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公爵令嬢の寄り道  作者: 月圭
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王都の路地裏にて~支配者の降臨~

お久しぶりです。

今回はごろつき(?)お兄さんズの小話。

完全にふざけ路線一直線。


どうしてこうなった。


 この国は恵まれている。


 王は賢帝と名高く、治世も安定している。物資も豊かで魔術師も常駐。目に見えて大きな不安を抱えてはいない。


 それは、周りの国々からうらやましがられるほどである。


 ――だが。


 そんなこのメイソード王国の、昼間にはにぎわう王都にも、陽が沈めば、闇は生まれる。いや、光があるからこそ闇もあるというもの。


 歓楽街に娼館。夜の蝶達が客引きをはじめ、警邏隊に死角ができる時間……。

 それが、俺たちの活動時間だ。


 ――こんな国にも、『膿』はある。落ちこぼれもな。


 俺たちはみんな、この豊かでおきれいな国に産まれた落ちこぼれ。明るい場所での仕事もなく夜を徘徊し、真っ当な人間を食い物にする。


 十人、二十人。始まりはそんなもんだったか。いつの間にか勢いを増して、今じゃあこの王都では最大の派閥になっちまった。


 どんなくずにも、カミサマってやつは才能を与えるのかねえ。

 俺にはどうやら、馬鹿どもを纏める程度の才はあったらしい。


 俺たちの仕事は盗み喧嘩かっぱらい、放火に強盗、強姦人さらい……。金になる事なら何でもやる、そんな凶悪集団。悪い方に有名で、大っぴらに口に出すやつはいねえが知らないやつも、いない。


 この町の夜を牛耳る俺たちに、逆らった奴らは、みんな消してきた。







 ……って、言ってみたかったです、人生に一回ぐらい。

 いや、マジで。


 イタい奴だって? 判ってるわそんなもん。でも憬れるじゃん。悪ぶりたいじゃん。

だって、いい歳こいて仕事ないニートです、お友達と夜毎に徘徊して弱い者虐めしてるヒモです☆ ……とかって言える? 言えねえだろ? なんかもう言った瞬間無言で目を逸らすだろ? うるせえ、どうせ未だに母ちゃんにお小遣いもらってるわ! フライパンでケツ叩かれて朝には叩き起こされてるわ! 頭上がんねえよ母ちゃんマジ神。


 はい、ヒモです。そしてチキンです。チキンの集団です。


 大それた犯罪犯す度胸なんてありません、カツアゲが精々です。


 三十路に片足突っ込んで絶賛ニート無職だよちっくしょう。笑いたきゃあ笑いやがれ泣くぞ、泣くからな! 俺たちのメンタルの弱さ舐めんな! そのくせ救いようのないアホなんだからな? 手におえねえぞ?


 今も子分共の喧嘩の内容なんだと思ってんだ? うちの母ちゃんの方が怖いんだからなうわああああんって殴り合ってんだぞ、この驚きの低レベル! 重ねた年齢が何の意味も持たない豆腐メンタル精神年齢ガキ以下!


 やめて、冷たい眼で見ないで、母ちゃん見捨てないで……!


 ……とか、思ってた。世間の目が痛くて泣きそうだった――あの日までは。


 そう、あの日。あの夜も、俺たちは懲りずに街を徘徊して、母ちゃんと父ちゃん(と、俺の場合は妹夫婦)の冷たい視線から逃げていた。やめてイタイ、その視線刺さる、急所に刺さるっ! ってな感じだから家に長くいられないんだ、可哀想だろ。そろそろ金回りが苦しくなってきてたもんで、カツアゲを勇気を出して決行してみよう、とかいってはいたけど。言ってただけだな、チキンだから。


 けど、だ。


 俺たちの前に、ふらっと現れた女がいやがったんだよ。

 ……いや、女っつうか、ガキか。


 まだ十幾つくれえの餓鬼。女は女だったけど。ドレスを着てたしな、お貴族様かって感じの上等なやつさ。


 世間知らずのお嬢様か?


 俺たちはそんな風に思って……


『貴族=金持ち』。

『女の子=カヨワイ』。


 そんな図式が頭の中に出来上がった。

 後先考えぬ馬鹿である。


 いやまあ、何はともあれ、今夜カツアゲのターゲットを、そのガキに決めたわけだ。この時点で既に勇気を振り絞っていた俺たちは何処までもビビりである。だってチキンなニートだもの。


 でも、近づいたは近づいたわけで。


 ……ああ、うん。

 今思えばアホにもほどがある。


 いや、マジで。マジで。

 あの時の俺たちに言いたい。


 っっっ逃げろおおおおおお! 全身全霊で裸足で逃げろおおお!

 お前らあほかああああ! 自ら地獄に近づくなあああああ! 危機察知能力磨いとけええええ!

 この世には母ちゃんより怖いもんだってあるんだよおおおおお!


 と。


 ……いや、まあ、なんというか。

 俺たちは地獄を見ました。


 ふらふらとうつむいて歩く彼女に手を伸ばした、次の瞬間だ。

 にっこりと。

 めっちゃ輝く笑顔。しか、覚えてない。あ、この子超美人、とか思ったアホな俺。

 それ以外は何が起こったかわからん。気づいたら両手両足正座状態に縛られてた。


 何が起こった。


 いやいやいや。

 何が起こった。


 気づけば輝く笑顔の超絶美少女が芋虫な俺たちの前で仁王立ちしていた。仁王立ちなのに気品があふれるって何? なんなの? 風格? 支配者の風格ですか?


 つか待ってやばい、チキンの、ヒモの危機察知センサーが、今更ながらに赤々と警鐘慣らしてる!


 おっせえよおおお!


 驚愕で口をパクパクさせているうちに、鈴を転がすような声で少女は言った。


「ほ・か・く☆」


 やだ、怖い。


 え、なにこれ実験されるの、俺たち捕獲対象動物だったの?


「てててててっめえ、だだだだだだれにくくく、口きいてやが……うごお!?」


 後ろから子分がめっちゃ震えてなんか言ったけど途中で途切れた。

 せっかくの勇気が!


 何があったの? なあ何があったの?

 振り向くの怖い!


 目の前の美少女がめっちゃ笑ってるしっ!


「あっはは、君には聞いてないから黙っててくれるかなあ?」


 目が笑ってない。


「……な、んな、いいいいいいうこと聞くわけねえだろうがあああっ!」


 こここ、怖くないもん! と涙声な子分。『もん』て。気色悪くて普通はドン引きする。普通は。


 が。


「うるせえな黙ってろもぐぞ」


 何を!?


 え、まって、ちょう逃げたい。


 結論から言うと逃げられなかった。しかも叱られた。


 ごめんなさいとマジ泣きするやつ続出。この豆腐メンタルめ!

 ヒモだしニートだしチキンだしアホだし馬鹿だし豆腐メンタルだし親のすねかじってないで働かんかいこのボケ集団がと懇切丁寧に叱られた。


 笑顔で。


 父ちゃんの雷より、母ちゃんのマジギレより怖いものってこの世にあったんだ……。笑顔なのに社会のごみを見る目ってなんでそんな器用なこと出来るんだよ。


 てか、なんでこの子俺らがヒモニートって知ってんの、ていうか本名素性筒抜けなの、とか思ってたら各親からリークされてたと美少女が暴露。


 まさかの裏切り。

 まさかの共謀。

 お母ちゃあああああん!


 ていうか夜が明けてきたんですけど!? うあああああ、正座なんてもう二度としたくない。足が、足がアアア!


 しかもだ。

 これだけで説教は終わらなかった。


 泣きべそかいてる豆腐メンタル三十路集団の中にも、メンタルが木綿豆腐なやつはいたからだ。


 金髪ロンゲな奴は何と、ちょびっとだけ口答えしたのだ、美少女に。


 一瞬だけ尊敬のまなざしを集めたそのロンゲ。

 次は全員絹ごしでお願いしますと心底後から思ったけど。


 だってそれ聞いて、美少女は超笑顔で手になんか出したんだぞ。

 嫌な予感しかしないだろ。


「……ソレハイッタイナニデゴザイマショウカ、オジョウサマ」

「ん? 脱毛剤」

「……ダツモウザイ?」

「脱毛剤☆」


 そして美少女、ロンゲにそれをぶっかけた。

 ばっしゃばっしゃと。


 笑顔で。


「あばばばば、なななな、何しやがる……⁉」

「あっはは、はい、いっかーい」


 悲鳴に笑って、ピッと少女、指で合図。

 次の瞬間。



 ……パラ……



 と、舞ったもの。

 それは……

 何やら怪しげな液体をぶっかけられた子分の……



 髪。



「へ?」

「にかーい」


 ぴっ。

 パラパラ……


「うおおおおおお!?」


 阿鼻叫喚であった。

 て、いうか。


 っ毛ええええ!

 毛がああああ!?


 やめて、やめてあげて!?

 禿げる、禿げちゃうからアアア!


 何この子、三十路のオニイサン達の繊細な毛根事情なんだと思ってんの!?


「あははは、素直にならないとつるっといっちゃうぞう☆」


 ぴっぴっ!

 パラパラぱらら……


「いやあああああ!?」

「ははははは」


 美少女は、鬼だった。


 とか思ってたらこっちに視線が。

 震えあがった俺を含め一同。


 にっこり笑われたので、へらっと返す。


 と。


「一本、いっとく?」


 いいいい―――――やああああああ――――――!

 お、お母ちゃああああん!










まさかの母の裏切り。

世間話ついでに「うちのムスコがねえ」と愚痴った井戸端会議、なぜかさり気にちゃっかり参加していたシャロン。


お兄さんたちはシャロンに教育されたのち、強制就職させられました。

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