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超絶やさしい魔王とクズの極み勇者  作者: 仙葉康大
第二章 戦争と人間
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魔女三姉妹

「アンちゃんっ、ブルチズさんっ」


 クリムは駆け寄り、アンの首筋に手を当て、脈があるのを確かめた。問題はブルチズで、蜘蛛の脈ってどこで見るんだろうと考えていると、魔法警察の巡査がやって来て、ブルチズの八本の足のすべてに無効化魔法をほどこした足枷をはめてしまった。


「これでこいつは無力です。他の魔王の情報を得たいので、回復魔法をほどこします。念のため、皆さんはここを離れてください」


 村の警官五人が忙しく立ち回る。


 クリムは、ブルチズは警官たちに任せることにして、アンの方を診ることにした。しかし、その顔をなぞきこむようにして、警官が声をかけてきた。


「失礼ですが、ご同行願えますか」

「やっぱりそうなりますよね」

「あなたには魔王の疑いがかかっています」

「馬鹿を言うんじゃないっ」


 叫んだのは、村長だった。今まで丁寧な口調だったし、おとなしい人だと思ってたから、びっくりだ。


「この子が魔王だと言う証拠がどこにある?」

「何人もの村人から、魔王ブルチズがこの少女を同志だと言っていた、という証言を得ています」

「糸で身動きのできない状況で、魔王を前にして、気が狂ったんだ。そうに違いない」

「しかし、話を聞く必要はあるのでは?」

「そんなものはない。この子は村を救ってくれた大恩人だ。君たちは、魔王ブルチズを王都へ送る準備でもしてなさい」


 魔王を閉じ込めておける檻は、王都にしかないのだ。

 警官は唇を歪め、うなずいた。


「ありがとうございます。かばってくれて」


 クリムがささやくと、村長は首を横に振った。


「人の口に戸は立てられない。勇者アンのことは私に任せて、君は早くここを出た方がいい」

「そうはいきません。なんだかんだいって、やっぱり、友達、ですから」


 それはもうクリムにとって事実だった。アンが何を言おうと、揺るがない真実だった。


「アンちゃん、聞こえる? アンちゃん」


 呼びかけながら、アンの体を触診していく。まだ皮膚にしみこんでいない毒は無化魔法で消せるが、もう体内へ染みてしまった毒は、触れないので消せない。


「気分悪い―」

「痛いところは?」

「わかりゃない。なんか、へんしん、しふぃれてる」


 呂律が回ってない。


「ブルチズさんの毒の体液、それも原液を浴びたから、こんなことに」


 村長は薬に詳しい魔女を呼ぶよう、そばにいた秘書に命じた。


「それなら、あのおいしいクッキーを作れる三姉妹が適任でしょう」


 エルフの秘書は、丸縁の眼鏡を押し上げてそう言った。

 十分後。


 三姉妹は箒に乗ってやってきた。目深に三角帽をかぶっており、顔は見えない。髪は長く、色はそれぞれ、赤、青、黄。


「あー、これはひどいね」

「ひどいひどい。普通、ものの数秒の内に死ぬような毒だ」

「生きてるのが奇跡」


 腰をかがめたり、立ち上がったりを繰り返しながら、三人の魔女はアンの様子をあらゆる角度から観察している。


「アンちゃんは治りますか?」

「分からないねー。とりあえず市販の解毒薬をぶっかけて時間を稼ぐ」


 言った傍から、青髪と黄髪がローブの内側から出した小瓶のふたを開け、中身を全部、アンちゃんへぶちまけている。


 赤髪の魔女は、注射器を取り出すと、アンの腕から血を採取した。


「特性の解毒薬を作ってあげるね。できるまで数時間かかるんだけどね、それまでに死んだら死ぬね。まあ、安静にさせておいて」


 クリムは村の人にも手伝ってもらって、アンを一番近くの宿屋へと運び入れた。

 一階が酒場になっている宿屋で、クリムたちは二階の一室をあてがわれた。


 看護師や医者も来てくれたが、やはり、何もしてやれることはないと言う。医学で治せるのは、魔法が関係ないことだけで、少しでも魔法や魔力が関わってくると、それを治すのは魔女の領域となる。今回の毒も、蛇の毒などではなく、魔王ブルチズの魔力が濃縮された毒であるため、医学では太刀打ちできないのだ。


 クリムはアンの額に冷えたおしぼりを当てた。おしぼりが体温でぬるくなると、氷水につけて、また額に当てた。何度もそうしている内に夜が来た。


 三日月がとがりだしたころ、魔女の三姉妹が来訪した。


「はい。できたよ」


 小瓶には、月光を溶かしたように滑らかに輝く液体が入っている。


「効果抜群だと思うね。それで治らないなら諦めて。あ、これは差し入れ。じゃあね」


 焼き菓子店を営んでいる三人は、かご一杯のクッキーも置いていってくれた。

 クリムはアンの口を開いて、魔女の薬を流し込んだ。

 あとは待つだけだ。

 クリムは一睡もせずに、アンの手を握り、ときおり名前を呼びながら、夜が明けるのを待った。


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