お茶会
ギルドの建物の前にも、新聞記者や政治家がたくさん来ていた。アンとクリムをのせた箒は、その人たちの頭上すれすれを飛んで、ギルドの中へと突っ込んだ。
箒は急に止まれない。
壁に激突し、箒は八方向に避け、クリムとアンも体を打った。
「二人とも、大丈夫?」
ナコが駆け寄る。
「ただいま」
しりもちをついたまま、アンが言った。
クリムは打った背中をさすりながら、開口一番、謝った。
「あの、ごめんなさい。私、ナコさんに隠し事してて」
「あら、そうなの? 誰だって秘密にしたいことの一つや二つあるわよ。そうだ。二人も帰って来たし、みんなでお菓子でも食べましょう」
その場にいた冒険者や魔法使いたちがガッツポーズした。
「そんな悠長にしてる場合じゃないんです。外には記者もたくさん来てるし」
「ああ、それなら大丈夫よ。こういうトラブルがあった日は、無資格者出入禁止魔法をかけて、ギルドメンバー以外はここに入れないようにしてるから」
「かけてって、そんな高等魔法を使える人たちが、このギルドにはいるんですか?」
「人たちじゃないわ、クリム」
アンが指摘した。
「どういうこと? だって無資格者出入禁止魔法をかけるって言ったら、凄腕の魔法使いか魔女が十人以上は必要なはず」
「普通はそうなんだけど」アンがナコの方を見る。
「はい、この話はこれでおしまいっ」
急にナコが両手を叩いて、話を打ち切ってしまった。
マッチョの剣士が奥の給湯室で紅茶を沸かし、女神官は、倉庫の鍵を開けて、保存魔法の効いた菓子箱を何個も取って来た。
「みんな、席についたわね」
ナコが大ホールを見渡して言った。
百八名のギルドメンバーの内、五十三人がそろっていた。バニラ村での一件は、速報で王都に伝わっていたため、何も予定がなく暇なメンバーは、ギルドに来て二人の帰りを待っていたのだ。
「それじゃあ、いただきましょう」
「いただきます」
各テーブルから野太い声やか細い声がした。
みんな、何事もなかったかのように、ダージリンを飲み、マドレーヌを食べていく。好き勝手にしゃべっている。
本当にただのお茶会だ。
クリムはティーカップにもマドレーヌにも口をつけず、立ち上がった。
「あのっ、皆さん、私っ」
大ホールの隅々に伝わるように声を張る。
「言わなくちゃいけないことがあって」
剣士も盗賊も神官も魔法使いも探偵も勇者も受付嬢も手を止め、クリムの方を見た。
「実は私は」
クリムは周りを見回して、最後はナコの目を見て言った。
「魔王なんです」
大ホールは静まり返った。
「騙しててごめんなさい。皆さんに迷惑はかけないつもりでしたが、結果的に、かけることになってしまいました。私は、ギルドを抜けます。すごく短い間でしたが、今までお世話になりました」
「認めませんっ」
ナコが笑顔で言った。
「でも、私は魔王で」
「でも、あなたはクリムちゃんでしょ」
「そうだけど、魔王がギルドにいるなんて、皆さんだっていやなはずです」
「嫌な人?」
ナコが訊くと、みんな、紅茶を噴きだして大笑いした。
「嫌なもんか」
「ここをどこだと思ってる? あの悪名高い勇者が所属するギルドだぞ。魔王の一人二人屁でもねえ」
「魔王が仲間とかむしろかっくいい」
「っていうか、クリムちゃん、いい子だし。それぐらい分かるし」
クリムは分かった。この人たちバカなんだ。
「というわけで、魔王のクリムちゃんが正式に私たちの仲間になりました」
クリムは拍手に包まれた。
「関係各所及びうるさい連中の対応は私がします。今日中には静かになるはずよ。じゃあ、解散。あ、そうだ、ティーカップは各自で洗って戻しておくように」
唖然とするクリムを見上げて、アンは唇の端にマドレーヌのカスをくっつけたまま、どや顔で言った。
「ほら見なさい。どうにかなったでしょ」




