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超絶やさしい魔王とクズの極み勇者  作者: 仙葉康大
第三章 人気と差別
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牢屋で読書

 王都魔法警察署の地下一階には人間の囚人が収容されている。

 地下二階は、人間以外の囚人、悪魔やゴブリンを閉じ込めておくためのフロアだ。

 そして地下三階。魔王専用の牢屋。


 その最奥にブルチズはいた。鉄格子のなかで、ランタンの明かりを頼りに本を読んでいると、彼の影が揺らめき、そこからクリムとサビが顔を出した。


「ブルチズさん、こんにちは」

「おお、同志クリムよ。久方ぶりだな」


 ブルチズは、その八本ある足を鎖でつながれていた。鎖には無効化魔法がほどこされているから、魔法を使って脱獄することはできない。


 クリムとサビは影から抜け出して、その全身をあらわにした。


「おや、ブルチズ、私にあいさつはなしかい?」

「汝は毎日何回もここに来るではないか。いちいち挨拶するのも面倒になって来たのだ」

「サビさん、そんな頻繁に来てたんですか?」

「かたくなにここを動かないブルチズが面白くてね。私の手を借りれば、いつでもここを抜け出せるというのに」


 サビ・ワワワは、序列第四位の魔王であり、影魔法の使い手だ。人影、物陰、木陰、ありとあらゆる影にひそみ、影と影の間を行き来することができる。他にもできることはたくさんあるが、サビの能力の全容を知る者は、魔帝ススパイただ一人である。


 強力な能力を持つサビだが、そのくせ、魔王の仕事はほとんどこなさず、世界中を遊び歩いて回っている。


「君が出て来ないこと、ススパイも心配していたよ」


 魔帝の名を呼び捨てにしたのは、彼が普段からススパイに対してため口を聞いているからである。サビは、魔帝フレンズの一人なのだ。魔帝フレンズとは、魔帝ススパイにため口をきく魔王たちのことで、彼らはススパイに従うつもりがなく、各々が自分勝手にやりたいことをやっており、時にススパイに反発することもあるが、ススパイはそんな彼らを面白がっている。友とすら思っている。


 ブルチズは手元の本を閉じて言った。


「同志クリムが王都で民の心を集めている最中、獄中の魔王が脱獄したとあってはまずいだろう。だから当分我はここにいよう」

「ブルチズさん、私なら大丈夫です。脱獄する日時さえ教えておいてくれたら、ちゃんとアリバイを作ります。もう魔王城へお帰りください」

「しかし、ここもなかなか住み心地がよくてな。本を読むにも集中できるし」


「何の本を読んでいたんですか?」

「ああ、これは聖書である」

「あ、私も聖書好きなんです。特に大天使キーケ様の道徳観には納得するところが多くて」

「同感だ。我も多くを学ばせてもらっている」

「本気かい? 君たち。魔王が聖書を読むなんて、実に愉快だ」


 それから、二人は聖書の好きな話をそらんじあい、サビは薄い笑みを顔に張り付けて聞き入っていた。


「人間がみな、聖書に出てくる大天使キーケのように清い心であってくれたならば、別の道もあったかもしれぬな」


 ブルチズはクリムの目を見た。


「汝はこれからどうするつもりだ?」

「私は」


 人間を滅ぼすべきか否か。クリムははまだそんなところで迷っていた。


「答えはまだ出ていないようであるな。なに、汝は若い。これから見つけて行けばよい」

「はい。でも一人ではきっと無理なので、ブルチズさんも協力してください」


 そう言って、クリムは差し入れにと買ってきた哲学書をわたした。


「しかし我は汝の考えとは違う考えを持っているかもしれぬぞ」

「だからこそです。おそらく人間を滅ぼすべきか否か、この大問題については、私一人の哲学では太刀打ちできません」

「ならば我も手を貸そう。無論、同志サビも手を貸してくれるな」

「いやあ、私はやめておくよ」

「なぜだ?」

「忙しいんだ。このあとだって、ある戦いを見物に行かなくては」


 サビは口元を押さえて笑いをこらえている風だった。


「君たちにも関係のある戦いだよ」


 そのとき、王都にサイレンが響き渡った。


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