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超絶やさしい魔王とクズの極み勇者  作者: 仙葉康大
第二章 戦争と人間
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魔法飛行場

 王都から北部百村連合までの交通手段は主に三つ。馬車か(ほうき)かドラゴン便である。


 目的地までドラゴンに運んでもらうドラゴン便は値段がかわいくない。箒と馬車なら箒の方が速い。ということで、クリムとアンは箒で行くことにした。


 王都の飛行場へ行く前に、二人はお菓子通りに寄り、ナコからもらったお小遣いで、お菓子をしこたま購入した。ショートケーキ、マドレーヌ、フィナンシェ、チョコレートクッキー、もちろんシオの店のシュークリームも。


「気をつけてなあ」


 旅立ちにそんな言葉をかけてくれたシオに、クリムは手を大きく振って「行ってきます」と言った。アンは「日帰りなのにおおげさよ」と返した。


 魔法飛行場は、王都の東区にあった。


 飛行場前の広場には、お土産屋さんが露店を出しており、王都の名物である馬の形のチョコレートを売っている。


 そこを素通りして、アンとクリムはレンガ造りの建物に入った。飛行チケット売り場に並ぼうとしたら、首の後ろを引っ張られた。


「まず箒」

「ねえ、アンちゃん、首がしまって苦しい」

「だってあなた、見当はずれな方へ行くんだもの」

「今度から手を引っ張ってくれないかな?」

「覚えてたらね」


 二人は、箒をレンタルしているお店に行って、お金を出し合い、二人乗りの箒をレンタルした。


「クリム、あなた、所持金はあとどのぐらい?」

「手持ちは残り二千リンプしかない」

「私は十七万リンプよ。もし何かで足りなくなったら言いなさい。利子一日につき九十パーセントで貸してあげるわ」

「アンちゃん、お金にがめついね」

「だってお金は大事よ。お金さえあれば、なんでも手に入るもの」

「そうは思えないけど」

「そうなのよ」


 王都を旅立つ前から口論したくなかったので、クリムは黙る。

 飛行券を買って、クリムは所持金を残り千五百リンプに減らした。

 券を見ると、入場時間が書いてあった。あと一時間もある。


 二人は、待合ロビーのシートに座った。もちろん、隣に座るなんてことはない。二人の間の座席には、お菓子通りで買い込んだお菓子の山が築かれた。


 アンがチョコレートの銀紙を破いて食べだした。

 クリムも板チョコの銀紙を破く。ピンク色のチョコが現れた。一口食べる。イチゴ味だ。

 アンが目を見開く。


「イチゴ味なんてあったの?」

「あ、うん、あったみたい」


 アンが舌打ちしたから、クリムは板チョコをひとかけら割ってわたした。


「食べて」


 アンは新種の魔獣を見るような目で、ピンクのチョコを見つめている。


「い、いいわ」

「食べなよ。食べたいんでしょ」

「要らないわ」


 そう言いながらも、アンの手はいちごチョコを口へ運んでいた。


「こ、これは、しょうがないのよ」


 食べる間際にそんな言い訳をして、アンはピンクのチョコをかみ砕いた。

 うなだれて、アンは、菓子袋を漁りながら、クリムに何が欲しいか訊いてきた。

 クリムは勾玉の形をしたアメをもらった。


「あ、これ、おいしいね」

「私が選んお菓子だもの、当然よ」

「アンちゃん、私のお菓子でほしいのあったら、取っていいからね」

「ほどこしは受けないわ」


 そんなことを言いながらも、アンは欲しいお菓子があると、すぐちらちらと視線を送り出すので、クリムは察して、アンが欲しいと目で訴えかけてくるお菓子はあげることにした。というか、食べている内に、どっちが買ったお菓子かなんてどうでもよくなっていた。


 アンはお菓子が大好きで、クリムはお菓子がそれなりに好きだった。

 時が来た。


 鉄製の四角いゲートを抜けて、飛行場へ出ると、平坦な大地が広がっていた。雑草はきれいに刈り取られ、滑走路が縦横無尽に伸びている。いま、ドラゴンが翼をはためかし、爆風とともに飛び立った。そのでかくて真っ黒な竜の影の中でクリムは、呆然と口を開けていた。


「こっちよ」


 また首の後ろをつかまれるかと思ったが、アンはクリムの手を握り、引っ張っていった。


「ありがとう」

「何が?」

「手」

「別に」


 箒が発信するエリアに来た二人は、箒にまたがり、離陸体制を整えた。


「クリム、あなた、飛行魔法は?」

「使えない」

「その年齢で? 珍しいわね」

「ごめん」

「しょうがないわね。まあ、私の飛行魔法はパワフルだから、二人浮かすぐらいなんでもないんだけどっと」


 アンの魔力が箒に伝わり始める。


「フライ」


 呪文を詠唱した瞬間、箒は空へと舞い上がった。クリムは振り落とされないようアンに抱き着いた。


「行くわよ。途中、落ちても拾ってあげないんだから」

「安全運転で行ってね」

「無理」


 箒は爆速で空を爆走した。アンの飛行魔法は荒っぽく、まっすぐに飛ばず、変な角度に進んでは止まり、また急発進するという危険運転の見本のような飛行だった。


「アンちゃん」

「運転中、話しかけないで」

「気持ち悪い」

「え?」

「酔ったみたい」

「もしかして吐く?」


 もう吐いていた。


「わっ、汚らしい。私の服につけないでよ」


 クリムはゲロの落下地点に人がいないことを祈った。


「吐ききった?」

「分からない。まだ吐けるかも。ゆっくり行って」

「そんな微細な魔力コントロール私にできるわけないでしょ」


 アンはその甚大(じんだい)な魔力を自分でも制御できていないのだった。


「吐きたくなったら背中を叩きなさい。停まってあげるから」


 バニラ村に着くまでに、クリムは三回吐いた。


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