紅い花
しきりに雨が降り注ぐ中、傘もささずに都会の喧騒を全身で浴びながら歩いていた。汗臭いサラリーマン達がそそくさと居酒屋になだれていく。丈の短いスカートを穿いた今風の女子高生達がこの街の騒がしさをより一層いやましている。すれ違いざま、酷く冷たい身体に痛い程の視線を感じる。信号が変わったのもお構い無しに呆然と立ち尽くしていると1人の髪の長い女性が話しかけてきた。
「人生には花が必要です。私は昨日白い花を買いました。一昨日は黄色い花を、その前の日には黒い花を。それらは今でも私のベランダを華やかにしてくれています。」
透き通るような白い肌に健康的な顔立ち、黒光る美しい髪に一瞬で心を奪われた。
「今日は何色の花を買うかまだ決めてないの。一緒に買いに行きましょう?」
迷いなく彼女を刺殺した。騒がしい都会がさらに騒がしくなっていくのが手に取るようにわかる。僕はまだ暖かい彼女の唇にそっと口付けを交わし、静かにその場を後にした。
気がつくと雨はやんでいた。