第七種接近遭遇その2
帝都ベルリン、旧首相官邸の執務室。
アーデルハイト・ヴェッセル首相は新しいコーヒーに手を伸ばした時その報告を聞いた。
「南米海軍が全滅?キリスト教原理主義者共が?全滅?」
結果を聞いて落胆するより驚愕の表情を隠さないヴェッセル首相。
正直ココまであの新人類の科学が我々を凌駕するとは思わなかった。
「はい、そうです、無慈悲な結果です、さすが男達、我々を蹂躙するのに容赦ありません。」
結果の報告書を渡され、読み進み肩を落す首相。
「慈悲の心は無いのか…。」
寛容が文明の証明である我が思考に全く折り合わない…。
一報的な虐殺だ…。
「12万人の将兵は全てサメのエサです。米帝共は大騒ぎでしょう。いや、トミーは大喜びでしょうな。」
眩暈を覚えながら…辛うじて返答をする。
「いや…。まて、ソコまでヤツらは楽観主義者で無い…。この技術は本物なのか?」
「我々が売ってやった戦闘機は全て男達の対空誘導弾で無力化されました。アーリア人でも劣等民族でも関係ない様子です。」
無慈悲な兵器なのだ…。
「神の兵士なのか…。」
「いえ…只の技術力の格差だと思います。使われた兵器のレポートは此方に。」
機密文書の封印がある封筒を手荒に開ける。
彼女が背を向ける前に読み始め思わず叫ぶ。
「ロケット滑空魚雷だと…。しかも我々のフリッツXを超えている…。」
諦めて話を聞く秘書官。
「ええ、最低でも射程200キロ以上で駆逐艦が一撃で大破したそうなので、225Kg爆弾程度の威力が考えられます。」
内容は知っている様子だ。
「どうやって誘導しているのだ…。」
「さあ…。全くわかりません。科学者達は幾つか方法を思い付いています。実現するには…。」
言葉を選んで話を続ける秘書官。
「彼らは我々より遥かに進んでいる。それだけだと思います。」
「どれ程だ?70年前だと聞いたぞ?」
「科学者達は少なくとも50年は先だと…。」
「まさか…。」
ソレこそ勝ちようが無い…。
何故、神はそんな男達をこの地上に降ろしたのか…。
「情報収集艦の探査では敵の使用するレーダー波は多種多様で通常の索敵レーダーや射撃レーダーを含む物です、未知の波も有ったそうです。」
「なんだそりゃ?奴等は電波好きなのか?たしか、海軍の電波収集では小さな漁船にまでレーダーと無線器を搭載していたと言うぞ。」
「現在、月面反射で収集した電波を解析中です。報告書では確かに雑多な電波を使用しています。変調方式さえも不明な未知の通信技術です。恐らく多重無線で…。かなり高サイクルのマイクロ波と思われています。電波の種類と質が多すぎて殆どわかりません。」
「あいつ等隠す気が無いのか?」
「さあ…。報告では”無線電話が普及していて殆どの者が持っていた”と有りますので。混線しないようにすると成ると可也の電波帯を使っているのだと思います。」
「空軍の士官が新しい名古屋で中古を購入した物の分解、解析した結果はコチラです。」
分厚い紙の束が出てくる。
表紙は”日本国携帯無線電話端末解析書”だ。
一枚捲って目次を見て、最終章の総括まで紙を進ませる。
「未知の導電樹脂と発光体…。白色発光半導体、焼成コンデンサーと集合記憶装置…。小形GHz帯無線ユニット!!クソッ!追いつくのに100年掛る。」
将に未来の技術だ…。科学者達の疑問の念さが文字に現れている…。
「まあ、科学者の見積は…。50年と言うのは軽く見積もっての話でしょうね、工業製品の劣等民族は大はしゃぎです。話では可也の物資を男達に貢いでいるそうです。代わりに工作機械や農機を受け取ってます。」
「50年先の農機か…。想像もつかんな。」
トラクターが勝手に走って歌い出しても驚かないだろう。(そういう農機は既に有ります。)
「それで…ヤツ等。その…」
途端に言葉を詰まらせる処女。
「なんだ?」
「させ子の劣等民族新聞記者の話では…。その…。」
「ああ、淫乱小熊の情報か?」
何時の時代にでも、何処にでも居る普通の売国新聞記者だ。
いや、新聞記者と言う存在自体が金で何でも囀る存在だ。
嘗て、独逸の新聞記者も英国の金で皇帝陛下を愚弄した前科がある。
その為、情報局は各国の新聞記者を金や男で手懐けている。
「あの男達は…。すでに遺伝子の秘密を解き明かしていると言っています。」
遺伝子の存在は予測されている。
無論、神に逆らう研究なので軍部の一部の者しか知らない。
但し、イエローの女共はまるで新型家電製品のカタログの様に煽っている。
その為、欧州の研究者には研究環境が最悪だ。
あいつ等は、無神論者なので仕方がない。
だが、禁忌に対するハードルが低すぎる。
時々、我々を脅迫する様な結果を出す。
「なに!?どう言う事だ?」
「実験室内で人間の身体の細胞から卵子と、精子の合成に成功しているそうです。」
衝撃的な情報だ…。
「クソッ!もう既に戦う理由が無いでは無いか!!何故もっと早く!」
思わず怒りを覚えて手に持った書類を机に叩きつける。
「彼等は弁えているのでそれ以上の神秘に手を出していないそうです!!」
秘書官の悲鳴に何とか心を落ち着かせる…。
深呼吸の後に…。
「ソレは良かった、法皇が許さないだろう。」
恐ろしい話だ…。
「しんじられん…。出来るはずがない…。」
呟くが何故か心の何処かが信じている。
未だ心臓が速い。
女同士で子供が作れると証明できてしまう…。
ミュンヘン大学生理学研究所では精子の合成は不可能だと結論を出している。
コレは秘密実験で機密情報だが皆が知っている。
意図的にリークした結果だ…。
「…。」
無言が執務室を支配する。
呼吸が整い冷静になる…。
「…。その技術は手に入らないのか?」
「無理ですね。大日本帝國の連中は遺伝子操作技術を独占する心算です。」
そうだろう、女同士で子供ができるなんて悪夢だ…。
悪魔の子供達なら何も感じないだろう。
「何処まで調べられるか…。いや。何処まであの嫉妬深い女達が譲るかだな…。」
「させ子の話では北海道島を売る計画だそうです。大日本帝國から切り放して自治領化して日本国から独身の男の入植者を受け入れるそうです。」
「正気か?あいつ等、身体だけでは無く国土まで売る気なのか!?」
アホなのか?男の為に国土を売る気なのだ。
「はい、ソレを目当てに憲法を変更して国まで売る心算です。男と結婚させて…。作戦名は”明るい家族計画”だそうです。」
「くそっ、工業製品共め…。やはり民族として、人の自覚が無いのか!」
イライラする!!
あの女達は自分の産んだ子供を抱く為だけに国土を売る心算だ。
「彼女たちは…。ただ家族を取り戻したいだけだと思います。」
身体処か魂までもだ!!
「家族!?家族か!そりゃおめでたい…。」
今更誰が望むのだ!
小さな家でも旦那と息子と娘が三人だ…。
狭い庭に休日に旦那が犬小屋を作ってを子犬を飼うのだ…。
週末には家族で公園で遊んで芝生でビールを呑んで、夜には愛を確かめ合うのだ…。
「クソ!クソ!!クソ!!!」
「首相…。」
「奴等に…。工業製品共に愛なぞ理解出来るはずがないのだ…。神を信じない様な心の無いロボット共に…。」
奴等は愛を捨てた者にしか手に入れられない黄金を手にする心算だ…。
世界を手に入れる黄金を、神に逆らう事に何も躊躇しない連中だ。
独逸第二帝国は、この時に黄禍論の怨嗟に囚われた。
彼女達は劣等人種を根絶すべきアーリア人種の敵と認識した。




