第六種接近遭遇その2
(´・ω・`)しんどい…。(数字は全て想像で書いているので本気にしないでください。)未来兵器と現行兵器の不明数字の空白を埋めるがしんどい。
天気晴朗なれど波穏やか。
太平洋の海原をこんごう、きりしまが護衛艦群を離れ先行する。
もう既に、敵の先鋒は電子の目と衛星軌道から捕らえている。
相手の通信傍受の内容からは未だ我々は発見されていない。
「目標α進路そのまま」
観測員の声がCICに響く、艦長がマイクに囁く。
「距離120Kmにて警告を行う。」
「了解!あと28分後。」
返答に皆が夫々の時計を見る。
波を切る艦首。
前方、敵は水平線の彼方だ。
無論、無線封鎖中の我々に見える物は少ない。
衛星から齎されるJ-WACS501と各潜水艦群の情報が視界を広くしている。
永遠に思える時間が過ぎる。
「時間です。目標変わらず。」
「送信開始。合戦用意!!」
『了解!合戦用意!!』
『合戦準備よーし!』
艦橋からの通信が入る。
皆、日本を出た時から防護帽と救命胴衣を率先して身に付けている。
コレは戦争なのだ。
通信担当がマイクに叫ぶ声が無言のCICに響く。
「”我、日本海軍、貴官らの目的を告げよ。”」×2
英語と日本語で送信する。
緊張の無音がスピーカを支配する。
返答はない。
「チャンネルは良いのか?」
尋ねると答える副長。
「相手の艦隊電話の周波数と変調です。」
再度マイクを握る通信担当。
「”これ以上の接近は許可しない、進路を変更するか。停戦して臨検を受けよ”」×2
可笑しな警告だが仕方が無い。
相手は戦闘旗を上げている。
演習旗の無い場合は相手に交戦の意図がある。と言うこの世界の習慣国際法だ。
困った事に、ソレに従うとかなり荒っぽい海の法になる。
平時でも海賊船は撃沈可能なのだ。
我々は国際的に認められて無いため。
海賊として処分されてしまう。
「”これ以上の接近は攻撃の意図が有ると警告する。”」×2
一方通行の通信で時間が消費される。
「無駄ですよ艦長。もう既にお互いに宣戦布告した後です。位置を暴露するだけです。」
大日本帝国の大尉が忠告する。
「まあ、初めての事なので教本通りにやります。」
思わず苦笑する、昨今、護衛艦に女性隊員が勤務する事は増えたが。
若い女性の観戦武官と言うのは初めてだ。
「そうですか…。」
初めて薄暗いCICに入った時の彼女の顔は面白かった。
まるで初めてお化け屋敷に入る女学生の様な顔だった。
無論彼女には、CICか艦橋か?見学場所を尋ねた結果だ。
「目標、陣形を崩しました。戦艦2、巡洋艦2増速。駆逐艦4が前に出ます。α-2と認定。」
「敵艦船、盛んに通信を行っておりますが、当方に向けた物無し。」
「よし!目標が50Kmで再度警告だ。」
呆れた顔の第一種軍装の大尉。
コチラの対艦ミサイルの性能は正式には知られて居ない。
整備する一分隊の隊員に訪ねていた。
だが全員が、”良く飛ぶ。””凄く長い””良く当たる”等の返答ばかりで、イライラしていた。
その他、艦首甲板下の給弾庫室(立ち入り禁止)の前でうろうろしていたのを別の隊員が目撃している。
迷子に成ったと思い、声を掛けたがダッシュで逃げたとの報告だ。
「目標、α-2陣形を取りました。α-1何かを放出?低速、艦載機か?」
UP-1の映像がモニターに出る、コチラのレーダーは未だ発振していない。
哨戒任務中のUP-1からの望遠映像では大型艦から飛び立つ航空機のシルエットが解る。
単発単翼機でフロートが付いているのが辛うじて見える。
先行、並走する巡洋艦2隻の後に、単陣で並ぶ戦艦2隻と駆逐艦4隻だ。
100kmを切った。敵の砲撃は無い。
現在、お互い20ノットで向かい合っているので、あと一時間程で相手の射程に入る。
やはり艦載型対艦ミサイルは実用化していないのか…。
いや、我々をレーダーで補足出来ないのかもしれない。
そうなると敵観測機は我々にとって致命的だ。
敵艦影の映像にはそれらしきランチャーは無かった。
対艦ミサイルは、航空機投下型の方が先に実用化したハズだ。
つまり敵の主兵装は砲撃と魚雷だ、お互いに目視できる30kmを切らないと攻撃は無い。
「偵察ドローンを放出しろ。」
「了解、ドローン発射。」
艦載型の偵察ドローンはカタパルトから放出して長時間、低空で警戒する。
使い捨ての民生品だ。
但し、自衛隊時代からの風習で回収して使っている。
今回は回収できないだろう。
”実戦で使用した。”と書けるので、物品紛失書の文面を気にする必要はない。
暫くすると映像が増える。
先行する巡洋艦の向こうに黒い煙を吐く戦艦が見える。
艦首に並ぶ2基の砲塔、1基に4門…。コチラを指向するのは計8門だ。
「フロリダ級戦艦…。」
観戦武官が呟く。
「なんか…。ダンケルク級に似てますね。」
攻撃指揮官が答える。
彼の趣味は模型作りだ。
特に第二次世界大戦の軍艦が好きだそうだ。
「え?ああ、たしかフランスから購入した物だ。」
初めて自分が呟いたと気が付いた素振りの観戦武官。
「攻撃指揮官、この船の武装は覚えているか?」
「えー艦長、この世界だと変わっているかもしれませんが…。主砲52口径33cm砲四連装二基、後部に13cm四連装砲塔三基に同砲の連装砲が二基。」
「意外と重武装だな。」
「ですね、この世界ではパンチ力不足かもしれませんが。ジャブが速い、我々の相手としては強敵ですね。」
この世界に来たと知った時点で過去の色々な情報を調べた。
その為、過去の戦艦は殆ど網羅したDBは有る。
検索して手元のモニターに出す。
装甲配置図と砲等の諸元が出る。
最大射程29600ヤードだが、恐らくもう少し飛ぶはずだ。40kmを切ったら撃って来るだろう。
最大装甲330mmか…。一応、SSMで抜けるか不安な所だ。
戦艦に対する砲塔への攻撃は無意味だ。
気が付くと観戦武官の首が伸びてコチラのモニターを見ている。
目が会うと微笑み、視線を反らす観戦武官。
「目標α-2距離50kmに接近。警告開始します。」
時間になり、通信担当から同じ文言が発振される。
「警告完了、我に返答なし。」
「水上、射撃、共にレーダー発振の変化ありません。聞こえているのでしょうか?」
緊張した通信担当に攻撃指揮官は随分とリラックスした声で答える。
「始めの警告で聞こえて居るハズだ。太平洋戦争の頃の米軍の艦隊決戦思想は中近距離での戦闘が中心だ。この世界でも同じなのだろう。」
流石、オタク、意味は解らないがとにかく凄い自信だ。
「目標、α-2増速。」
「目標艦の煙を確認。IRモードで小型艦も捕捉。」
「そら来た、通信担当、攻撃予告を送信せよ。対艦対空戦闘用意!」
「了解!」
「了解。対艦対空戦闘よーい!」
握るマイクに攻撃予告を送信する。
戦闘指揮官が薄暗いCICの赤く光るボタンを押す。
艦内に戦闘開始ブザーが鳴り響いているハズだ。
『こちら艦橋、戦闘準備完了』
船体の表示も全て戦闘準備に変化した。
モニターを睨む、互い速度が出ているので距離が詰まるのも早い。
「α-2返答なし」
メインマストカメラの望遠ズームで戦艦のマストが見える状態の距離だ。
「水平線の向こうだが赤外線発生対策はされていないか…。」
「ボイラー艦ですからね。戦艦ならそろそろ目視されるのでは?」
長い歴史の中で海戦は地球の曲面と戦ってきた。
古来から、敵を先に見つければ勝機が訪れる。
だが水平線に阻まれ敵を発見することは出来ない。
その為、軍船は視点の高さを競い、沈まない為の容積を競い、船体に穴を開けるための武器と弾き返す為の装甲を競ってきた。
それ以外の方法では、触角戦と移乗攻撃位しか方法が無かった。
戦艦は敵の装甲を貫く大きな大砲と、それに耐えうる容積と装甲、そして艦橋の高さを備えた人類最高の兵器なのだ。
「だな、SSM発射準備。水上戦闘用意。」
「敵主砲の最大射程距離入ります。」
最大望遠で水平線の上に戦艦の艦橋が見え始めた。
浪飛沫と変温層の為に陽炎に揺れている。
「SSM発射準備完了。」
直ぐに答える戦闘指揮官。
「そのまま…。敵艦発砲と共に戦闘開始。レーダー機動せよ。」
「了解。」
CICに無言の時間。
モニター上の数字だけがカウントを下げている。
変化を感知すると直ぐに反応した。
データが流れる。
「α-2、BB-1。発砲を確認!距離25Km敵戦艦主砲発砲!!」
「戦闘開始『艦橋より敵発砲を確認!』機関一杯!おもーかじ!!30度!」
思わず叫ぶ戦闘指揮官。
『『了解!戦闘開始』機関一杯!おーもーかじ!!30度ヨーソロ』
モニター上の駆逐艦、巡洋艦増速している。
コチラのレーダーに飛んでくる主砲の弾が表示されている。
大丈夫だ、反れている。
戦闘指揮官の指示に操舵手が反応して回避している。
我が艦から離れてゆくのだ。
きりしまも回避に対応している。
一時的に双方並行の梯形陣になっている。
敵は陣形が崩れたので新たな敵番号が振られる。
α-2に戦艦はBB-1、-2。巡洋艦はCA-1、-2。
駆逐艦はD1、2、3、4、それぞれ、我が艦隊を包囲する形だ。
こちらは最大戦速、機関一杯。数秒で33ノット。
ガスタービンが唸りを挙げるのが船底より伝わってくる。
波飛沫を切る艦首。
甲板に潮が乗る。
「最大戦速に到達。」
「艦橋!機関そのまま、舵もどーせー。」
現在、33ノット以上だが言わない。
『了解!機関そのまま、舵もーどーせー、ヨーソロ』
進路が戻る。
浪を切る艦首の飛沫が激しい。
きりしまも続き、単陣に戻ろうとしている。
「くっ、凄い。速い。」
船乗り観戦武官は一応どれ程の速度を出しているかわかる様子だ。
「平文発信。”我、DDG-173こんごう、警告後不明艦より発砲を確認。これより自衛戦闘に移る。”繰り返せ!」
「了解!」
騒がしいCICの中で命令が通る。
うん、訓練通りだ。
『艦尾、左弦、後方に着水確認!当艦隊に被害なし…、きりしま異常なし。』
モニターには関係ない所に水柱が数本立っている。
やはり大砲は当たらないのだ。
「目標敵戦艦を攻撃せよ。うちーかた始め。」
「了解!SSMうちーかたはじめ!全弾投射!目標αー2。BB-1、-2。」
答える戦闘指揮官。
「目標選定確認、きりしまとのデータリンク完了!発射準備完了。」
全て事前の打ち合わせ通りで入力済みだ。
背負い式の対艦ミサイルを何時も抱いているのは危険だ。
このフネは製造は古いが改修を受けているので、最新のSSMを発射できる。
しかし、古い製品から使うと言う在庫管理の問題でハープーンを搭載している。
続く二番艦も同じだ。
そういえば完全搭載(8発)も初めてだな。
元々このこんごう型護衛艦は防空型だ。
空母が居るので航空戦になると見越しての前進配置だったが。
完全に裏目に出ている。
FCSが自動で脅威度を選択してターゲットを決めた。
きりしまのSSMは巡洋艦にも目標が振り分けられている。
しかもお互い邪魔しない迂回経路だ。
「SSM攻撃始め!」
「了解、発射用意!…。てー。発射」
ミサイル担当の米倉が答える。
『SSM一号二号三号…八号まで発射終了。飛翔モード正常。』
カメラで正常に発射された事を確認する。
遺されたのは空のランチャー。
水上戦闘で対艦ミサイルは真っ先に無くなるハズなので、戦艦群に売り切る。
元々は目に見える目標に発射する兵器ではない。
海面に残される煙の塊。
艦尾から離れてゆく。
別モニターで空に低く伸びる発射炎を眺める。
全ての方向に広がっているように見える。
現代の戦闘で数十Km~20Kmと言うのは接近戦でも中距離でもない。
その為、我々にとって都合の良い突入方向が選択できる。
「敵、目標艦、着弾まであと12秒。」
お互いの最大速度で随分と距離を詰めた。
敵の主力戦艦。
発射の終わった主砲は装填に時間が掛かる。
双方、一秒でも命取りだ。
「先行している駆逐艦と巡洋艦の射程に入る、始まるぞ。」
海面を進む白い矢が戦艦の前で飛び上がり突き刺さる。
モニター上の広がった印、SSMが目標に向かっていく。
「SSM着弾!!」
最初の着弾がBB-1に発生する。
船体を挟み左右船舷への着弾だ。
続いて熱源の大きな煙突にポップアップして着弾している。
二隻目の戦艦にも全ての白煙の先が突き刺さる。
外部映像では敵戦艦の艦橋、後に閃光と煙、損害は不明だ。
モニターにはBB-1に8発、BB-2に6発。
今、CA-2に2発着弾。
全弾命中した。
「やったか!」
CIC内で米倉が良く通る声で呟く。
無論、自衛隊時代からオタクの多い隊員の全ての非難の視線が集まる。
「米倉!アホな事話すな!!」
誰かの叱咤が飛ぶ。
「は、はい!」
「米倉!CICから叩き出すぞ!」
「申し訳ありません!!」
皆、口元に笑いが現れるが手を止めない。
「?」
何故、笑っているのか解らないので首を傾げる観戦武官。
俺も笑いたいが堪える、仕事中だ。
外部映像では戦艦が全容を表し始める。
未だお互い正面向き合った状態なので戦艦は正面に見える。
艦上は盛大に火の海だ、だが装甲を打ち抜いた様には見えない。
やはり戦艦は沈まない。
ミサイルでは戦艦は沈まないのだ。
「目標α-2を殲滅せよ。」
「了解!VLA、水上アタックモード!発射。」
敵戦艦主砲距離内だがコチラの主砲は届かない微妙な距離だ。
その為、潜水艦用の兵器を水上攻撃に使う。
残念ながら、この防空巡洋艦に対地攻撃能力は無い。
2018年から当時の自衛隊も敵根拠地攻撃能力の保有を議論され。
装備を、LRASM-VSLか、改良型SM-6にするか…。
手っ取り早くタクティカルトマホークを搭載するかの議論に時間が掛かり。
結局、空対艦ミサイルのXASM-03改のVSL化計画が追いついてしまい。
結果、国産巡航ミサイルは配備が遅れている。
恐らくこんごうは装備する事無く退役するだろう。
皮肉にも防空護衛艦がアスロックで対艦戦闘だ。
「はい!VLA最大射程。発射用意!…。てー。発射」
米倉がVLAを操作するが、お約束を読めないヤツなので何もしない訓練通りの機敏な仕事だ。
皆の心のため息と舌打ちが聞こえる。
「…。なんで僕だけこんなに言われるんだろ…。」
無言のCICに米倉の独り言が良く聞こえる。
気持は解るがCICに米倉が居る時点で仕方が無い。
艦首の発射セルから6発のミサイルが飛び出し、高く上がった後に、白い雲を軌跡に残して低空を進んでいく。
雲の壁を追い抜くこんごう。
続く自ら吐き出した煙を引き裂く。きりしま。
この海域に敵味方の潜水艦は居ない。
既に、我が方の潜水艦群と戦闘潜水ドローンが捜索済みだ。
一番近い潜水艦は、この世界では誰にも潜れない500m以上の深さで我々の戦いを静観しているハヅだ。
発射された、VLAは07式垂直発射魚雷投射ロケットで弾頭部は12式短魚雷だ。
短魚雷の水上艦攻撃モードでも水深10m以上で爆発するので命中しても特に変化は見られない。
被害半径に船底が有れば、破口が出来て海水と燃焼ガスの暴力が船内に流れ込むだけだ。
元々、対潜水艦用だが水上艦でも船底下で爆発すれば2000屯までの艦艇は真っ二つの轟沈だ。
『こちら艦橋。敵、BB-2発射炎を見とむ、我が艦に影響なし!D3、4転進発砲、我が方に向けた物では無し。未来予想位置、我が方の進路を塞ぐ方向。』
敵は戦艦まで出してきたので、未だ勝つ気でいる。
我々を包囲する気なのだ。
幸い、BB-2の主砲弾は明後日の方向に飛んでいる。
恐らく、発射管制装置にダメージを与えた。
だがラッキーカードは長くは引けない。
コチラの白煙が攻撃兵器だと理解した様子だ。
回避を選択した。駆逐艦、同時に火線が白煙を追う。
「4時方向。前方右舷、距離110Km新たなる航空機群!増えています。」
起動した対空レーダーに新しい敵が写る。
遠い、別の艦隊だ。
「空母艦載機か。そっちは航空隊の仕事だな。」
「VLA01-06インターセプト、着水まで5、4、3、2、1。着水を確認!!異常なし!ホーミングモードに移行。」
流石、米倉良い仕事だ。
敵艦それぞれの進路予想位置に着水させた。
無言のCICでモニター上の目標に迫る、12式短魚雷の印を見守る。
「目標D1、こんごうVLA01着弾を確認!速度低下。続いて”きりしま”VLA着水を確認。」
アスロック米倉の声がCICに響く。
「後続が…。目標進路変更、追尾中。こんごうVLA02、03…06。目標に命中を確認。」
モニターには全弾命中だ。
BB-1、2に1発。CA-1に2発の着弾マーク。
「ナイスだ米倉!」
「「流石だなアスロック米倉!」」
「は、はいありがとうございます!」
艦橋内の緊張を齎す新たな電子音が響き、次の脅威が出現する。
「後方戦艦群より、航空機の発艦を確認、敵戦艦水上機の様子です。」
「CA-2、前に出ます。CA-1傾斜しています。D1からD4。速度低下。」
『きりしまVLA05、06命中を確認。』
『艦橋より、CA-2、中央部に命中を確認、急速に速度低下。』
少し遅れて”きりしま”のVLAが命中した様子だ。
二隻の戦艦の変化は無い、未だ速度を保ったまま船上の火災を起こし黒い炎を上げている。
モニターの情報では一部の短魚雷がBB-1、-2にも命中している。
コレで目標に全ての兵器が命中したコトに成る。
戦艦は速度も低下していない、未だ沈んだ船は無い。
『バイパー01から12、発射位置へ進出。コレより攻撃態勢、誘導頼む。』
新たな通信が入るが、かき消す警告にCIC内が反応する。
『コチラ艦橋、BB-1、-2進路そのまま。主砲がコチラを指向しています。!BB-2発射炎を確認!』
「おもぉかーじ!35度」
『了解!おもぉかーじ!!35』
交差するお互いの進路が、すれ違いの平行になる。後続のきりしまも続く。
お互いの側面を晒し始め、反航戦に変わる、距離は18kmを切り徐々に接近してゆく。
ゆっくりと敵戦艦の第一主砲の4連装砲が我々を追尾しているのが解る。
旋回した海面、我々の航跡波を数本の水柱の束が叩く。
進路そのままの未来位置だ、相手の砲手は優秀な様子だ。
「弾種撤甲、目標、敵先頭艦艦橋!FCS自動追尾。オールウェポンズフリー。」
「オールウェポンズフリー了解!ハルマゲドンモード!!」
「敵BB-1、発砲炎を確認!」
「主砲、撃ち方始め!!」
「うちーかーたはじめ!!主砲発砲!」
砲術長が叫び、砲術士が引き金を引く。
船体が爆発して全ての武器が放出される。
脅威度の高い敵砲弾に船尾のSeaRAMが発射されている。
艦首の20mmの閃光弾が描く光の線が空中で何かに当たり間抜けな放物線を描く。
青い空に盛大な白い固形燃料ロケットの発射煙が影を作る。
空中で何かが爆発するが確認は出来ない。
直後に船体に何かが当たる振動を受ける。
主砲が毎分40発で白い煙を吐き。
空薬莢が艦首甲板を跳ね回る。
FCSで敵目標に固定された砲身は高速に動き回り、着弾確認を前に照準が側面兵装に切り替わる。
遅れて敵戦艦の艦橋に命中弾が炎を上げる。
『こちら艦橋、敵戦艦、進路変更、方位165度、距離15Kmすれ違います!』
「了解!敵副砲の射程圏内だ。13cm砲でも当たると大損害だぞ注意しろ!」
艦橋は破壊したが戦艦は未だ生きている。
目が無くなった戦艦。未だ戦闘意欲を失っていない。
巨大なBB-1の側面に”こんごう”の127mm砲弾の花が咲く。
続くきりしま、一瞬で戦艦とすれ違う。
きりしまの砲弾は砲塔に集中しているが、やはり330mmを抜く事が出来ない様子だ。
但し、HE弾(榴弾)混じっているのか、甲板上を耕している。
旋回角度が最大になると追尾が終わり、一瞬で次の戦艦の艦橋に砲が指向される。
砲身冷却装置の水が甲板を跳ねる。
更に吐き出される空薬莢達。
BB-2に砲弾が集中する。
こんごうの船尾方向に新たな水柱。
BB-1の船体副砲からの攻撃だ。
お互い30ノット以上出ているのですれ違いは一瞬で相手の主砲塔の回転が追いついてこれない様子だ。
きりしまの砲弾が命中して船尾砲塔が沈黙する。
『こちら艦橋、左舷、D4、発砲。至近弾!』
左弦前方に新たな水柱が上がっている。
近いが損害は無い。
その先には傾斜している駆逐艦の一隻。
コチラに砲を指向している。
発射速度は遅い。
モニターの望遠画像には、艦首の防盾の影に水兵が動いているのが解る。
死にかけの艦だが、未だ残っている水兵達は戦闘意欲があるのだ。
船は沈むまで戦闘ができるのだ。
「主砲、目標変更、D4」
「主砲目標変更、撃ち方始め!!」
「うちーかーたはじめ!!主砲発砲!」
ゲームの様にミサイルが当たったら終わりではない。
だが砲は当たるが敵の戦意を削ぐ事が出来ない。
「短魚雷用意!」
戦闘指揮官が叫ぶ。
「へ?はい!短魚雷用意せよ!」
本来は対潜水艦用だが水上艦を攻撃できない訳では無い。
通常はやらない。
味方の艦に当たる場合が有るのだ。
コチラの砲弾が駆逐艦(D4)の艦首に吸い込まれる。
何かが飛び散る。
「三連装短魚雷、発射準備完了!」
68式三連装短魚雷発射管(HOS-303)残念だがコレが唯一の人力兵器だ。
「後続のきりしまに警告送れ。」
「了解!きりしま、送ります。」
戦闘指揮官が息を吸い込みモニターに写る駆逐艦を見る。
死にかけだが止めを刺すのだ。
「…。」
戦闘指揮官が息を吸い込み吐き出す前に、モニターに移る駆逐艦が閃光と炎に包まれる。
『こちら艦橋…。目標、D4爆散。』
「爆散?弾薬の誘爆でしょうか?」
「その様だな…。魚雷の誘爆かも知れん。」
PBX爆薬は誘爆しない。
酸素魚雷か、砲弾の誘爆だろう。
いや、アメリカ軍の魚雷は伝統的に電動モーター推進だ。
まさか未だ炸薬がTNTじゃないよな…。
「D4、通過します。BB-1、-2速度低下、進路そのまま。敵の砲撃が散漫になりました。」
炎に沈みつつあるD4を通過する。
完全に戦闘能力は無くなった様子だ。
炎の向こうでも全身に炎を纏う戦艦の動きは遅い。
そのまま直進して旋回しようともしていない。
水平線に消えつつあるが、モニターには二隻共、黒い煙と火災を起こしている様子だ。
「あの…。短魚雷、どうしましょうか?」
「あー、収納してくれ。いや、収納後、魚雷員は退避位置でそのまま待機。」
バツが悪そうになる戦闘指揮官。
「宜しいですね…。艦長。」
「了解…。」
「ダメージコントロール…。破片により軽微な損傷を認める。応急作業開始します。」
「了解。」
モニターの上の船体には小破の文字が並ぶが…。
対応不能を示す表示は無い。
皆が自分の作業に没頭してCICの中が無言になる。
ダメージコントロールレポート、オールグリーン。
”破片による小破口を多数認めるも航行に支障無し”
ため息を付く。
「やはり戦艦は沈まんな。」
偵察ドローンからの映像、目標に炎の中に閃光と煙が霞む。
何かが誘爆しているのだろう。
現在は敵艦隊から急速に遠ざかっている。
戦闘結果では、コチラの放った8発のSSMは全て目標に命中した様子だ。
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BB-1、SSM8発命中。短魚雷最低1発、127mm砲多数。
BB-2、SSM6発命中。短魚雷2発、127mm砲多数。
CA-1短魚雷2発命中。艦首切断、停船。傾斜中。
CA-2SSM2発命中。短魚雷1発命中。停船、横転。
D1短魚雷最低1発命中。轟沈。
D2短魚雷1発命中。艦首消失、傾斜中。
D3短魚雷1発命中。艦尾より傾斜中。
D4短魚雷1発命中。127mm砲多数。火災発生傾斜中。
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反航戦を行った戦艦は戻ってこない。
BB-1には砲弾多数とこんごうの短魚雷が2発は命中したはずだ。
我々は弾薬も殆ど撃ちつくした。
全てが終わったのだ。
「目で見えると言う戦闘は衝撃的だな。」
速度低下はしているが未だ健在の戦艦。
「はい…。全てはモニターの向こうの数字ですから。」
同じモニターを覗く戦闘指揮官。
「残念だが我々の仕事は終わった。用具収納開始。進路変更、戦闘海域から脱出する。対空監視厳とせよ。」
「はい。撤退。」
『用具収納開始』
「待ってください。未だ30分も経っていません。」
時計を確認する、最初の発砲から確かにその程度だ。
「申し訳御座いません、このフネは全ての弾薬を撃ち尽くしました。仕事が終わったので帰還します。」
「まだ。戦争は始まったばかりです。」
「判っています。」
「では敵を前に逃げるのですか?」
「いえ、我々の仕事が終わったダケで。未だ仕事の始まっていない者は居ます。彼らに交代するのです。」
我々のレーダーは起動して通信が復活している。
モニターの向こうの友軍の仕事が始っている。
青いバックのモニターに発射済みのマークから、記号の上の兵器が進んでいる。
こちらの情報は全て送った。
我々は彼らの邪魔に成らない様に下がるだけだ。
100km向こうの空では白い煙の跡が青い海に低くコチラに向かって走っているはずだ。
「これからは空軍の仕事です。」
雷撃隊が仕事を始めている。
航空ドローンの映像で戦艦に着弾するのが解る。
『目標、着弾を確認、バイパー01から12へ君達のFOX02は全て目標に着弾した。』
J-WACS501からの通信だ。
『ヒャッハー!コチラ、バイパー01ありがとう。送り狼は居ないようだ。バイパー13に引き継ぐ。』
『了解、バイパー13聞こえるか?』
『こちら、バイパー13。攻撃開始位置に付いた。目標の誘導頼む。』
F-2戦闘機は対艦番長。
残念なのはコレが最後の花道で、93式の在庫一掃セールなのだ。
三沢基地から発進したF-2は空中給油を終え。
J-WACS501とこんごう、きりしまの誘導により全ての荷物を放出した。
後は二つの600ガロンタンクを抱いたまま帰るだけだ。
帰還したヴァイパーゼロ達は着陸後、休憩室で自分達の戦果を知り歓声を上げた。
そして、再装填の後、出撃を行った。
彼等の仕事は敵戦艦の撃滅なのだ。
(´・ω・`)…。(米倉さんに熱い風評被害。)
(´・ω・`)ファランクス開発時は標的ミサイルが勿体無いので廃船の標的艦に取り付けて、巡洋艦から20cm砲を叩き落とす実験を繰り返していました。
(´・ω・`)…。(たぶん、戦艦の主砲も落とす事ができると思う。)但し、破片で無事ではない。




