第六種接近遭遇そのB面-2
一瞬の出来事だった。
目の前で空母二隻が炎に包まれる。
飛び出す途中のパンケーキが海面に落下した。
第二波の出撃最中で有ったために多くのF5U達は飛行甲板上で発動機の試運転中で有った。
「なんてこったい空母が…。」
続いて甲板上で爆発が広がる。
「何が起きたの?」
訪ねるが誰も答えることが出来ない。
何が起こったのか解らないのだ。
呆然と炎に焼かれるF5Uを眺める。
音はしない…。
いや、雷鳴の様に後から来た。
『敵襲!!敵襲!!』
ブザー音と共に乗っている船が進路を変えた。
何時もの潜水艦除けの運動ではない。
駆逐艦と巡洋艦が前に出た。
周りの船が舵を切り始める…。
船団、全てのフネだ。
先頭の駆逐艦から何かが飛散して炎に包まれる
続く後ろの駆逐艦も…。
空に幾筋の黒い煙が立ち上り始める。
何かが命中している…。
「滑空魚雷だ!」
一瞬だけ見えた炎の矢が艦隊旗艦の巡洋艦に吸い込まれた。
上部船体がはじけて、炎が…。
いや、燃える炎の速度ではない…。
ガスが噴き出している様に見える…。
水しぶきと薄い雲が球状に広がり…。
その後に爆音と長く響くカン高い音。
「ばかな、音速超えだと…。」
呆然と艦隊旗艦を眺める軍曹。
旗艦に新たな何かが突き刺さってゆく。
「軍曹殿、アレを。」
右舷最北の商船に何かが起きる。
続いて船体から赤黒いキノコ状の雲が青い空を染め始めた…。
「アレは…。弾薬運搬船が…。」
みるみる育つ雲…。見上げる程に成っている。
何かが船体から飛び散って海面を叩いている…。
「クソっ、宇宙人め!!」
誰かが悪態をつく…。
燃える空母が傾斜して、甲板から人やパンケーキが飛び落ちて行く。
向かうボート。
「おい、海軍の連中、全滅しちまったぞ?」
敵の攻撃は瞬く間に終了して、戦闘艦の殆どが火災に包まれ、幾筋もの煙が海原に登っている。
一瞬で戦闘が終わってしまった。
我々の船は投げ出された戦友を拾っている。
「いや、そりゃないだろ?」
我々の船団は最後尾に近い。
後ろに居るのはタンカーと弾薬船だけだ。
「戦艦が救援に向かっているさ。」
沈む夕日に。
黒い染みが幾つも見えた。
対空見張りが声を冗談の様な三角睡を持って叫ぶ。
「空襲!空襲!!」
何かが近づいて来る。
「もうすぐ夜だぞ!!」
「クソっ!なんでこんな時に。」
皆、救助でクタクタだ。
未だ海面に居る戦友は多い。
総員最上甲板のブザーが鳴る。
上空を敵の誘導機が通り過ぎた。
「ミートボールだ!工業製品共だ。」
「宇宙人じゃないぞ!!」
「くそ!あいつ等本気で宇宙人とフ〇ックしてやがんのか!」
前方を走る船の艦首甲板から機関銃の火線伸びる。
迫る敵機に対して射撃だ。
曳光弾の火線の方向から低空で迫っている。
何かが落ちて海面を跳ね、水飛沫が迫る。
悠々と敵機が上空を飛び去ると…。
遅れて味方の船体艦首に炎が上がる。
全て見えた。
「トス・ボンビングだ!」
叫ぶが別の兵が叫んで空を指さしている。
「直上!!敵機!!」
「回避!回避!!」
もう昼間と夜の間の空に三機の点から何かが落ちてくる。
艦首がゆっくりと飛沫を挙げ、煙突から黒い煙が上がる。
船体が揺れるが皆、大きく成っていく丸い物体から目が離せない。
「大丈夫だ、水平爆撃は当たらないさ。」
声が震える。
マヌケな落下音に皆恐怖を感じている。
船体左右の海に水柱が上がる…。
凄く近い。
「外れた…。」「「「yhaaaaaa!!」」」
「右舷、2時方向!水平線に敵機5!」
誰かが叫ぶ。
「雷撃機だ!」
見張り台から、鐘を鳴らす船員。
船体から火線が伸びるが弱々しい。
敵機がどんどん大きくなる…。
海面を縫って飛ぶ敵機から何かが落ちる…。
味方の火線は敵機の速度に追い付けない。
波で此方の曳光弾がマヌケな方向に跳弾しているのが解る。
敵のパイロットの顔が見えた。
「伏せろ!!」
機首と翼の前が光った!
缶を叩くような音とマヌケな笛の音、船体で飛び跳ねる曳光弾に弾ける音と血しぶき。
轟音と共に直上を敵雷撃機が飛び去る。
「衛生兵!!」「衛生兵!!」「くそ!やられた!」
一瞬で甲板上は血の海に成った。
震えながら自分の身体を確かめ…。
大丈夫、未だ穴が開いてない
神に感謝するが叫び声で中断する。
「雷軌!!二時方向!」
衛生兵が負傷者に掛かるが…。
新たな死神が…。
徐々に二時から一時…。
「雷軌左右!!」
我らが船長が魚雷の回避に成功した様子だ。
完全に魚雷に向かって走っている。
海中の死神が右舷のすぐ横を一瞬で通り過ぎるのを見た…。
「「yaaaaaaa!!」」
喜び合い。肩を叩く。
「弾持ってこい!!」
「おう!」
機関銃座のヘルメットが叫ぶので答える。
木箱のロープで持つと…。
誰かが叫び指をさす。
後方の商船三隻に水柱が上がっている…。
さっき避けた死神だ。
「なんてこったい。」
一隻は同じバラ積船だ、水柱が収まると炎と共に急速に前が沈み始めた。
全速力を出してたはずだ…。
遠くだが人が炎に焼かれ船から飛び込むのが見える…。
「くそっ!」
「前方!10時方向!」
誰かが叫ぶと水柱が収まった戦車運搬船が二つに割れて夫々沈み始める…。
呆然と眺めるしかない…。
「轟沈だ…。」
船団に群がる敵機は一瞬にして去った。
炎と煙を上げる商船の帯が夕日を染める。
「これから、救助に向かう。ボートを下ろす。仲間を助けろ!」
士官が叫ぶ。
船首は千切れ、沈んでしまったが艦尾が残っている商船にゆっくり向かっている。
皆、海面は暗くなり始めた甲板上から見張る。
漂流物を探すのだ…。
照明灯を操作して光を当てる。
木箱に捕まり手を振っている戦友を見つけた。
「おーい!大丈夫か!!」
「居たぞ!」「ボート下ろせ!!」
光を見て泳ぎ集まってくる。
救助が終わると。
服を脱がせて毛布に包む。
熱い脱脂粉乳に砂糖をたっぷり。
怪我の手当や。
脂を呑んだ者の対処を行う。
甲板上は兵で一杯だ。
無傷で済んだ船の多くは深夜まで戦場に成った。
ひと段落付いて、遅い夕飯の缶詰を開けた所で、新たな命令を聞いた。
「これより撤退する。」
士官の声に皆が
言葉に成らない溜息を付く。
疲れて文句を言う元気も無い。
遠くで雷鳴が鳴っている…。
水平線の向こうに空が明るい場所が有る。
「こりゃ砲撃だ。」
誰かが呟く。
発光信号が暗い海面に無数に見える。
途端に船足が速くなる…。
「明日の朝(撤退)じゃないのか?」
誰かがぼやくが全ての船は東に進路を向けた。
西の水平線の暗闇の中に島が見え始める…。
東に向かっているのに、西の諸島の影が徐々に大きくなってゆく…。
島から探照灯が照らされた。
「ありゃ…。」
「なんてこったい。」
島が噴火して此方の船体に穴が開いた。
衝撃で私は真っ暗な海の中に落ちた。
私を落したフネは海原を進み炎に包まれている。
周りを見渡すと、多くの炎に照らされた黒い海面には漂流物は多い。
私は近くの大きな木箱を選び泳いでしがみついた。
木箱は大きく浮かんでいて、ロープで梱包されているのが見えたからだ。
恐らく中身は軽い物だ。
箱の上に登りたかったが重心が悪いのか登る事が出来ない。
格闘したが諦め、海水に浸かったまま箱のロープにベルトを通す。
完了すると装備を確認する。
「ヘルメットを落してしまった…。」
海面に落ちた時に脱げてしまったのだろう。
張り付く髪を整える。
周囲を見渡すと…。
影がどんどん大きくなっていく。
砲撃の炎で動く島影は全容を表す。
「戦艦だ!」
クッソ!大日本帝国海軍のナニワ級だ!
足が速いのが自慢の巡洋戦艦だ。
最低でも二隻は居る、他は重巡洋艦と駆逐艦だ。
船団は逃げ切る事が出来ない。
高速で通り過ぎる巨艦達、引き波を被り、木箱はひっくり返り海水を飲んで、おぼれそうになる。
通り過ぎた敵戦艦群は船団を追いかけ、漂流する我々を残して過ぎ去って行った。
一晩中砲火は鳴りやまなかった。
真っ暗闇の海原の中、燃えて沈みつつ有る幾つかの商船を眺め。
そのまま気を失ってしまった。
(´・ω・`)海に落ちたパンケーキ…。




