨大な黒翼を一対生やしている。チリドペッパは悪魔であり、その身長は、三メートルを超える。部下たちも悪魔ばかりで、彼の陣営の総戦闘力は、千人いる魔王たちの中でもトップクラスだ。


「八千、いや、一万はいるね、あれ」


 サビが言った。

 チリドペッパの軍勢を迎え撃つは、王都の魔法軍隊だ。こちらも一万以上はいる。

 戦いになれば、大惨事だ。


「私、止めてきます」

「それはいいが、どうも様子がおかしいぞ」

「え?」


 双方、動かない。


「お前らと戦うつもりはない」


 チリドペッパが叫んだ。

 拡声魔法を使わずともその声は、魔法軍や城壁の上のクリムたちにも聞こえるぐらいでかかった。


「勇者を出せ」


 兵隊長が一歩前にできて、こちらは拡声魔法を使って言った。


「今、呼んでいるが、来ないのだ」

「なぜだ?」

「その、昼ごはんを食べているらしい」

「チッ。くそがっ」


 チリドペッパが地団駄を踏んだ。


「昼時に来るんじゃなかった。しかし、いつもならこの時間には昼飯を食べ終えているぞ、あのくそ勇者は」

「なんでも昨日は遅くまでカジノで遊んでいたらしく、起きたのがついさっきらしい。だから正確には、昼食ではなく朝食を食べている」

「くそおおおお」


 チリドペッパが叫び、大地が震えた。彼は地面にあぐらをかいた。

 待つようだ。


「あの、何ですか、これ?」


 クリムは訳が分からなかった。


「おや、そうか、君はこれを見るのは初めてか。チリドペッパはね、定期的に勇者アンと手合わせしているのだよ。そうだな、一か月に一回ぐらいのペースで」

「え? でもここ二か月ぐらい、一度もこんなことは」

「彼もブルチズと同様に、君に気を遣っていたのだよ。魔王である君が王都の人に受け入れられるまでは、手合わせはひかえると、この前言っていたよ」


 王都の人々がクリムに対してまだ不信感を持っているときに、チリドぺッパが勇者と戦って勝利でもしたら、同じ魔王であるクリムは、恐怖の対象でしかなくなるだろうから、クリムへの風当たりを考えて、自粛していたのだ。


「意外と彼、気遣いのできる男なんだよ」

「へえー」


 兵士の青年が感心したように相槌を打った。

 三十三分後。

 勇者アンが、城壁の門を抜けてチリドペッパの前にやって来た。

 ここからでは聞こえないが、チリドペッパに対し、何か文句を言っているようだ。


「だから、悪かったと言っているだろう。今度から昼時は避ける。それでいいな?」


 その反論が、開戦の合図になった。

 チリドぺッパが体から炎を出した。炎は蛇のように唸りだす。


 爆炎魔法。それがチリドペッパの魔法である。シンプルに火力の強いこの魔法は、戦闘において絶大な力を発揮する。


 が、相手はあの勇者アンである。


 強化魔法を発動させたアンは、炎の蛇をものともせず突っ込み、チリドペッパの顔面に拳を入れた。チリドペッパもすかさずアンの銅体をその大きな手でつかみ爆炎魔法を発動。二人の体を包むほどの爆発が生じた。


 風が煙幕を晴らすと、そこには、倒れているチリドペッパと、その巨体を殴りまくっているアンがいた。


「魔王様―」

「やめろ、バカ勇者―」


 悪魔たちが泣きながらアンに罵声を飛ばすと、アンはげんなりした顔をして、チリドペッパから離れ、魔法軍のところへ行き、兵隊長から紙切れを一枚受け取って、王都へ帰って行った。


 アンが受け取った紙切れは小切手で、王都を魔王から守った時は、雇い主である国から相応の報酬を受け取ることができるのだ。裏を返せば、アンは、成果を上げない限り報酬をもらえない。これが他国の勇者だと、何もしなくても豊かに暮らせるだけのお金を、毎月国からもらっている。


 勇者と魔王が戦っている間、サビは笑いどおしだった。


 倒れているチリドペッパを確保したい王都魔法軍だが、一万を超す悪魔と全面衝突して勝ち切る自身もないので、結局、身動きできない。


 チリドペッパは臣下に支えられて砂漠の方へ撤退した。


「いやあ、何度見ても実に愉快だ」

「笑い事じゃないですよ、サビさん」


 チリドペッパでもアンに敵わないなら、いよいよクリムの出番なのだが、当のクリムがもはやアンを殺せなくなってしまった。


「さて、ひとしきり楽しませてもらったし、私はそろそろここを発つよ。この後は天界へ行って神々の演じる劇を観る予定なんだ」


 忙しい人だ。


「そうだ、これを訊くのを忘れてた。城づくりはどんな感じだい?」

「まだ完成には程遠いですが、日々着々と進めています」

「何か困ったことがあれば、すぐに私を呼ぶといい。暇だったらすぐに駆けつけよう。さらばだ」


 サビは消え、クリムは兵士と二人、取り残された。


「クリムさんはこれからどちらへ?」

「ギルドへ寄ってから帰ろうと思います」

「なら自分がお供します」

「そんな、いいですよ」

「いけません。今だって見たでしょう。いつ魔王が攻めてくるか分からないんですから」


 私、魔王なんだけど、と思いながらも、クリムはこの兵士の厚意に甘えることにした。


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