依頼掲示板
「ついてきなさい」
依頼掲示板の前へ案内してもらう。
「依頼を見る前に、最初に一番大事なことを教えておいてあげる。ナコには逆らないこと」
「アンちゃんもさっきナコさんの言うことは聞いてたよね。どうして?」
「この王都で一番怖いのはナコさんだから。絶対怒らせちゃダメ。そのことは、王都中の誰もが知ってるわ。王族でさえ、ナコさんの怒りを買うような真似は避けてるぐらいよ。あと、アンちゃんって呼ぶのやめて」
クリムとしては、同年代だし、呼び捨てもなんなのでちゃん付けにしたのが、気に入らなかった様子だ。
「じゃあなんて呼べば?」
「勇者様って呼びなさい」
隣で依頼掲示板を見ていた男性冒険者が吹き出した。
「アンのことを勇者様って呼ぶ奴なんて、このギルドには誰もいないじゃないか。アンちゃんって呼べばいいさ」
「いいの?」
「よくないっ」
アンが男性冒険者を殴ろうとしたそのとき。
「なあに? 何かもめてるの?」
受け付けの方からナコの声がした。アンが舌打ちする。ナコの目が届くギルド内では、アンもおとなしくするしかない。
「結局、なんて呼べばいい?」
「好きに呼びなさい」
「じゃあアンちゃんで」
それから、掲示板に貼ってある依頼書にざっと目を通した。
「犬の散歩からモンスターの討伐までいろいろなのがあるんだね」
「何かやりたいのとかあった?」
「私、この依頼にしようかな」
クリムが指さした依頼書を見てアンは首を横に振った。
「やめておきなさい。この依頼、報酬がたったの八千リンプじゃない。だいたい、庭に生えた『食人雑草』の除去なんて泥臭くてやってられやしないわ」
「じゃあこれとか?」
呪いの人形千体の処分。
「やめてよ。呪われたらどうするの」
アンは意外にもホラーが苦手だった。
「これにしなさいよ。報酬一千万リンプよ」
それはいま掲示板に貼られているもののなかで、一番高額な報酬だった。
毒の雲の除去。
依頼主は、北部百村連合の村長たちだ。
なんでも超巨大な雲が村々に毒を降らせているそうで、困り果てた村長たちは、王都の空軍に雲の除去を頼んだが、その空軍がいまだに成果をあげれていないらしい。
「でも、私にできるかな。私、飛行魔法なんて使えないし」
「また殴り飛ばしてあげるわよ」
「まさか私を殴りたいからこの依頼に?」
「それもあるけど、やっぱり一千万は魅力的だわ。二人で山分けしても五百万だもの。よし。決定。行くわよ」
「嘘。待って。他にもいい依頼あるはず」
「ないわよ、そんなの」
依頼書をもぎ取ったアンは、悪魔のような笑みを浮かべた。
目指すは、毒の雨降る北部百村連合である。




