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超絶やさしい魔王とクズの極み勇者  作者: 仙葉康大
第二章 戦争と人間
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取材殺到

 窓の外が白み始めた。

 アンはまだ起きない。もううめいてはいないが、顔色はよくない。人形のように真っ白だ。


 朝の訪れとともに、通りの方は騒がしくなってくる。村の人々が仕事に出て行っているのだろう。アンが死にそうにになっても、村の人々の一日は始まるし、王都でも新たな一日が始まっているのだ。


 アンの言ったことは正しかったのかもしれない、とクリムは思った。


 関係なかったのだ。自分と他人は切り離されていて、自分優先で動くことがこの世界の最適解なのだ。きっと。


 にしても通りが騒がしい。


「出せー」

「取材させろ」

「どけどけ」


 窓を開けると、人々がごったがしているのが見えた。この宿屋の前に密集している人、人、人。片目にルーペをつけている人がたくさんいる。


 あれは、魔法ルーペだ。映像記録魔法をほどこしたルーペで、あれを通して見たことは記録される。記録された映像は、レンズ上で再生することができる。


 記者だ。魔法新聞社の。

 もちろん目当てはクリムである。


 バニラ村に魔王が出たと聞いて、王都からやって来た記者軍団は、ある噂を耳にしたのだ。勇者と一緒にいた少女が魔王であると。その噂の真偽を確かめるために、ここに集まったのだ。


「あいつだっ」


 記者団から指を指され、クリムは窓枠の下に姿を隠した。

 それにしてもどうして記者団は宿へ踏み込んでこないのだろう?


 すばやく窓の外を盗み見ると、状況がつかめた。名もなき村人たちが記者団を押しとどめてくれているのだ。


 怪我でもしたら大変だ。早くやめさせないと。

 クリムは窓を開け、身を乗り出した。


「みなさん、落ち着いて聞いてください。私は取材をお受けします。だから、押し合いへし合いをやめてください。今、そっちに行きますから」


 もちろん、静かになんかならなかった。クリムがいよいよ窓から飛び降りるしかないと思ったそのとき、肩をぐいとつかまれた。


「私に何も言わず、どこへ行こうとしてるのよ」


 アンが傍らに立っていた。顔色はもとの健康的な肌色に戻っている。

 勇者もいるぞ、と外の声が爆発した。


「アンちゃんっ」


 クリムはアンに抱き着いた。


「なによ」

「痛みとかしびれ、残ってない? 気分は?」 

「絶好調よ。あー、でも、お腹が空いたわ。それもそうよね。だって昨日の夕方から何も食べてないんだもの。あ、こんなところにおいしそうなクッキーがあるじゃない。早く言いなさいよ」


 アンはクッキーをひとつかみして、ガ行の音をたくさん出しながら食べる。

 何十枚もあったクッキーは、ものの数十秒でなくなってしまった。


「うーん、まだお腹減ってる。強化魔法たくさん使ったあとっていつもこうなのよね。で、外の騒ぎはなに?」

「記者の人たちが私のことを取材したいって来て、どうしよう」

「そんなの、ぶっ殺せばいいじゃない」

「いや、ダメでしょ」

「私、新聞も記者も大嫌い。私の悪口ばかり書くんだもの」


 アンが事件を起こすたびに、勇者としての自覚をとか何とか、説教調の社説を披露するという。


「人の悪口書いてお金もらうなんて、最低の職業だわ」

「それはそうなんだけど、中には、強者に虐げられている弱者の情報や、災害時に役に立つ情報をを伝えてる立派な人だっているはずだよ」

「少なくとも、ここに来て村人と乱闘しているあいつらは、立派の真逆を行く奴らね」


 ここに留まっていれば、騒ぎが大きくなるばかりである。


「何とかしてここを出ないと」

「そんなの、簡単じゃない」


 アンが部屋の中を歩き回り、本棚と洋箪笥の間に立てかけてあって箒を手に取った。


「まさか」

「ほら、行くわよ」

「でも、私、全然寝てなくて、この睡眠不足の状態でアンちゃんの運転は」

「乗りなさい」


 アンが人を殺しそうな目でにらんできたから、クリムは箒にまたがるしかなかった。


 二人は、宿屋の代金と新品の箒が買えるだけの金貨をその場に落とし、開け放たれている窓から、流星のように飛び立った。


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